劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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初の試み……


IF保護者ルート その1

 無理矢理都合をつけて、真夜は達也を連れて街に繰り出していた。使用人に頼むわけにはいかなかったので、運転手は夕歌にお願いして。

 

「ゴメンなさいね、夕歌さん。せっかくのお休みにこんなことを頼んでしまって」

 

「お気になさらないでくださいませ、ご当主様。私もこうして達也さんと同じ空間にいられますので。もちろん、ご当主様と達也さんだけの空間の邪魔をするつもりはありませんので」

 

 

 真夜と夕歌の会話をただ聞きながら、達也は抵抗するのを諦めたような雰囲気でため息を吐いた。

 

「ところで母上、本日はどのようなご用件だったのでしょうか? 急用だという事でしたので、生徒会の業務を強引に終われせて来たのです。それなのに、何故俺は夕歌さんの車で繁華街に向かっているのですか?」

 

「たっくんの最上級生進級祝いを買いに行くのよ! これ以上ないくらい大事な用事でしょ?」

 

「夕歌さん、車を止めてください。今すぐ帰りますので」

 

「冗談よ、冗談。達也さんが今後生活する拠点が完成間近だという事なので、一度見せておきたいと思ったのよ。ついでに、お買い物もしちゃおう、って思っただけ」

 

「……なら先にそちらを優先していただけませんか?」

 

 

 明らかに後付けの理由なのだが、これ以上真夜に文句を言っても喜ばすだけだと判断し、もう一度ため息を吐いた。

 

「いいじゃない、どっちが先でも」

 

「深雪には母上から説明してくださいね」

 

「分かってるわよ。それじゃあ夕歌さん。後でね」

 

「はい。ごゆっくりどうぞ」

 

 

 目的地に到着したので、真夜は達也の腕を掴んで車を降りる。しかしそのタイミングで、会いたくない人物と鉢合わせしてしまったのだった。

 

「なっ……何故貴女が達也と一緒にいるんですか」

 

「あら、龍郎さんに浮気相手の小百合さんでしたっけ?」

 

「人の彼氏を横から掻っ攫った四葉家の人間らしい言い草ですね」

 

「そんなこと言っていいと思ってるの? FLTの人事権は四葉が握ってるのよ?」

 

「くっ……」

 

 

 深雪の父親であるところの司波達郎と、その後妻の小百合が、真夜と達也の前に現れたのだった。達也は気配察知で気づいていたし、声を掛けるつもりもなかったのだが、さすがに目の前に現れたら真夜は驚かずにはいられなかったのだ。

 

「これはこれは、FLTの椎原達郎殿ではありませんか」

 

「企業連合の北方潮殿……そちらは奥方ですか?」

 

「おぉ! 司波達也くんではないか、沖縄のパーティーではまともに話せなかったが、そちらも変わりはなさそうだね」

 

「先日はお招きいただき、誠にありがとうございました」

 

「良いんだよ。雫の婚約者なのだからね」

 

「達也さん、こちらの方は?」

 

 

 情報としては知っていても、真夜と潮は初対面だ。達也はすぐに真夜に潮を、そして潮に真夜を紹介した。

 

「北山さん、こちらが自分の母で、四葉家の現当主の四葉真夜です。母上、こちらが北山雫の父君であり、企業連合の北方潮こと、北山潮さんです」

 

「何と、こちらの方があの!? お噂は聞いております、北山潮と申します」

 

「ご丁寧にありがとうございます。達也の母の四葉真夜ですわ」

 

 

 ニッコリと妖艶な笑みを浮かべる真夜だったが、さすがに潮は魅了されたりはしなかった。もちろん、龍郎も真夜の笑みに気を取られることは無い。

 

「そちらが奥方の紅音さんかしら? かつては十師族に匹敵すると噂されていた鳴瀬紅音さんですよね」

 

「私如きの事を、天下の四葉家ご当主様がご存じとは光栄ですわね。雫の母の紅音です。以後お見知りおきを」

 

「せっかくですから、この後お時間いただけますかな? もちろん、椎原さんも宜しければ」

 

「私共は問題ありませんが」

 

 

 本音を言えば、一秒でも早く真夜の側を離れたいのだが、ここで不自然な動きを見せれば、FLTの重役としての面子を疑われると判断し、龍郎は潮の申し出を受けた。

 

「達也さん、どうしますか?」

 

「自分は構いません。後は母上さえ良ければ」

 

「そうなの? それじゃあ、せっかくの機会ですので」

 

「決まりですな。それでは、私共がご案内いたしましょう」

 

 

 潮がかなりノリノリで先頭を行き、その隣を紅音が進む。

 

「お先にどうぞ」

 

「し、失礼します」

 

 

 真夜に促され、潮の後に龍郎が続き、達也を睨みつけてからその背中を小百合が追いかけた。

 

「あの女、本当に更迭してやろうかしら」

 

「多少偏りは見られますが、立派に管理職を務めているのですから、更迭は可哀想じゃないですか?」

 

「たっくんにあんな目を向けている時点で本部にいる資格なんて無いんだから」

 

「あんまり身内贔屓だと、その内面倒な事になりますよ」

 

「そうなったらたっくんに何とかしてもらうから大丈夫」

 

「……母上が蒔いた種が原因でしょうから、母上が何とかするべきだと思いますが?」

 

「たっくんに何とかしてもらいたいじゃない? 少しは母親のお願いを聞いてくれたっていいんじゃない?」

 

「……結構母上のお願い事は聞いてきたつもりですが」

 

「あれは母子のお願い事じゃないでしょ? 当主の命令をこなしてきただけ」

 

 

 どうやら自覚はあるようだと、達也は苦笑いを浮かべながら、龍郎と小百合の後に続き潮が案内する店へ向かうのだった。




龍郎と小百合ってどんな口調で話すんだ……夫婦の会話なんて無かったし……

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