劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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悪化する一方ですね……


父娘の関係

 達也が亜夜子と夕歌と出かけてから数十分で、深雪の雰囲気が一変した。それを目敏く察知した水波は、とりあえず深雪の正面に移動して表情を確認する。

 

「深雪様、如何なされましたか?」

 

「別に。何もないわよ」

 

「ですが……いえ、分かりました」

 

 

 表情を見て何も無いわけがないと思った水波ではあったが、まだ口調が普段通りだったので大丈夫だと判断した。

 

「(深雪様の為――ひいては魔法師全ての未来の為とはいえ、いきなり達也さまと引き離されて他の女性と出かけているのですから仕方ないのかもしれませんし……)」

 

 

 もし達也が一人で出かけているのなら、深雪だってここまで急激に機嫌を傾けたりはしないし、そもそも達也がこの家にいない事は結構あるのだ。だがそれは仕事だったり本家からの命令だったりと、女性が伴ってもデートでは無いと割り切ることが出来る状況だったのだ。

 

「(それがいきなり達也さまが深雪様抜きでデートしてる状況を耐えろと言われたのですから……)」

 

 

 亜夜子も夕歌も身内ではあるが、昔から達也を取り合っていた間柄だったので関係は良好とは言えなかった。特殊な状況で全員が達也の婚約者として認められたからよかったが、もし一人だけとなったら魔法大戦が勃発したかもしれない、水波は本気でそう思っていた。

 

「水波ちゃん。悪いのだけどお茶をもう一杯いただけるかしら」

 

「かしこまりました。すぐにご用意いたします」

 

 

 普段深雪はそこまで水分を欲することは無いが、今は異様に喉が渇いているようで、水波が用意したお茶を一気に飲み干しておかわりを要求していた。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとう」

 

 

 水波に笑みを見せてから再び深雪はお茶を一気に飲み干す。これはさすがに異常事態だと判断して水波は端末を取り出そうとして――

 

「大丈夫よ」

 

 

――深雪に止められた。

 

「ですが、既に達也さまがいない状況に耐えられなくなっているではありませんか」

 

「これくらいで音を上げたら、達也様にご心配をかけてしまうもの。来月から私は毎日達也様とご一緒出来るわけではないのだし、たかだか数十分達也様が私以外の女性と一緒にいるだけで……」

 

「深雪様?」

 

 

 強がりのセリフの途中で黙りこくった深雪を、水波は心配そうにのぞき込む。すると、彼女の頬には一筋の涙が流れていた。

 

「これ以上は危険です。黒羽様も津久葉様もいきなり深雪様から達也さまを奪うつもりは無いと仰られておりましたし、ここは無理をしても意味はありません」

 

 

 今度こそ限界だと判断して、水波は達也に連絡を入れた。その数分後に達也たちはこの家に戻ってきて、亜夜子と夕歌は苦笑いを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水波に心配させたことと、亜夜子と夕歌に呆れられたこと、そして達也に依存し過ぎていた自分を恥て、深雪は立ち直るのに少し時間を要した。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい……まさかここまで達也様が私以外の女性とデートしている事に耐えられないとは思いませんでした」

 

「身内である私たちでこれじゃあ、他の婚約者だったらどうなっちゃうのかしらね?」

 

「その相手を停めてしまうかもしれませんね」

 

 

 亜夜子が冗談めかして言うが、深雪はそれを冗談だと笑い飛ばす事が出来なかった。ほのかや雫、エリカといった自分とも仲が良い相手ならまだ我慢出来るかもしれないが、ライバルと称されるリーナ、何となく反りが合わなかった真由美といった相手なら、本気で停めてしまうかもと思ったのだろう。

 

「とりあえず、少しずつ慣らしていきましょう。はじめは深雪さんも少し達也さんと一緒に向こうに帰ったりして、夕食を一緒にしてこっちに戻ってくる、とかすればいいですし」

 

「ですが、私たちは深雪お姉さまの事をある程度理解しておりますが、他の方にまで理解しろというのはどうなのでしょうか……特に、他の十師族の家系や師補十八家、百家といった家柄の方もいるのですから。四葉家の事情を説明するのは四葉家にとってマイナスにしかなりません」

 

「私が我慢すればいいだけの事ですから。亜夜子ちゃんや夕歌さんにまでご迷惑を掛けるわけにはいきません」

 

「ここまで我慢出来ないとなると、私たちの問題じゃ済まなくなるのよ。深雪さんだって、その事が分かってるから焦ってるんでしょ?」

 

「今の風潮に深雪お姉さまが魔法師以外の人間を凍らせたという事実が反魔法師主義団体の耳に入れば、ますます魔法師撲滅運動に拍車がかかりますしね……」

 

「深雪さんの能力を封じるにしても、深雪さん以上に魔法力がある人じゃないと効果ないしね……」

 

 

 この場にいる女子全員の視線が達也に向けられる。彼なら深雪の力を封じる事は可能だろうが、それでも深雪の強大過ぎる魔法力の一部しか封じられないだろう。もしすべて封じる事にしたら、今度は達也の魔法力全てをそちらに回さなければならないのだ。

 

「とりあえず、母上に相談して対策を練るしかなさそうだな」

 

「申し訳ございません、達也様……このような事に付き合わせてしまいまして……」

 

「本当なら本部長がどうにかしなければいけない問題なのだが、あの人に頼るのは深雪だって嫌だろ?」

 

「当たり前です! あの男は生物学上父親であるだけで、実際は全く関係ありませんから! 顔も見たくありません」

 

 

 バッサリと切り捨てた深雪を見て、亜夜子と夕歌は深雪と龍郎の関係は相変わらずなのかとため息を吐いたのだった。




出番も無いですけどね……せっかくいい声なので、もうちょっとアニメで喋ってほしかったですが……

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