劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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悶々と過ごす少女たち


眠れぬ夜

 深雪の部屋に泊まることになった亜夜子は、深雪が暴走しないかを監視しつつ、自分も夕歌に嫉妬し過ぎないように気をつけなければならなかった。

 

「亜夜子ちゃんも、なかなか嫉妬深そうね」

 

「私は、深雪お姉さまのように、達也さんに他の女性が近づいても魔法を発動させたりはしませんわ」

 

「私だって、誰彼構わず魔法を放つことはしないわよ」

 

「本当にそうなのでしたら、私や夕歌さんがここまでする事は無かったのではありませんか?」

 

 

 亜夜子が皮肉っぽく告げると、深雪はムッとした表情を浮かべたが、返す言葉が見つからなかった。実際、亜夜子と夕歌が達也と出かけただけで魔法を発動しかけたのだから、ここで反論しても説得力が無いと自覚しているからである。

 

「とにかく、深雪お姉さまが何とか我慢出来るようになってくださらないと、達也さんが困ったことになるのですからね」

 

「分かってるわよ。でも、亜夜子ちゃんだって今イライラしてるじゃないの」

 

「そりゃ、深雪お姉さまの見張りを任されたんですから。多少緊張してイライラするのは当然ですわよ。私だって達也さんの部屋の方が良かったですし」

 

 

 本音を隠そうともしない亜夜子に、深雪もイラッと来たが、ここで亜夜子と争っても何の意味もないのだ。達也に迷惑を掛け、真夜に婚約者としての資格がないと判断されかねない。そんなことになれば深雪は本当に世界中を氷河期にしかねないのだ。

 

「とにかく今は、余計な事を考えずに寝る事だけに集中しましょう」

 

「私はそこまで苛立ってませんし、深雪お姉さまみたいに魔法を発動したりもしませんわ」

 

「でも、さっきから達也様の部屋の方ばかり見ているけど?」

 

 

 深雪に指摘されて、亜夜子は自分が達也の部屋の方を見ていたことに気付き、慌てて視線を深雪に固定する。

 

「夕歌さんなら間違いが起こることもないでしょうし、達也様だってそのような事に興味はないでしょうし」

 

「本当に全くないのでしょうか?」

 

「どういうこと?」

 

「達也さんと文弥を比べるのはおかしいと分かってはいますが、文弥は多少なりとも異性に興味はあるようですし、同年代の達也さんが全くないとは思えないのですが……もちろん、強い感情は持てないと知ってはいるのですが」

 

「文弥君が? まぁ、文弥君もお年頃だもんね」

 

 

 あの文弥が異性に興味があるのかと、深雪は微笑ましく思ったが、それがこの年代の男子の普通なのかと複雑に思えた。

 

「達也様ももしかしたら……」

 

「まぁ、達也さんなら何も起こらないと分かってはいるのですがね」

 

 

 散々不安を煽っておきながら、亜夜子はそう結論付けて布団に入る。それを見た深雪も、とりあえずベッドに寝転んだが、悶々とした気持ちが収まらず、亜夜子より後に眠りに就いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時もより遅く寝たにもかかわらず、深雪は達也が出かける前に目を覚まし、しっかりと達也を見送った。本音を言えば今日は八雲の寺について行きたかったのだが、これ以上達也に心配を掛けたくないという一心で我慢したのだった。

 

「深雪様、昨夜はあまり休めなかったようですが、大丈夫でしょうか?」

 

「そんなに酷いかしら?」

 

「付き合いがさほどない相手なら誤魔化せるでしょうが、私や達也さまにはすぐ分かりますよ。もちろん、深雪様が努力なさっているので、達也さまは指摘しませんでしたが」

 

 

 あまりにも酷かったら達也も指摘したり注意したりしただろうが、この程度なら本人の意思を尊重したのだ。

 

「本日は生徒会での話し合いがありますので、今の内に休んでおいた方がよろしいのでは? 雑務は私が引き受けますので、リビングで一息吐くくらいの余裕を持たれた方が」

 

「そんなこと……いえ、お願い出来るかしら?」

 

「もちろんでございます。すぐにお茶をご用意しますので」

 

 

 恭しく一礼して、水波はキッチンに向かい、深雪はソファに腰を下ろす。昨日亜夜子から聞いた文弥の話を達也にすり替えて考えてしまい、どうしても寝付けなかったなど、恥ずかしくて達也にはおろか水波にだって言えやしない。

 

「お待たせいたしました」

 

「ありがとう」

 

 

 水波が用意してくれた紅茶を一口啜り、深雪はホッと一息吐いた。

 

「達也さまと津久葉様の間には何もなかったご様子ですし、深雪様もご安心なされたのではありませんんか?」

 

「最初から何か起こるとは思ってなかったけど、万が一何かあったらって思ってね……まぁ、少し休めば大丈夫だと思うから、水波ちゃんもそんなに心配してくれなくても大丈夫よ」

 

「無理だけはなさらないようにお願いします。深雪様に何かあれば、私が達也さまに怒られてしまいますので」

 

 

 達也がそんな事で水波を怒るわけがないと深雪も分かっている。つまりこれは水波が深雪を安心させようとしているという事で、その事が理解出来た深雪は顔を綻ばせた。

 

「そうね。水波ちゃんが達也様に怒られないように、私もゆっくりと体調を整えないと」

 

「それに、泉美さんは深雪様の変化に目敏いですから、余計な心配を抱かせないためにも、しっかりと休んでくださいませ」

 

「泉美ちゃん、ね……確かに、あの子は私がちょっと髪の毛を切っただけでもすぐに気づいたものね」

 

 

 今度は苦笑いを浮かべながら水波の忠告を聞き入れ、深雪は亜夜子や夕歌が起きてくるまでソファで回復する事にしたのだった。




やっぱり水波は優秀ですね

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