劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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誰かが動けば他の人も動く……


IF四つ巴ルート その3

 婚約者四人がバチバチと火花を散らす中、水波はいつも通りに夕食の準備を始めようとして、深雪に呼び止められた。

 

「水波ちゃん、ちょっといいかしら?」

 

「はい、何か御用でしょうか」

 

「今日の夕ご飯だけど、私が作るから水波ちゃんは休んでてちょうだい」

 

「深雪様こそ、今日はお休みになられた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

 

 沖縄ではいろいろあったのはお互い様であり、それだったら従者である自分が働いて深雪が休むべきだと主張する水波だったが、深雪には水波を気遣う以外の理由もあるようだった。

 

「達也様をお守りするのも、水波ちゃんの仕事の一つでしょ? お食事の準備などはそのついでなんだから、ここは私に任せて、水波ちゃんは達也様の貞操をお守りして差し上げて」

 

「はぁ……」

 

 

 自分が守らなくても、達也なら自力で己の身は守れるはずだと深雪も理解しているだろうと、歯切れの悪い返事をする水波。実際は深雪が他の三人に「自分が作った料理を達也に食べてもらう」ところを見せつけたかっただけなのだが、それを正直に言う勇気が無かったのだ。

 

「あれ? 深雪がご飯を作るの?」

 

「深雪様が随分とやる気でございましたので、私はこちらで休ませていただくことになりました」

 

「ふーん……面白そうね、あたしも手伝いに行こうかしら」

 

「ミユキの邪魔をしたら、エリカでも容赦ないんじゃないかしら? 良くて氷漬け、最悪はそのまま永久冬眠でしょうね」

 

「あり得そうで怖いわね……」

 

「というか、深雪さんだけ抜け駆けしてる事にならないのかしら? いくら従妹だからといって、達也くんに手料理を食べてもらうとか、羨ましすぎるんですけど」

 

 

 リーナがエリカに釘を刺したにもかかわらず、真由美は納得できないと言わんばかりの勢いで立ち上がったが、キッチンから襲ってきた冷気に大人しく腰を下ろした。

 

「何かありましたか、七草先輩」

 

「何でもないわよ……てか、達也くんなら今の分かったんじゃないの?」

 

「さぁ? 俺は何も感じ取ってません」

 

「……嘘つき」

 

 

 明らかに恍けている態度に、真由美はそっぽを向きながら呟く。実に子供らしい態度だと自分でも分かってはいるのだが、達也相手に取り繕ったところで相手の方が大人っぽいと割り切ったようで、普段以上に子供っぽい態度を採っているのだった。

 

「そういえばタツヤ、クドウ将軍が会いたがってたわよ」

 

「こちらはあまり顔を合わせたくないんだが……電話でも良いのならいつでも受け付けると伝えておいてくれ」

 

「分かった。でも、タツヤでも苦手な相手っているのね」

 

「別に苦手とかではないんだがな……まぁ、リーナに言ったところで理解出来ないだろうが」

 

「どういう意味よ!」

 

 

 リーナが抗議しようと立ち上がったタイミングで、深雪がキッチンから戻ってきた。

 

「お待たせしました、達也様」

 

「いや、それほど待ってないし、腹が減っていたわけでもないぞ」

 

「あれ? あたしたちのは?」

 

「食べていくの? てっきり帰るのだと思ってたけど」

 

 

 深雪のあからさまな態度に、エリカは引き攣った笑みを浮かべながら答える。

 

「このまま帰るわけないでしょ? 深雪があたしたちの立場だったら、大人しく帰るの?」

 

「さぁ? 私はエリカたちの立場になった事が無いから分からないわね」

 

「まぁいいわ。達也くん、ちょっとキッチン借りて良い?」

 

「好きにしろ」

 

 

 エリカは達也から許可を貰いキッチンへ向かう。エリカに続けとばかりに真由美も達也に断りを入れキッチンに向かうが、リーナだけは動けずにいた。

 

「リーナは行かなくてもいいのか?」

 

「タツヤ、わざと言ってるでしょ……ワタシの料理の腕が上達してないのは知ってるでしょ」

 

「達也様、リーナにキッチンを使わせたら、二度と使えなくなってしまいますよ」

 

「そこまで酷くないわよ! てか、タツヤだったら直せるでしょ」

 

「貴女が破壊したものを、どうして達也様が直さなければならないのかしら? というか、リーナは最初から壊すつもりなのね」

 

「べ、別にそういうわけじゃないわよ! でも、高確率で爆発するから自重してるのよ」

 

 

 自信満々に情けない事を言うリーナに、深雪は冷ややかな視線を向ける。

 

「貴女、上達するって気概が無いの? さっきから聞いてると、上手くなりたいって気持ちが伝わってこないんだけど」

 

「そ、そんなことないわよ! というか、元軍人のワタシがミユキみたいな料理上手になるには、相応の時間が必要なの! 一月そこらで上達するわけないじゃないの!」

 

「時間の問題じゃないと思うけど? リーナには向いていないんじゃない?」

 

「い、言わせておけば……! タツヤ、キッチンを借りるわよ!」

 

「別にいいが、壊してくれるなよ」

 

「もし壊れても九島家が何とかするわよ!」

 

 

 肩を怒らせてキッチンへ向かうリーナを見送り、達也は深雪に視線を向けた。

 

「挑発するにしても、もう少しマイルドに出来なかったのか?」

 

「あれくらいで無ければ、リーナをたきつける事など出来ませんから」

 

「本当に爆発したらどうするつもりだ」

 

「大丈夫ですよ。爆発元ごと凍らせますので」

 

 

 にこやかに宣言する深雪に、達也は苦笑い気味の笑顔を浮かべたのだった。




リーナが完全に不利ですね……

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