劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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司波夫妻、北山夫妻だけが喋ります


IF保護者ルート その2

 潮夫婦と達也と真夜に挟まれる形となった龍郎と小百合は、かなり居心地の悪い思いをしていた。

 

「何でこんな展開になるのよ」

 

「俺に言われても困る」

 

 

 久しぶりに仕事が早く片付き、たまには夫婦で出かけるかという話になった日に限ってこれなのだから、小百合が不機嫌になるのも仕方は無いだろう。だが、居心地の悪さで言えば、龍郎の方が数段上である。

 本部長という肩書ではあるが、何時剥奪されるか分からない身分なのだ。しかもこの場には龍郎の地位を剥奪する事が出来る人間が二人、弱みを見せたら困る相手が一人いるのだ。警戒心を高めておかなければ職を失う可能性だってあるのだ。居心地が悪いに決まっている。

 

「達也さんは貴方の息子だって聞いてたからいろいろと言ってきたのに、何でその達也さんが四葉家の次期当主になってるのよ」

 

「俺だって知らなかったんだ」

 

 

 四葉家に――というか真夜にいわれ前から知っていたという体を保っている龍郎ではあるが、その実は達也を自分の息子だと思い込んでいたのだ。だから龍郎も達也の事を道具扱いしてきたのであって、真夜の息子だと知っていればそれなりの態度で接していただろうと小百合も納得した。

 

「私たち、何時か更迭されたりしないわよね?」

 

「分からん……達也にはそんな意思は無いだろうが、ご当主や深雪が助言したりすれば、可能性はゼロではない」

 

「自分の娘に何でそんなに弱気なのよ」

 

「深雪の実力は小百合だって知っているだろうが。下手に刺激して氷漬けにされたくない」

 

 

 娘相手に情けない事を……とは言えなかった。小百合も深雪の実力は十分に知っており、とても太刀打ち出来る相手ではないと理解している。血の繋がった龍郎ですらそうなのだから、形だけ見れば母親の死後すぐに父親を奪った相手に容赦などしないだろうと小百合は思っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍郎たち夫婦の前、潮と紅音は司波夫妻ではなく達也と真夜の事を話題にしていた。

 

「あれが司波達也くんの母君であり、『あの』四葉家のご当主とはね……」

 

「どうかしたの、潮君」

 

「いや、実に若々しいと思ってね。僕は魔法の事はあんまりだが、不老の魔法でもあるのかい?」

 

「そんなものが確立されていれば、世の中の女性が悩む事なんてないわよ」

 

「紅音は悩む必要なんてないと思うけどね」

 

 

 雫がいれば呆れられたであろう発言を受け、紅音は少し恥ずかしそうに視線を逸らしたが、すぐに現実に意識を戻した。

 

「『あの』四葉家の当主ですもの……人の生き血でも吸ってるんじゃないかしら」

 

「想像でもそんなことを言うものではないと思うけど。彼は雫の旦那になる男だ。その母君の事を悪く言うのは、雫の見る目を疑う事に繋がるんじゃないか?」

 

「そこまでじゃないと思うけど……」

 

 

 雫の事になると紅音も強く言えなくなる。それだけ娘を大事に思っているのと、潮が雫の事を溺愛しているのが原因だ。

 

「それに、ほのかちゃんも彼の事を選んでいるんだ。多少の噂なんて気にするだけ無駄だ」

 

「潮君は魔法師じゃないから四葉家って聞いてもそこまで畏怖を抱かないのね……私は四葉と聞いただけで身震いするけど」

 

「噂だけならそうかもしれないけど、彼女の表情を見れば、悪い人では無いと分かるだろ」

 

 

 チラリと振り返って真夜の表情を見れば、達也と一緒にいられる事を幸せだと思っているのが見て取れる。真夜の事情はある程度しか知らないが、ずっと離れ離れだった息子と一緒にいられるだけで幸せだと思っているのだということは、潮にも紅音にも理解出来る。

 

「女性は恋をしていると若々しくいられるのだろ? だからおそらく、彼女が若く見えるのは、司波くんのお陰なのかもしれないな」

 

「実の息子に恋するなんて、ちょっと危なくないかしら?」

 

「それだけ愛しさを募らせていたのだろうよ。僕だって、雫と離れ離れで生活していて、ようやく一緒に生活出来るとなったらああなっているだろうし」

 

「そうかしらね……」

 

 

 ちょっと想像出来ないと紅音は笑みを浮かべたが、自分と航に置き換えて考えると、分からなくはないと思い始めたのだった。

 

「魔法師界の名家ともなるといろいろあるのだろうし、親と子が離れ離れで生活するという事も、武士の時代には珍しくなかったことだからね」

 

「そんな昔の事を引き合いに出さなくても良いじゃないの。潮君は物事を難しく考えすぎる癖があるわね」

 

「立場的に楽観視出来ないんだよ。それは紅音だって分かってるだろ?」

 

「えぇ。でも、そんな潮君が問題ないって判断したんだから、私も彼と話す時の態度を考えないとね」

 

「彼は非常に優秀な男だ。紅音が警戒する『優秀過ぎる人間』だという事も分かる。だが、私たちの娘たちが選んだ男なんだ。暖かく見守っていこうじゃないか」

 

「そういえば、ほのかちゃんのご両親は彼の事を知っているのかしら?」

 

「どうだろうね……ほのかちゃんのご両親は、あまり子供の事に介入したがらないからな」

 

 

 どうせならこの場に呼びたいとすら思ったが、ほのかの両親はこういった場所に積極的に顔を出すタイプではないし、大企業の人間が大勢いる中に放り込まれると知ってくるはずもないなと、潮はこの面子を改めて見回して苦笑いを浮かべるのだった。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、誰一人として肩書が普通の人間がいないな、と思ってさ」

 

「潮君がそれを言うの?」

 

 

 潮の発言に、紅音は本当に面白そうに笑うのだった。




どっちがいいかと聞かれれば、迷わず北山夫妻を選ぶな……

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