劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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水波と七草姉妹です


友人との時間

 生徒会の仕事を終え、泉美は深雪にではなく水波に話しかける。

 

「水波さん、この後お時間よろしいでしょうか」

 

「なにかあるのですか?」

 

「沖縄に行っていた間、香澄ちゃんが水波さんと遊べなくて駄々をこねていたしたので、よろしければこの後街へ行きませんか?」

 

 

 水波は泉美の提案を受けて達也に視線で問いかける。彼女の立場上、自分の意思で予定を決める事は出来ないのだ。

 

「構わないぞ。今日はこの後特に予定も無いし、深雪もそれで構わないか?」

 

「はい。家の事は私に任せて、水波ちゃんは思う存分遊んできて良いわよ」

 

 

 イマイチ喜べない気分を味わいながらも、水波は達也と深雪に頭を下げてから泉美の誘いを受けた。

 

「それでは深雪先輩、今日一日水波さんをお借りしますね」

 

「香澄ちゃんによろしくね」

 

 

 達也と深雪は後片付けなどを引き受け、先に泉美と水波を生徒会室から風紀委員会本部へ続く階段へと見送った。

 

「良かったのでしょうか……」

 

「深雪先輩も司波先輩も水波さんの事を考えてくださっているのですから、必要以上に謙遜するのは失礼に当たりますよ」

 

「そうではなく、後片付けをお二人に任せてしまって……」

 

 

 水波が気にしていたのは、まさにその部分だった。正式にガーディアン見習いとなった為、メイドとしての仕事はしなくても良いと言われているのだが、水波にとってガーディアンとしてよりもメイドとしての自覚の方が強いので、どうしても片付けなどを二人に任せる事に抵抗があるのだ。

 

「お二人が構わないと仰っていたではありませんか。それとも、水波さんはお二人の事を信用していないのですか?」

 

「滅相も無い!」

 

「なら、良いじゃないですか」

 

 

 言い包められた感じがしないでもなかったが、水波はとりあえず生徒会室の後片付けの事は考えない事にした。

 

「香澄ちゃん、水波さんをお連れしました」

 

「おっ、という事は今日はこの後遊べるんだね?」

 

「達也さまと深雪様からお許しをいただきましたので、存分にお付き合い出来ますよ」

 

「それじゃあ何処に行こうか? とりあえず食事をしながら考えようか」

 

「香澄ちゃん、何も考えていなかったのですか? 水波さんを誘うんですから、てっきり考えているものだと思っていましたが」

 

「だって、水波の希望も聞いてから考えた方が良いだろ? ボクたちが行きたい場所に水波を付き合わせるだけじゃ、対等な友達だって言えないだろ?」

 

「香澄さんは近い将来私の主となりますから、その辺りは気にしなくてもいいのですが」

 

「ボクはあくまで友達だと思うだろうけどね。水波は達也先輩の従者であってボクの従者じゃないし」

 

「香澄ちゃん、ようやく呼び方を改めたのですね」

 

 

 今まではずっと「司波先輩」と呼んでいた香澄は、最近になってようやく達也の事を名前で呼び始めたのだ。その事を指摘されて、香澄は顔を真っ赤にしながら水波の手を取って昇降口まで駆け足で移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を済ませ、食後のカフェオレを飲みながら、香澄たちはこの後の予定を話し合う。

 

「そういえば水波って私服とか持ってるの?」

 

「一応何着かは持っていますが、それほど着る機会もありませんしね。平日は制服がほとんどですし、休日は家にいる分にはメイド服で間に合ってますから」

 

「それ、達也先輩の趣味とかじゃないよね?」

 

「いえ、達也さまは服装に関しては何も仰りませんので。深雪様はそろそろやめた方が良いと仰られますがね」

 

「ボクも止めた方が良いと思うよ……」

 

 

 水波の立ち居振る舞いから考えれば、見たことが無くてもメイド服は良く似合うだろうと香澄は思ったが、余りにも似合い過ぎているような気がして、深雪の意見を支持したのだった。

 

「じゃあさ、今日は水波の服を見に行こうよ」

 

「服、ですか?」

 

「泉美だって何着か欲しいって言ってただろ?」

 

「はい? ……えぇ、そういえばそんな事も言ったかもしれませんね」

 

 

 自分を利用して水波を納得させようとしている双子の姉の意思を読み取り、泉美は曖昧に返事をする。

 

「それじゃあ、泉美と水波の服を見に行こう! ボクも欲しいのがあれば買おうかな」

 

「香澄ちゃんはお引越しの準備でいらない服を大量に捨ててましたからね。逆に足りないんじゃないですか?」

 

「うっ……」

 

「まさか、本当に?」

 

 

 泉美としては冗談のつもりだったのだが、どうやら本気で服を捨てすぎたようだと、香澄の反応から理解した。

 

「まったく……香澄ちゃんは相変わらずですね……」

 

「だって、達也先輩の好みとか知らなかったから……最低限だけあればいいかなと思ったんだよ……」

 

「それでしたら、水波さんに選んでいただいたら如何でしょう? 司波先輩のお側で生活しているのですから、趣味嗜好など知っているのではありません?」

 

「残念ですが、達也さまのご趣味などは分かりません。ですが、香澄さんに似合いそうな服を選んでさしあげますよ」

 

「さっきの仕返し? まぁ、ボクも水波に似合いそうな服を選ぶつもりだし、ついでだから泉美に似合いそうな服も選んであげるよ」

 

「遠慮しておきます。香澄ちゃんが選んだ服は奇抜過ぎて、私には似合いませんもの」

 

「そんな事ないだろー!」

 

 

 二人が過去にそんなやり取りをしたのだろうと水波は微笑ましげに二人を見つめていたのだった。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

 

「じゃあ、ここは私が――」

 

「いえ、達也さまからお小遣いをいただいておりますので、ここは私が払います」

 

「いいの?」

 

「はい。達也さまはお二人の分もお考えになっての事だと思いますので」

 

 

 マネーカードだが、その中には結構な額が入っている。水波はテーブルで会計を済ませて、服屋を目指して移動するのだった。




しっかりとお小遣いを上げている達也

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