劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この人の口調、難しい……


IF婚約者ルート技術者編 その2

 深雪に事情を説明して納得させ、達也は鈴音と小春を引き連れて開発第三課へと向かう事になった。

 

「ところで、彼女は達也さんがシルバーであることは知っているのですよね?」

 

「彼女って、小百合さんですか?」

 

「ええ。深雪さんの継母に当たる人です」

 

「当然知っていますよ。知っていてなお、嫉妬してくるんですから、相当自分の腕に自信があったのか、その逆なのか、でしょうね」

 

 

 達也は小百合が技術者として大したことが無いのを知っているが、鈴音と小春にその事を教える必要は無いだろうという事で言葉を濁した。

 

「シルバーと知ってなお敵対しているのでしたら、相当な腕の持ち主なのでしょうね」

 

「今度会えたらその技術を見せてもらいたいですね」

 

 

 どうやらいい方に取られたようだと、達也は鈴音と小春の人を疑う事のない心を少し羨んだが、もちろん表情には出さなかった。

 

「ここが開発第三課です。立地も悪く交通の便が悪いので、本部からは左遷先として扱われていたんですけどね」

 

「そうなのですか? 先ほどのやり取りを聞く限り、ここが業績の大部分を占めているように思えましたが」

 

「そりゃ、御曹司が来てから、ここの部署の業績はうなぎのぼりですからな」

 

 

 突如声を掛けられて、鈴音と小春は驚いたように振り返り、達也は軽く手を挙げてその声の主に挨拶をした。

 

「牛山さん、この人たちが先ほど連絡した見学希望者です」

 

「御曹司の婚約者の内の二人ですかい……なるほど、かなりの技術者になりそうな雰囲気はありますねぇ」

 

「元々本部長の奥さんが引き抜こうとした人材ですからね。将来性は高いと思いますよ」

 

「本部長の奥さんが。そりゃ逸材かもしれやせんね」

 

 

 先ほどからじろじろと見られているが、不思議と不快な思いはしないと感じていた鈴音と小春ではあったが、さすがに何回も見られ続けると複雑な思いが芽生え始めた。

 

「それじゃあさっそく中を案内いたしやすぜ。御曹司は例の件の確認をお願いしやす」

 

「分かりました。それでは先輩方、後はご自由に」

 

 

 そう言い残して達也は一人で研究施設の中に消えていった。残された鈴音と小春は、目の前に残った牛山に疑念の視線を向ける。

 

「そう怒らねぇでください。あっしは御曹司の手下一号の牛山と言います。名目上は第三課のトップという事になってやすがね」

 

 

 そういって頭を掻く牛山に、鈴音は今の言葉の中にあった矛盾を尋ねる事にした。

 

「達也さんの手下なのに、名目上のトップですか?」

 

「まぁ、いろいろとあるんでさぁ……御曹司が本部長やその奥さんから疎まれてるのは知っているんで?」

 

「先ほどのやり取りでだいたいは」

 

 

 視線で小春にも問いかけ、頷いて答えた小春に満足そうな笑みを見せ、牛山は説明を続ける。

 

「あっしらも最初は本部長のコネでここに出入りし始めた御曹司に良くない思いを抱いていたんですが、あっしらはその天才的な頭脳を目の当たりにしてますからね。間違ってもあっしらの手柄を横取りされたなどと思いやせんし、ループキャストや飛行魔法、完全思考操作型CADと、御曹司がいなければあと何年先になったか分からない技術を世に出されてきたのですからね。本部長たちもその事は知っているはずなのですが、まぁ本家の考えがあったから仕方ないのかもしれやせんけど」

 

「牛山さんは、達也君の事を知っていたんですね」

 

「まぁ、お姫様が次期当主になるもんだと思ってやしたが、まさか御曹司がなるとはねぇ」

 

「お姫様って、深雪さんの事ですよね?」

 

「へぇ、そうですが」

 

 

 当たり前のようにその呼称を使う牛山に、鈴音は苦笑いを浮かべたが、確かに深雪なら似合っていると思い直し、その思考を一旦放棄する。

 

「達也さんの事情はおいそれと外に漏れる事のない程厳重に管理されていたはずですよね。何処で知り得たんですか?」

 

「本部長の前の奥さんが四葉の人間だったという事は、あっしらは知っていましたから。まぁ、知り得たのは本当にたまたまで、本部長から固く口止めされていたので、若い連中は知らねぇですけど」

 

「そういう事でしたか。しかし、御曹司にお姫様、ですか……似合い過ぎてる気もしますね」

 

「御曹司は最初嫌味で言い始めたんですけどね。今では尊敬の意味しかないですが。おっと、いい加減中を案内しやしょうかね。何時までもこんなところで立ち話をしていたとバレたら、御曹司にどやされてしまいますから」

 

 

 急に話題を変えた牛山に疑問を覚えたが、確かに何時までもこのような場所で立ち話をしていては時間がもったいない。そう考えた鈴音と小春は素直に牛山に案内してもらう事にしたのだった。

 

「案内といっても、本部のように真新しいものなどなにもありやせんがね」

 

「ですが、FLTの中でここが最新技術を生み出しているのは間違いないようですし、見て損するとは思えませんが」

 

「そういってもらえるのはありがてぇですが、それもほとんどが御曹司の手柄ですからねぇ。もちろんあっしらもお手伝いはさせていただいてやすが」

 

「達也君は、一人では何も出来ないと言っているそうですけど」

 

「御曹司は謙虚なお方ですからね」

 

 

 達也が謙虚だと称され、鈴音は思わず吹き出しそうになった。間違っても謙虚と称されることは無いだろう性格だと知っているからこその反応だが、牛山も小春もそのことは気にしなかった様子だった。

 

「ところで、達也君は今どんな研究をしているのですか?」

 

「中心となっているのは恒星炉の研究ですかね」

 

「昨年、民権党の神田議員を撃退するときにした実験ですか」

 

 

 その話題に鈴音も興味があったので、すぐに表情を改めて二人の会話に加わったのだった。




ほんと達也は第三課で人気だなぁ……

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