劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この二人に無理矢理出番を……


IFショタルート その1

 風紀委員の仕事も無く、修行も一段落した幹比古と、美術部が休みで暇を持て余していた美月は、誰に邪魔をされるでもなく二人きりで出かけていた。所謂デートなのだが、二人にはそういった感情は無く、ただたんに友達と遊びに出かけている感覚だ。

 

「今日は良く晴れてくれてよかったね」

 

「そうですね。お出かけするなら、やはり晴れていた方が気分が良いですものね」

 

 

 実に所帯じみた会話だが、二人にはそれが当たり前のように思えているので、急に恥ずかしがるとか、そのような変化は見られない。もしエリカでもいればその事を指摘されて顔を赤らめたかもしれないが、今は二人きりなのだ。

 

「あれ? あの人、どこかで見たような……」

 

「これはこれは、第一高校風紀委員長の吉田幹比古殿ではありませんか」

 

「えっと……?」

 

「これは失礼。私、四葉家で執事をしております、葉山と申します」

 

「あぁ、達也の……」

 

 

 一度だけ遠目で見たことがあっただけなのだが、幹比古は葉山の顔を覚えていたのだ。何故葉山がこんなところにいるのかと疑問に思ったが、彼が連れている男の子の顔を見て幹比古は言葉を失った。

 

「吉田君?」

 

「あの……その子、達也に似てるんですが……もしかして達也の隠し子ですか?」

 

「まさか。達也殿は吉田殿と同い年ですぞ。例え子供がいたとしても、このように大きいはずがないではありませんか」

 

「では、達也の弟ですか?」

 

「いえ、こちらは達也殿本人でございます」

 

「えっ、この男の子が達也さんなんですか?」

 

 

 美月はしゃがんで男の子と目を合わせて話しかける。

 

「こんにちは」

 

「こ、こんにちは……」

 

「お名前は?」

 

「司波達也です」

 

「どうやら本当みたいですよ、吉田君」

 

「柴田さんは、それだけで信じられるのかい?」

 

 

 二言三言交わしただけで、この男の子が達也だと確信した美月に、幹比古は驚きを示す。

 

「だって、嘘を吐いているようではありませんし、じっくりと見れば達也さんそっくりですから」

 

「まぁ、達也に似てるのは僕も思ったけど……ところで、何故達也が子供の姿になっているんですか?」

 

「それなのですが、実は――」

 

 

 葉山は達也に起こった悲劇を幹比古に説明し始める。その間、美月は小さくなった達也とお喋りに興じる事にした。

 

「私は柴田美月です。達也さんのお友達ですよ」

 

「お友達?」

 

「はい。まぁ、達也さんは知り合いとしか思ってないかもしれませんが、少なくとも私はお友達だと思っていますよ」

 

「お姉ちゃんみたいなお友達がいるの?」

 

「(な、なんでしょう……普段の達也さんからは想像出来ないくらい可愛らしいです……抱きしめても良いんでしょうか?)」

 

「?」

 

 

 急に黙りこくった美月を見て、達也は子供らしい仕草で首を傾げる、その姿が愛らしくて、美月は思わず達也を抱きしめてしまった。

 

「うわぁ!?」

 

「おやおや、柴田殿は達也殿とそのような関係ではなかったと把握しているのですが」

 

「ゴメンなさい。あまりにも達也さんが愛らしくて、つい……」

 

「ほっほっほ、構いませぬぞ。達也殿の普段を知っておられる方であれば、この達也殿の愛らしさに逆らえないでしょうからの。では吉田殿、達也殿の事をお任せしてもよろしいですかな?」

 

「えっ!? 僕がですか?」

 

「先ほど話した通り、私めは元凶である九重八雲殿を探さなければならないのです。達也殿の気配察知が使えればよかったのですが、この状態では仕方ありますまい。万が一奥様にこの状況を知られたら、達也殿が大変な目に遭ってしまいます故」

 

「さすがにずっとは預かれません……」

 

「その点は心配なさらずとも、今日中に片をつけるつもりですので。そうですな……午後五時には四葉家の人間が達也殿を迎えにくるでしょうから、それまでお願いできますかの」

 

 

 幹比古は腕時計を確認して、少し考え込む。せっかく美月と二人きりだったのに、思わぬ邪魔が入った、とは思っていない。何しろ、美月が楽しそうに達也の相手をしているのだから、邪魔だとは思えないのだろう。

 

「柴田さんは、それでもいいかな?」

 

「私は構いませんよ。何時も達也さんにお世話になりっぱなしですので、こんな時くらいはお手伝いして差し上げたいですし」

 

「そうだね。僕も達也には世話になりっぱなしだし、これで少しでも恩返しになるなら……」

 

 

 そう結論付けて葉山に預かるという旨を伝えようとしたが、既に葉山の姿は何処にもなかった。代わりに幹比古の端末に、葉山からメールが届いていた。

 

「どうやって僕のアドレスを……」

 

 

 不気味さを覚えながらも、幹比古は葉山からのメールを確認し、達也と目線を合わせるために腰をおる。

 

「えっと、僕は吉田幹比古。達也のお陰で昔の実力以上を手に入れられた、君に救われた一人だ」

 

「救われた?」

 

「君はいろいろな人を救ってるからね。たぶん、そんなつもりは無いんだろうけども。それから、僕たちは君が四葉の人間であることも知っている。だから、そんなに身構えなくても大丈夫だよ」

 

「俺は四葉の人間じゃ……」

 

「達也さんは四葉家の次期当主なんですよ」

 

「俺が……?」

 

「はい」

 

 

 何に怯えているのか、幹比古や美月には分からないが、とりあえず葉山が言う五時まで達也と一緒に過ごす事にしたのだった。




子連れ夫婦に見えなくもない……

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