劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この人は初めてかもしれない……


IF夢姉妹ルート その1

 誰に遠慮することも無く達也と接する事が出来るようになったとはいえ、同じ家に住んでいないというのは真夜にとってはかなりの苦痛であった。実は達也がまだ中学生になったばかりの頃四葉家に引き取ろうとした事があったのだが、その時は姉の深夜に邪魔をされたのだ。

 

「葉山さん、たっくんをこの家に呼び寄せる方法はないかしら」

 

「一番手っ取り早いのは、達也殿に当主の座を譲るという事でしょうが、達也殿は大勢の婚約者がおります故、当主の座を譲ったところで一年はこの屋敷には来られないでしょう」

 

「そうよね……わざわざ新居を用意させているのに、必要なくなったでは困るものね」

 

 

 主に困るのは用意してきた四葉の従者たちなのだが、一応自分の命令で用意させたのだから、少しくらいは使ってもらった方が良いだろうと真夜も考えている。

 

「姉さんもいなくなり、たっくんが私の息子だと公表したのに、一緒に住めないのはつらいわ……せめて夢にでも出てきてくれればいいんだけど」

 

「昔からよく言われている方法を用いては如何でしょうか?」

 

「枕の下に写真を入れて寝る、ってやつ? それならとっくにやってるわよ」

 

 

 隠し撮りしてきた写真を枕の下に潜ましたりしても、真夜は達也の夢を見る事が出来ない。ここまでくると誰かが邪魔をしているのではないかと疑いたくなるほど、真夜は長い事達也の夢を見る事が出来ていないのだ。

 

「やっぱり司波家に押し入って一緒に生活するしかないのかしら」

 

「奥様のお気持ちを優先してさしあげたいところですが、四葉家の当主が本家不在ですといろいろと問題が起こる故に……特に今の時期、スポンサー様の意思もございますので」

 

「とっくに関係なんてないのに、あの方の血筋が四葉家内に残っているからね……遠縁でも残っている限りスポンサー様のご意向には逆らえないものね」

 

 

 つまらなさそうにカップを指ではじき、真夜は自室で休む事にした。

 

「それじゃあ葉山さん、おやすみなさい」

 

「お休みなさいませ、奥様。良い夢を」

 

「たっくんさえ出てきてくれれば、私にとって良い夢なのよね……それ以外は見ても見なくても同じだもの」

 

 

 心底つまらなそうに呟く真夜に対して、葉山は恭しく一礼して部屋を去った。

 

「さてと、今日はどのたっくんの写真にしようかな」

 

 

 未だかつて達也の夢を見る事が出来ていないが、それでも真夜は達也の写真を枕の下に潜ませることを止めなかった。

 

「もしかしたら見られるかもしれないもんね。それじゃあ今日は……この写真にしよう」

 

 

 かつて姉から送られてきた家族写真、その隅に小さく写っているだけだが、真夜はこの写真も大事に保管していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時もであれば寝て気がつけば朝になっているのだが、今日はいつもと感じが違う。真夜はここが夢の世界なのではないかと考え、ゆっくりと目を開いた。

 

「ここは……」

 

 

 少なくとも自分の部屋ではない。見たことも無い空間に心を躍らせながら、真夜は達也の姿を探した。

 

「ここが夢の世界だというなら、きっとどこかにたっくんがいるはず」

 

 

 現実世界でなら達也が側にいるのであれば五感で察知する事が出来るが、どうやら夢の中ではその能力は使えないらしいと、真夜は歩き回ることで達也の事を探す事にした。

 

「……何故貴女がここにいるのかしら?」

 

「あの写真には私だって写っているのだから仕方ないのではなくて?」

 

「もしかして、ずっとたっくんの夢が見られなかったのは、貴女の仕業なのかしら? ――姉さん」

 

 

 散々願った達也ではなく、真夜の夢に出てきたのは双子の姉、司波深夜だった。代理出産を引き受けてくれた時は真夜も嬉しかったが、その後達也が自分の許にやってくることは無かった。力を封じられ、四葉家内に居場所がない事にされ、従者や分家の当主たちに見下される立場に甘んじる事を強いてきた姉が、今日夢に現れたのだ。とても穏やかではいられない。

 

「別に貴女が達也の事をどう思おうが私の知った事ではありません。ですが、必要以上に甘やかすのを看過するわけにもいきませんから」

 

「息子を甘やかして何が悪いというのかしら? 姉さんは必要以上に達也の事を貶めようとしていたから、その分私が達也を甘やかすのよ、母親としてね」

 

「私だって、本当なら達也の事を自慢したかった! 世界を壊す事も救う事も出来るのはあの子だけ。すべての魔法師の天敵となれるのもあの子だけ。そんなすごい息子を自慢したくない親が何処にいると思うのかしら?」

 

「あの施術の所為、とでも言いたいのかしら? 姉さんは進んでたっくんを被験者にしようとしてたのは、たっくんから感情を奪い去りたかったからでしょ? その反動で、姉さんはたっくんに対する愛情を失った」

 

「あの子に強い感情が残っていたら、表の世界にあの子を出してあげる事が出来なかったのだから仕方ないじゃないの! 完全に成功していれば、あの子は感情を失うことなく魔法力をコントロール出来る力を手に入れられたはずなのに」

 

「つまり、姉さんが失敗した所為でたっくんは感情の殆どを失い、姉さんはたっくんに対する愛情を失ったのね。姉さんに関していえば自業自得じゃない」

 

「達也は生まれてから、深雪さんは生まれる前から調整されたのよ? 少しくらい生みの親に対する慰めとかなかったわけ?」

 

「たっくんも深雪さんも四葉には必要な子だもの。多かれ少なかれ四葉の魔法師は身体を弄られているのだから、それくらいで悲劇の母親を気取られても困るのよ」

 

 

 夢の中とはいえ、やはり深夜とは仲良くできないと、真夜はまだまだ言い足りない気持ちを抱いていたのだった。




夢の中でも険悪ムード……

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