劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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本日達也の誕生日です


番外編 達也からプレゼント

 先ほどまで北山家でわいわいやってきた達也たちは、司波家へ戻ってきて一息ついていた。今日はこの家で過ごす日だったので問題ないが、もしこれが他の誰かと過ごす日だったら大変だっただろう。

 

「達也様、お疲れ様でした。すぐにコーヒーをご用意します」

 

「いや、俺はそこまで疲れていない。むしろ深雪や水波の方が疲れたんじゃないか?」

 

「そのような事は……いえ、確かに疲れたのかもしれません」

 

 

 深雪は達也に迫りくる他の婚約者たちに一線を越えないようにらみを利かせて、水波は給仕や暴走しかけた婚約者たちの世話と、心休まる時間が少なかった。達也が懸念するように二人は疲れ果てている様子が見受けられる。

 

「コーヒーなら自分で用意するから、深雪と水波はリビングで休んでいろ」

 

「達也さまのお手を煩わせるくらいなら……」

 

「これくらい手間だとは思わない。だから水波も休め」

 

 

 短く、だが力強い達也の命令に、水波は従うしかなかった。彼は次期当主で自分はその家に仕える調整体魔法師でしかない。それが自分の立場だと、水波は思い込んでいた。

 

「水波ちゃん、貴女達也様の事をどう思っているの?」

 

「深雪様? 達也さまは私の主で四葉家の次期当主様、それが全てでございます」

 

「嘘ね……水波ちゃんが達也様に向ける視線、あれはまだ私が達也様の妹だと思っていた時期に私が達也様に向けていたものと同じ。抱いてはいけないと分かっていながらもその気持ちに蓋を出来ていないのね」

 

「な、なにを言い出すのですか、深雪様! 私は別に、達也さまに恋心など――」

 

「あら? 私は別に恋心だなんて一言も言ってないわよ?」

 

 

 悪戯が成功したかのように笑う深雪に、水波は力なく肩を落とす。こちらの主にも敵うはずがないと分かってはいたが、こうも簡単に自分の気持ちを曝け出されるとは思っていなかったのだ。

 

「今日は達也様のお誕生日、プレゼントを差し上げるには丁度良い日だと思わない?」

 

「ですが、私は達也さまに差し上げるものなと用意しておりませんが」

 

「あら? 水波ちゃん自身をプレゼントしてあげたらどうかしら? 叔母様は愛人としてなら、調整体魔法師だろうが関係ないと思ってらっしゃるようだし、水波ちゃんになら達也様を任せられるわ。本当なら私も水波ちゃんのように自分を差し上げたいところだけど、私は正式に婚約者として達也様のお側にいる身だもの。抜け駆けしたら今度こそこの家に達也様が戻って来てくださらなくなってしまうものね」

 

 

 深雪は少し悔しそうな表情を浮かべたが、すぐにその表情を消して笑顔で水波の背中を押したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リビングで寛いだ後、達也はこの家にある自室へと引っ込んだ。普段であれば後は休むだけなのだが、今日は部屋に水波がいる。

 

「それで、何か用なのだろ?」

 

「は、はい……本日は達也さまのお誕生日ということですが、私は何もプレゼントを用意していません」

 

「それは別に構わない」

 

 

 達也はいい加減祝われる歳でもないと思っていたのだが、婚約者一同が達也が生まれた日を祝わずしてなんとする、と言わんばかりの勢いでパーティーを企画し、達也もそれに従ったのだ。

 

「ですが、達也さまにプレゼントを渡したいという女性の気持ちは理解出来ます」

 

「水波?」

 

「本家当主の嫁に調整体である私が相応しくない、これは当然の事です。ですが、私は以前から達也さまに恋慕の情を抱いております」

 

「今日はどうしたんだ? 雰囲気に酔ったのか?」

 

 

 珍しく状況が呑み込めていない達也を見て、水波は思わず笑いそうになった。

 

「達也さま、私からもプレゼントさせていただけませんでしょうか?」

 

「だがさっき、用意していないと言っていなかったか?」

 

「はい。ですが、この身を達也さまに贈る――いえ、捧げる事が私からのプレゼントでございます」

 

「……深雪の入れ知恵か」

 

「滅相もございません。この身は元々達也さまの為だけにあるのですから、こうなるのは当然の結果でございます」

 

「………」

 

 

 達也は一つため息を吐いてから、先ほどまでとは違う空気を纏う。場の空気が変わった事に水波も居住まいを正し、正面に達也を見据えた。

 

「実は母上から一つ許しを貰った」

 

「ご当主様から許し、ですか?」

 

「あぁ。実は今日の朝早く、母上から連絡があってな」

 

「ご当主様らしいですね」

 

 

 恐らくは誰よりも早く達也の事を祝いたかったのだろうと、水波にも真夜の行動の理由は推察できた。

 

「何でも一つ願いを叶えるというプレゼントをされてな。それならとお願いしたんだ」

 

「どのような事を願われたのでしょうか?」

 

 

 達也の願い事が純粋に気になった水波は、従者という立場を忘れて普通に問いかけた。

 

「水波を側に置くことを許してもらった」

 

「そのような事を願わなくとも、私は達也さまのお側にお仕えいたしますが」

 

「そういう事じゃない。実は、水波の気持ちは知っていた。だから特例として水波を輪の中に加える事を許してもらったんだ」

 

「それは、私が達也さまの婚約者として認められた、という事でしょうか?」

 

「そこまでの譲歩は引き出せなかったが、事実婚という事ならということらしい」

 

「それでも十分でございます。まさか達也さまの誕生日に達也さまからプレゼントしていただけるとは思っても見ませんでした」

 

「大袈裟だな。そもそも、深雪に言われるまで水波の気持ちなど考えなかった酷い男だというのに」

 

「それが達也さまですから」

 

 

 泣きそうな表情を浮かべながらも、水波は何とか笑顔を浮かべ、達也に抱きついたのだった。




番外なうえに未来の話ですから、本編に組み込むかは未定……

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