劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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同い年よりかは年上の方が良いのかもしれませんね……


深雪の基準

 真夜に提案されて実行しないわけにもいかないので、深雪は亜夜子と夕歌のどちらかを達也の部屋に泊まることを泣く泣く許可する。

 

「叔母様の提案ですので、私から何かを言う権利はありません。ですが、二人同時はさすがに認められません」

 

「それもそうですわね。それで、達也さんは私と夕歌さん、どちらがよろしいですか?」

 

 

 亜夜子が悪戯っぽい笑みを浮かべて達也に問いかけるが、達也は特に動揺することも無く、またポーカーフェイスが崩れることも無く真顔で返した。

 

「俺はどちらでも構わない。亜夜子と夕歌さんが話し合いで決められるなら、それが一番だろ」

 

「何方へ?」

 

「この話し合いに俺は不要だろう。地下室にいるから、決まったら内線を入れてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

 ポカンと口を開けて固まる三人とはちがい、水波は恭しく一礼をして達也をリビングから見送る。実際水波もこの場から逃げ出したいのだが、達也に先手を打たれてしまったのでこの場に留まるしかなくなったのだ。

 

「深雪さん的には、私と亜夜子さん、どっちがいいかしら?」

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

「そうねぇ……これはあくまでも深雪さんが『達也さんが他の女性といる時間を耐える訓練』だもの。どっちのほうが耐えられそうかって事よ」

 

「そういう事ですか……私的には亜夜子ちゃんが達也さんの部屋にいる方が嫉妬するかもしれません」

 

「それは何故でしょうか?」

 

 

 亜夜子が不快感をあらわにした表情と、それに伴う声を出して深雪に抗議する。

 

「私と亜夜子ちゃんは学年こそ違うけど、年は同じでしょ? だから余計に嫉妬するんだと思う。夕歌さんはある程度大人ですから、私も多少我慢出来るかと……藤林さんが達也さんの側にいても七草先輩が側にいる時より我慢出来るのはそういう事だと思います」

 

「七草さんって、深雪さんより年上よね?」

 

「あの方は中身が子供っぽいですから」

 

「そういうこと」

 

 

 深雪が断言すると、夕歌も納得したのかそれ以上質問することは無かった。

 

「それじゃあ、私が達也さんの部屋で、亜夜子ちゃんは何処で寝泊まりするのかしら?」

 

「亜夜子ちゃんには、私と同じ部屋で寝てもらいます」

 

「何故でしょうか? 桜井さんの部屋の方が良いのではありません?」

 

 

 亜夜子が疑問を抱いたように、夕歌もその事に引っ掛かりを覚えた。客間ではないが、深雪の部屋より水波の部屋の方が相応しいように思えたからだ。

 

「亜夜子ちゃんには、私が起きている間に限界が訪れた場合の連絡役をお願いしたいの」

 

「そういう事でしたら納得しました」

 

 

 本来なら水波の仕事なのだろうが、さすがに亜夜子を一人水波の部屋に寝かせるのは水波が嫌がるかもしれないという配慮からの案だったのだ。

 

「では、達也さまにはそのようにお伝えいたします」

 

 

 水波はすぐさま達也に今決まった事を内線で伝え、了承したという返事を貰い内線を切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いざ達也の部屋に泊まるからといって、夕歌は妙に浮かれたりそわそわしたりせず、何時も通りの雰囲気を纏っていた。

 

「これが亜夜子ちゃんだったらいろいろ緊張したのかもしれないけどね」

 

「緊張する相手ですかね?」

 

「自分が好きな相手と同じ部屋で寝るなんて展開、亜夜子ちゃんや深雪さんの年代の女子が緊張しないわけないじゃないの」

 

「そんなものですか」

 

「達也さんはそういった感情に乏しいから仕方ないかもしれないけど、私だって少しは緊張してるんだからね」

 

 

 わざと明るく言ってみせたが、夕歌の脚は若干震えていた。達也はそれを見て夕歌でこれなら確かに亜夜子だったら大変だったかもしれないと思ったのだった。

 

「それで、私は何処で寝ればいいのかしら?」

 

「別にベッドを使っても構いませんよ。俺は何処でも寝れますから」

 

「それはダメよ。達也さんは沖縄から帰ってきたばかりで、明日からは生徒会の仕事でいろいろとあるんだから。今日くらいはゆっくり休まないと」

 

「それが分かっているのでしたら、何で母上に命じられた時にそう言わなかったんですか……」

 

「私如きがご当主様の命令に逆らえるわけないじゃないの。それこそ、達也さんしか断れないわよ」

 

「そんなこと無いと思いますが……」

 

「四葉家当主の命令というのは、分家の人間にとってはそれくらいの効力を持つのよ」

 

 

 達也は昔から理不尽な命令には拒否の返事をしてきたので分からないが、分家の立場からすればそんなことは出来ないのだ。どれだけ馬鹿らしい命令であろうと、真夜が発したのであればそれは絶対になり、逆らえばどうなるかなど考えたくも無くなるのだ。

 

「母上は自分で理不尽だと分かっていて命令している場合もありますので、その時は断っても何も言われませんよ」

 

「それは達也さんだからでしょ? たぶん私が断ったら物凄く怒られると思うし、最悪消されてしまうかもしれないもの」

 

「夕歌さんの能力を考えれば、簡単に消されたりはしないと思いますがね。精々本家での謹慎を命じられるくらいじゃないですか?」

 

「自由を奪われてるじゃないのよ……とにかく、私たちの立場ではご当主様に拒否を叩きつけるのは不可能なのよ。だから、達也さんがベッドで寝てちょうだい」

 

「それでは、今布団を用意しますね」

 

 

 達也は夕歌が頑なに拒否したので、素直に来客用の布団を用意するのだった。




亜夜子ならなにかやりかねないと思ったのかもしれませんが……

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