劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この二人、原作で進展しないのかな……


IFショタルート その3

 手近なカフェに達也と美月を引き連れて入った幹比古は、周りが女子ばかりな事に気付き少し居心地の悪さを感じていた。

 

「達也さんは何を飲みますか?」

 

「そうですね……」

 

 

 美月も達也も特に気にした様子がないのを見て、自分が気にし過ぎなのではないかと思い始めていた。

 

「吉田君は何にしますか?」

 

「えっ? あぁ、僕もコーヒーで」

 

「はい。それじゃあコーヒーを二つとカフェラテを一つ」

 

 

 美月が注文したのは、店員がたまたま美月の隣にいたからで、幹比古側にいれば幹比古が注文した事だろう。

 

「ところで、達也もコーヒーなのかい?」

 

「はい。自分はいつもコーヒーですが」

 

「そうなのかい? まぁ、確かに達也はコーヒーのイメージが強いしね」

 

 

 普段の達也なら気にしなかっただろうが、今の達也は子供の姿だ。その達也がコーヒーを注文したのが幹比古にはちょっと意外に思えたのだ。

 

「ところで、この後はどうしようか? 柴田さんは何処か行きたい場所はあるかい?」

 

「そうですね、達也さんは何処が良いですか?」

 

 

 少しお姉さんぶっている感じがする美月を見て、幹比古はほっこりした気持ちを味わっていた。

 

「自分は何処でも、美月さんや幹比古さんが行きたい場所で構いませんので」

 

「そうですか? でも、私たちも特に目的があったわけじゃないんですよね……吉田君は何処か行きたい場所とかありますか?」

 

「うーん……」

 

 

 幹比古は腕を組んでどこか楽しめる場所は無いかと考える。レオかエリカがいればどこか楽しめる場所を提案してくれるのだろうが、生憎美月も幹比古も付き合わされる側でそういった場所に詳しくはないのだ。

 

「とりあえず、散歩でもしようか」

 

「良いですね。ちょうどお花見の季節ですし、この辺りをのんびりとお散歩しましょうか。達也さんもそれでいいですか?」

 

「はい、かまいません」

 

「達也さん、もうちょっと話し方を柔らかく出来ませんか?」

 

「そういわれましても……普段からこのような喋り方なものでして、普通の喋り方がどのようなものなのか分からないのです」

 

「そうなんですか……大変だったんですね、昔も」

 

 

 現在の達也の大変さとは種類が違うが、昔の達也も大変だったんだなと、美月は思わずしみじみと呟いたのだった。

 

「それじゃあ、迎えが来るまでのんびりしようか」

 

 

 会計は幹比古が全員分払い、三人は店から出て行った。ちなみに、店の中にいた他の客は、幹比古と美月を夫婦、達也を子供だと勘違いしていた人が大勢いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あてもなくぶらぶらとしていたが、思いの外退屈しなかったが、どうしても会話が途切れてしまう。二人きりなら余計にそうだっただろうが、達也が間に入ってもやはりこの二人は進展しないのだ。

 

「達也さん、眠いんですか?」

 

「少しだけ……でも、大丈夫です」

 

 

 先ほどからうつらうつらと舟を漕ぎ出している達也に、美月が問いかける。

 

「無理しちゃ駄目ですよ?」

 

「無理はしていませんが……」

 

「こういう時くらいは私を頼ってください」

 

 

 そういって美月は達也の前に腰を下ろし、そのまま達也を背中で担ぎ上げる。所謂おんぶである。

 

「眠かったらそのまま寝ても良いですよ」

 

「すみません……」

 

 

 どうやら限界だったらしく、美月におぶられてすぐに達也は眠ってしまった。

 

「達也の寝顔なんて見た事無かったよ」

 

「私もです。達也さんは九校戦の時も誰よりも遅くまで起きてましたし、誰よりも早く起きてましたからね」

 

「同室は深雪さんだったし、誰も見た事無いんじゃないかな?」

 

 

 美月の背中で眠る達也の表情を見ながら、幹比古は少し恥ずかしい事を想像――妄想していた。これが本当に自分と美月との間に出来た子供だったらという妄想を。

 

「吉田君? 少し顔が赤いですが」

 

「えっ、な、何でもないよ?」

 

「そうですか? もしかして疲れましたか?」

 

「大丈夫だよ。それよりも柴田さんの方が疲れてるんじゃないかな? いくら子供とはいえ達也をおぶってるわけだし」

 

「大丈夫ですよ。子供らしく、軽いですし」

 

 

 満面の笑みで応える美月に、幹比古はますます顔を赤らめて視線を逸らした。そのタイミングで、幹比古の目の前に一台の車が急停止した。

 

「うわぁ!?」

 

「だ、大丈夫ですか、吉田君」

 

「う、うん……大丈夫だよ」

 

 

 美月に手を差し出されて、その手を反射的につかみ、二人して顔を赤らめて距離を取る。そんな光景を見せられた車の運転手は、盛大にため息を吐いた。

 

「絶賛ラブコメ中の所悪いんですが、達也さんを引き取りに参りました」

 

「貴女は?」

 

「これは失礼しました、吉田家の神童さん。私は四葉家の分家筋にあたる津久葉家の人間で、達也さんの婚約者の一人、津久葉夕歌と申します」

 

「達也の? 失礼ですが、証拠は?」

 

「疑り深いのね。まぁ、今の達也さんの状況を考えれば仕方ありませんね」

 

 

 そういって夕歌はハンドバッグから昔の写真を取り出す。そこには昔の達也と共に、子供時代の夕歌が写っていた。

 

「これでいいかしら? 葉山さんから迎えが来ると言われてたはずだけどね」

 

「達也さんが眠ってしまったのと、葉山さんが犯人を探してる事は関係してるんですか?」

 

「術を解いてもらったんだと思いますよ。だから、達也さんは意識を保ってられなくなったんだと思います。さぁ、後部座席に寝かねてください。そろそろ術が解けて何時もの達也さんに戻るはずですから」

 

 

 夕歌に急かされて、美月は達也を後部座席に寝かせた。ちょうどそのタイミングで術が解けて、二人がよく知る達也に戻ったのだった。




一番お似合いなのに、じれったいです

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