劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やっぱりリーナはポンコツだなぁ……


IF四つ巴ルート その4

 エリカと真由美はまともな料理を持ってくる中、リーナが作ったものは料理と呼べるか微妙なものとなって運ばれてきた。

 

「何それ? 消し炭?」

 

「失礼ね! 一割くらい食べられるところが残ってるでしょ!」

 

「リーナ、貴女……そんなものを達也様に食べさせるつもりなの?」

 

 

 いくら達也がこの程度で倒れるような柔な作りをしていないとはいえ、消し炭もどきを食べさせるほと深雪は寛容ではない。本当ならこの場でリーナごと氷漬けにしたいところだが、達也が目でストップを掛けているので、深雪は何とか魔法の発動を抑えられたのだった。

 

「やはりリーナには家事一切は向かないようね」

 

「悔しいけど、こればっかりはミユキに反論できないわね……でも、戦闘ならミユキに負けない自信は――」

 

「貴女、一度私に負けかけてるのよ? その事を忘れてるの? しかも、今度やるなら、制限なしの本気の勝負よ」

 

「………」

 

 

 USNA軍スターズ総隊長『アンジー・シリウス』としての矜持も、このライバルの前では形無しである。いくら殺し合い無しの条件があったとはいえ、リーナはあの時出せる全力を持って深雪と対峙したのだ。だが、手も足も出ずに、自分が殺されそうになったので達也が仲裁した事で一応は引き分けという形で収まったのだ。だが気持ち的には完敗したとリーナは思っているので、深雪の挑発は彼女にとって反論出来ない程の威力を持っているのだ。

 

「シールズさん……いえ、九島さんと深雪さんの間には因縁があるようね」

 

「リーナ、貴女帰化したのね」

 

「当然でしょ? さっきも言ったかもしれないけど、ワタシはステイツよりタツヤを選んだの。将軍に頼んで九島の末席に加えてもらったのよ。まぁ、すぐに四葉に変わるけどね」

 

「ところで達也くん、この料理食べてくれる?」

 

「あっ、あたしのも食べて良いわよ」

 

 

 どさくさに紛れて真由美とエリカが達也に手料理を食べさせようとして、深雪が抑えていた魔法を発動しようとして――達也の「術式解体」によって強制的に冷静さを取り戻させられた。

 

「も、申し訳ございません、達也様」

 

「先輩もエリカも、必要以上に深雪を刺激しないでください」

 

「ご、ゴメンなさい……」

 

「悪かったわよ……」

 

 

 さすがに命の危険を感じ取った二人は、素直に深雪に頭を下げる。また、達也に迷惑を掛けてしまった深雪は、かなり本気で凹んでいたのだった。

 

「わ、ワタシの料理の話題は何処に行ったのかしら……」

 

「徐々に慣れていけばいいと思います」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 一人蚊帳の外になってしまったリーナは、水波に慰められどう反応すればいいのか悩み、結局お礼を言うだけしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が入浴中に、四人はリビングで虎視眈々と他の婚約者を出し抜くチャンスを窺っていた。それを一人客観的に眺めていた水波は、これから起こるであろう達也の苦労を思い浮かべ、思わず同情してしまった。

 

「(黙って見ていてもいずれは誰かが動くでしょうし、達也さまならこの程度で胃に穴が開くはずもありませんしね……見ているこちらが胃に負担がかかるので、ここは全員の背中を押してしまいましょう)」

 

 

 達也の事も心配だが、これ以上は自分が耐えられないと判断して、水波は全員に少しだけ勇気を与えるために行動する。

 

「皆様、達也さまの背中を流したいという気持ちが表に出ていますが、誰も実行しないのですか? それでしたら、メイドの務めとしてこの私が達也さまの――」

 

「「「「ダメ!」」」」

 

「……でしたら、皆様で達也さまのお身体を洗って差し上げては如何でしょうか? もちろん、皆様はタオルなり水着なりで隠していただくことになるでしょうが、達也さまでしたらそれで問題ないかと」

 

 

 水波の提案に、まず深雪が陥落しそうになる。常日頃からチャンスを窺っては、達也に嫌われるかもしれないという考えが過り踏みとどまっているのだが、自分が踏みとどまったからといって他の三人が我慢するかどうか分からないこの状況に、深雪の心が揺れたのだ。

 次に真由美が立ち上がり、それに続くようにリーナ、エリカの順に水波が用意したタオルを受け取り風呂場へと向かう。

 

「深雪様はこちらをどうぞ」

 

 

 そういって水波が差し出したのは、深雪が去年買った水着だった。沖縄には一応持っていったものの、着る機会が無かったそれを受け取り、深雪はゆっくりと三人の背中を追った。

 

「(達也さま、お叱りは後で十分にお受けしますので、今だけは私の為に我慢してくださいませ)」

 

 

 達也がこの程度で自分を叱るだろうかと水波は考えない。主を犠牲にして自分の身を守った事には変わりないので、水波は怒られて当然だと思っているのだった。

 だがその反面で、少しは婚約者たちと進展するのではないかと、年相応の好奇心をのぞかせていた。周りにそういった空気が無いから気が付かなかったが、水波は結構好奇心旺盛なのだと自分の性格を分析していた。

 

「(個人的には深雪様のお手伝いをしたいところですが、下手に介入して全てを台無しにしては意味がありませんしね……ここはリビングで応援するにとどめておきましょう)」

 

 

 四人が脱衣所に向かうのを、水波は黙って見送り、心の中で深雪を応援するのだった。

 

「(達也さま、どうかお怒りになりませんように……)」

 

 

 そして、怒られるのが怖いのか、達也が怒らなければいいなと願うのだった。




自分の胃を守るために四人を煽る水波……

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