達也が敵と戦ったと聞かされ、雫は彼女にしては珍しく語気を強めて達也を問い詰めている。
「達也さん! 今回は危ない事はしないって言ってたじゃん!」
「俺一人で戦ったわけじゃないんだし、そこまで危なくはないだろ」
「そうかもしれないけど! 何も出来ないで待たされる私たちの身にもなってよ」
雫の背後ではほのかも顔を蒼ざめさせている。恐らくは桐原たちから達也も戦っていたという事を聞いたのだろうが、達也は結局まともに交戦していないのでそこまで心配されることも無いのだ。
「すまなかったな」
「本当に悪いって思ってる?」
「ああ。嘘偽りなく思っている」
「それじゃあ、この後私の我が儘に付き合ってもらうよ」
「……それで雫の気が収まるなら」
達也としてはそれくらい問題ないのだが、深雪が少し複雑そうな表情を浮かべたので、応えるのに少し間が出来たのだった。
「それじゃあ、今はパーティーをだらだらと過ごそうか」
「いいのか? 主賓の娘としては、いろいろと付き合いがあるんじゃないのか?」
「私なんかに興味がある人は殆どいないよ。いたとしても、私を介して達也さんと話したいって思ってる技術者とかだと思うし」
雫の言葉に、達也はそんなこと無いだろうと思ったのだが、深雪とほのかが大きく頷いているのを見るに、相当数の大人が達也に声を掛けようとしているのだろう。
「そういえば、五十里先輩たちの姿が見えないが」
「それは私も知らない……深雪は? 何か知ってる?」
「いえ、詳しい事は何も……ただ、何か事件に巻き込まれたとは噂で聞いたけど、それがどの程度の事件なのかは分からないわ」
深雪の言葉に、雫とほのかは思い当たることは無かったが、達也はそれだけで五十里たちが巻き込まれた事件が何なのかを察し、それ以上聞くことは無かった。
「抜け出してのんびりしたい」
「雫、一応主賓なんだから……」
「それはお父さんで、私は付き添いだもん。いなくても問題ないと思う」
「そうすると、航くんが可哀想じゃない」
「ん……」
雫も弟には甘いようで、ほのかに航の名前を出され大人しくなった。そんな姿に、達也と深雪はそろって笑みを浮かべたのだった。
パーティーが終わり、真夜への報告を済ませた達也の部屋に雫がやってきた。
「達也さん、さっきの約束、覚えてる?」
「さすがにこの短時間で忘れる程物覚えが悪いわけではない」
「冗談。達也さんが物覚えが悪かったら、世界中の殆どが物覚えが悪い事になっちゃうよ」
達也の言い回しが面白かったのか、雫は幸せそうに笑う。達也も雫につられて笑みをこぼすが、すぐに表情を改める。
「それで、こんな時間に何の用だ」
「達也さんと一緒に寝たい」
「一緒にというのは、どういう状況をさすんだ?」
「一緒のベッド――とはさすがに言わないよ。同じ部屋で寝たい。ダメ?」
「そのくらいなら別に構わないが」
「じゃあさっそく」
雫は達也が使っていない方のベッドに飛び込み、そのまま寝息をたて始める。
「随分と早いな……よほど疲れていたのだろうか」
もちろん狸寝入りなのだが、達也はあえてその事に気付かないふりをしてシャワーを浴びるために移動した。達也の気配が側にない事を確認して、雫はゆっくりと立ち上がり達也のベッドに移動する。
「これくらいなら大丈夫だよね……」
ゆっくりと音を立てないように移動し、達也が使っているベッドに潜り込む。
「深雪やほのかにバレたら怒られるよね……でも、誰もいないし、私が口を滑らせなきゃ誰にも知られない」
「どうだろうな。深雪は鼻が良いから、雫から俺の匂いがしたら気づくと思うぞ」
「っ!?」
誰もいないはずの部屋で呟いた独り言に返事があった事にも驚いたが、それ以上に達也が怒っていない事にも雫は驚きを覚えた。
「怒らないの?」
「これくらいで腹を立てることは無いだろ。ちょっとした悪戯程度だと思うが」
「達也さんは寛大だね」
「さすがにそのまま寝られたら困るが、それほど気にする事ではないと思うぞ」
「深雪に知られたら凍らされちゃうかな」
「さぁな。最近はだいぶ落ち着いてきたから、いきなり攻撃してくることは無いとは思うが」
「うん。前ならすぐに魔法を発動させてたかもしれないもんね」
自分も婚約者になれた、という事で深雪は無意識に魔法を発動させる回数が減ってきている。もともと達也の封印に自分の魔法力を割いていたから無意識に魔法を発動させていたのだが、最近はそれが理由ではなく彼女の機嫌が悪くなると辺り一面が凍ってしまうのだった。
「もし深雪にバレても、達也さんは守ってくれるよね?」
「魔法が絡まない限りは、雫の自己責任だろ」
「そうだけど……深雪やほのかと気まずくなりたくないから、何かあったらお願いします」
「やれやれ……」
どちらかと言えば、その二人にバレたら大変な目に遭うのは自分ではないかと思いながらも、達也は雫の願いを聞き入れる。自分の周りで険悪な空気を纏われたら達也も気にならないわけではないし、深雪やほのかもベッドに入りたいと言いかねないので、この事は絶対にバレないようにしなければと固く決意する。
「………」
「雫?」
「す~……」
「今度はほんとに寝てしまったようだな」
規則正しい寝息を聞き、達也は苦笑いを浮かべながら、雫を自分のベッドから隣のベッドへ移動させるべく抱き上げる。
目が覚めた雫は、ベッドを移動している事に疑問を覚え達也に問い、寝てしまった事を後悔したのだった。
お姫様抱っこ、雫はしやすいでしょうね……