劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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疑ってしまうのも仕方ないですけどね


番外編 達也に相応しい家とは

 沖縄から帰ってきた達也たちを、亜夜子と夕歌が出迎えてくれた。

 

「お帰りなさい、達也さん。深雪さんも疲れたでしょ」

 

「何故夕歌さんと亜夜子ちゃんがここにいるのでしょうか」

 

「ご当主様から仰せつかりまして、達也さんと深雪お姉さま、そして桜井さんをお出迎えに上がりましたの」

 

「今日は本家から車を借りてるから、五人でも問題ないわよ」

 

 

 何時も乗っている自分の車のキーではないキーを振り回して見せる夕歌に、深雪はため息を吐いた。

 

「あの家には駐車スペースなどありませんが」

 

「大丈夫よ。近くのコインパーキングに停めるから」

 

「それとも、深雪お姉さまは私たちに来てほしくない何かがあるのでしょうか?」

 

 

 亜夜子の意地の悪い質問に、深雪は一瞬だけ顔を顰めたが、すぐにいつも通りの優雅な表情に戻った。

 

「そのような事は無いけど、わざわざ来ていただかなくても無人タクシーを呼べば済む事ですし、叔母様が何を懸念してお二人をこちらに向かわせたのか、ご事情をお聞きしても?」

 

「ご当主様は、沖縄で深雪さんが何か仕掛けようとしたのではないかと懸念しておいででした。その流れであの家に達也さんと二人きりにするのは如何なものかと」

 

「水波ちゃんもいるのだから、二人きりではないのですが」

 

「桜井さんは深雪お姉さまに逆らえませんもの。二人きりと表現してもおかしくはありませんわ」

 

 

 再びの亜夜子の攻撃(口撃)に深雪は鋭い視線を向けかけて、すぐに笑みを浮かべてさらりと聞き流した。

 

「とにかくいつまでもここで言い争ってるわけにもいかないだろ。せっかく夕歌さんが乗せて行ってくれると言うなら、素直に世話になろうじゃないか」

 

「……達也様がそう仰るのでしたら」

 

「それじゃあこっちよ」

 

 

 夕歌の先導に、まず深雪と水波を付かせ、その後ろに達也が続く。前を行く二人は、達也の前を歩いているという事に居心地の悪さを覚えながらも、達也に言われたのならと仕方なく車まで黙って歩いていく。

 

「達也さん、荷物をお持ちしましょうか?」

 

「いや、亜夜子に持たせるわけにはいかないだろ。それに、そこまで重いわけでもない」

 

 

 達也の隣を歩く亜夜子が抜け駆けをしようとしたが、達也が女子に荷物を持たせ自分は手ぶらで歩くという事を善としない性格であると知っている深雪は特に慌てる事無くそのやり取りを聞いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 司波家まで向かう車の中では特に会話も無く、達也たち四人を下ろして夕歌は近所のコインパーキングに車を停めに行った。

 

「初めてこの家に来た時は、達也さんが本当にこんな普通の家に住んでいるのかと、文弥と二人で訝しみました」

 

「あの時はただのガーディアンだったからな。深雪も目立つわけにはいかない立場だったからな。ごく普通の一般家庭――とは言わないが、それなりに普通の生活を送れるようにしてたんだ」

 

「ですが、家の中はとても普通とはいませんものね」

 

 

 亜夜子は地下スペースの事を指して言っているのだ。達也もその事は理解出来ているので、とりあえず家の中にと亜夜子を促す。

 

「お邪魔いたしますわ」

 

「水波、亜夜子と夕歌さんにお茶の用意を。それが終わったら自分の荷物を片付けろ。俺と深雪の手伝いは不要だ」

 

「かしこまりました」

 

 

 達也の命令に水波は恭しく一礼してキッチンに消えていく。深雪と達也は自分の部屋に向かい荷物の片付けをするためにリビングには向かわず、結果的に亜夜子一人リビングに取り残された。

 

「地上部分は相変わらず達也さんらしくない家ですわね」

 

「亜夜子ちゃんにとって、達也さんらしい家って?」

 

「夕歌さん……いつの間にいらしたのですか?」

 

「ついさっきよ。それで、亜夜子ちゃんが思う達也さんらしい家ってどんなの?」

 

「次期四葉家当主であるのですから、もっと広く大きい家が相応しいと思いますわ。達也さんの婚約者の数を考えればそれくらいで当然ですし」

 

「まぁね。ご当主様が用意してくださっている家は、それなりに大きいみたいだけど、私は達也さんにはこのくらいの家が丁度良いと思うのよね。下手に自慢するような家だと、達也さんが厭味ったらしく感じるし。力もあって技術もあってお金もあって……って言ってる感じでさ」

 

「実際あるのですから、少しくらい誇示してもよろしいではありませんか。達也さんは今まで不当に扱われていたのですから」

 

 

 亜夜子が頬を膨らませて夕歌に抗議すると、夕歌は大人の余裕を窺わせる笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「達也さんはその程度で収まる人じゃないもの。誇示し続ける事を周りが望めばしてくれるかもしれないけど、そうなると達也さんは余計な敵を作ることになる。まぁ、いくら敵がいても達也さんなら問題ないだろうけど、余計な事をすることを嫌がるからね、彼は」

 

「それは…そうですが……」

 

「達也さんの事を認めたがらない人は、自分より達也さんが優れているのを認めているのと同じだと思うのよね。優れていると分かっているが、今まで下に見ていた相手に負けを認めたくないだけ。ただの子供よ」

 

「仰る通りだと思います」

 

 

 水波がタイミングよく二人の前のお茶を置き、夕歌の考えに同意した。

 

「それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」

 

 

 水波も荷物の整理があるのでリビングから部屋に差って行った。残った二人は、まずお茶を口に含み、そして揃って達也の部屋に視線を向けるのだった。




実態は兎も角、見た目は普通ですからね

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