劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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龍郎の器の小ささ……


IF保護者ルート その3

 潮の案内でやってきた店は、やはりそれなりの雰囲気を兼ね備えたものであり、潮が二、三店員に話しかけると、すぐさま席に案内された。

 

「ささ、座ってください」

 

 

 潮が司波夫妻に席を勧め、視線で達也と真夜にも席を勧める。真夜は当然の如く達也の隣に腰を下ろすが、その正面には小百合が腰を下ろした。

 

「急なお誘いにもかかわらず、こうしてお付き合いいただけたこと、誠に感謝いたします」

 

「いえ、素敵な雰囲気ですわね」

 

「お茶だけでは寂しいでしょうし、何か甘いものでも如何ですかな?」

 

「失礼。自分は甘いものを嗜みませんので」

 

「そうですか……司波くんは如何かな? 雫の話しでは、甘いものも大丈夫だと聞いているが」

 

「そうですね、ではいただけますでしょうか」

 

「もちろんだとも。四葉殿も如何ですかな?」

 

「では、私もお言葉に甘えさせていただきます」

 

 

 達也と真夜は素直に潮の好意に甘えたのを見て、龍郎は意外そうな表情を浮かべた。確かに達也は甘いものを苦にしないとはいえ、奢ってもらうという事に抵抗を覚えるのではないかと感じていたからだ。

 龍郎としてはお茶代も自分で出して、潮に借りを作りたくないとすら考えているので、達也が誘いを受けたこと自体以外だったのだが。

 

「椎原殿の奥方は如何なされますか?」

 

「では、せっかくですので」

 

 

 小百合の答えを聞き、満足そうにうなずいた潮は、先ほどの店員を呼び注文を済ませる。

 

「それにしても、司波くんの母君はお若いですな」

 

「そんなことありませんわ。もう四十も後半、そろそろ五十代が見えてきましたもの」

 

「とてもそのようには見えませんが、何か秘策でもあるのですか?」

 

「特にこれと言ったものはしておりません。適度に運動をしているくらいですかね」

 

「それでその若さですか……同じ女性として羨ましいとしか言えませんわ」

 

 

 紅音のとげとげしい態度にも、真夜は笑って答えてみせる。この程度の棘を笑って躱せないのなら、十師族の頂点とも言われる四葉家の当主などやっていられないのだろう。

 

「ところで椎原殿。そちらの奥方は後妻だとお聞きしておりますが、前妻殿が四葉殿の縁者だったのですかな?」

 

「はぁ……現当主の姉に当たる女でした。病弱で晩年は病院を行ったり来たりで、私は側にいられませんでした」

 

「それは、さぞ悔しい思いをしたのでしょうな」

 

「自分にはもったいない女性でしたので」

 

 

 龍郎の受け答えを、真夜は白々しいと思いながら聞いていたが、あえて口を挿む事はしなかった。気持ち的には文句の二つや三つ言ってやりたいところだが、達也に視線で釘を刺されたのだ。

 

「さて、それではささやかなティータイムをお楽しみください」

 

 

 ちょうど注文したものが運ばれてきたので、龍郎への質問はそこで打ち切られ、潮が四人にそう宣言する。この中で唯一未成年――というか高校生の達也ではあるが、龍郎や小百合以上に落ち着いた雰囲気でこのティータイムを楽しんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北山夫妻、司波夫妻と別れた達也たちは、車で待たせている夕歌の許に急いだ。

 

「ゴメンなさいね、ちょっと時間がかかってしまったの」

 

「お気になさらないでください。達也さんとのデートは楽しめました?」

 

「それが、北山さんに誘われてお茶をしていたのよ。そこにあの男たちもいたから、ちょっと気分が悪くなったわ」

 

「あの男たち、ですか……? あっ、ひょっとして深雪さんの?」

 

「えぇ。姉さんが死んですぐに愛人と再婚した下種野郎よ」

 

「奥様たちを下ろして少ししてから、見覚えのある人と話しているなとは感じましたが、あれがそうだったのですね」

 

 

 夕歌はわざとらしく恍けたが、達也も真夜もその事にツッコミは入れなかった。

 

「やっぱりあの二人は本部から遠ざけようかしら……青木さんも一緒に」

 

「下手に反感を持たれ、他の企業に四葉の情報を流されたら厄介ではありませんか?」

 

「たっくんか深雪さんの精神干渉魔法の実験台にしてから追い出す、っていうのもありかしら」

 

「物騒な事を言わないでくださいよ。俺は兎も角、深雪なら本気でやりかねませんから」

 

 

 達也が形だけのストップを掛けると、真夜と夕歌は意外そうな表情を浮かべた。

 

「なんです?」

 

「達也さんも喜んでやると思ったので、ちょっと意外に思っただけです」

 

「お二人は俺を何だと思ってるんですか……」

 

「でも、たっくんだって練習の機会が無ければ上達しないから、この機会を無駄にしないだろうなって思ってたからさ」

 

「練習する必要性を感じませんので」

 

「まぁ、達也さんならまどろっこしいやり方をしなくても、睨めば大抵の事は聞きだせるものね」

 

「そんな事もありませんが」

 

 

 それで自白するようなら、諜報員や工作員としてのレベルが低いのではないだろうかと達也は感じたが、真夜と夕歌は割かし本気でそう思っているようなので、あえて放置する事にした。

 

「それじゃあ、次はどちらに行きましょうか」

 

「そうね……景色が綺麗なところでゆっくりしたいわね。津久葉家の別荘がそんな感じでは無かったかしら?」

 

「あの場所でよろしいのでしたら、このままご案内出来ますが」

 

「是非お願い。たっくんもそれでいいわね?」

 

「母上のお気が済むように」

 

 

 どうせ何を言っても付き合わされるのだからと、達也はあきらめの境地でそう答えるのだった。




打ち切りみたいな終わり方になった……

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