劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やっぱりポンコツだな……


IF深雪VSリーナ編 その2

 リーナが散らかした部屋を、深雪と水波、ミアの三人で片づけている間、リーナは部屋の隅で縮こまっていた。さすがに悪いと思っているので、ぬけぬけと達也とお喋りに興じる事も出来なかったのだろう。

 

「何をどうすればここまで散らかせるのかしら?」

 

「リーナは昔からこういう事が苦手だったようですし、最近はずっと軍務で部屋の掃除などはしてきませんでしたので」

 

「ミアさんも元軍属ですよね? それにしては見事な手際ですが」

 

「私は一時期この家で生活させていただいていましたし、その前も一人暮らしなどで家事をする機会はありましたので」

 

「あれ? でもリーナも一人暮らしをしていたと聞きましたけど」

 

「リーナには専属のお手伝いさんが数人つけられていましたし、それ以前に部屋は勝手に片付いているものだと思っていたらしいですから」

 

 

 ミアの暴露に、深雪と水波は生暖かい視線をリーナに向ける。居心地の悪さが最高潮に達したリーナは、手伝おうと三人に近づいたが、視線で手伝いを拒否されて再び部屋の隅で縮こまった。

 

「こんな事で達也様の婚約者が務まると思っているのかしら」

 

「私の方でも少しずつ教えてはきたのですが、このありさまです」

 

「既に帰化してしまっているみたいですし、USNAに引き渡すのも大変ですしね」

 

 

 水波が怖い事をしれっと言い放ったのを受けて、リーナは震えあがる。今USNAに送り返されれば、反逆罪で軍に裁かれること間違いなしなので、絶対に達也の婚約者から外されるわけにはいかないのだ。

 

「これから頑張って出来るようになるわよ! だから、USNAに私の居場所を教えるのだけは……」

 

「本気で言ったわけではないので、そこまで縮こまられると私の方が困ってしまうのですが……」

 

「えっ、冗談?」

 

「半分くらいは」

 

 

 残り半分は脅し程度の効果を期待して言ったのだが、まさかここまで効果があるとは思わなかったのだ。

 

「とりあえずリーナには私が家事一切を仕込んであげるから、覚悟しておいてね?」

 

「ミユキ……ここぞとばかりにワタシの事を苛めるつもりでしょ?」

 

「そんなつもりは毛頭ないわよ。ただ、リーナがUSNAに帰りたくないって言うなら、死ぬ気で頑張ってもらうしかないわよ」

 

「が、ガンバリマス……」

 

 

 深雪の笑顔に恐怖したリーナは、鯱ばって深雪に敬礼をするが、態度は兎も角口調は誤魔化せず、片言の返事になってしまった。

 

「あと、その片言な喋り方も治していかないとね。たまに変な事言ってる風に聞こえるから」

 

「努力するわよ……」

 

 

 ミアは完璧に近い喋り方なのだが、リーナは未だに片言が抜けないので、深雪はそっちも矯正するつもりでリーナの指導役に名乗り出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片付けも終わり、さっそく深雪はリーナをキッチンに連れてきて野菜を切らせる。彼女の後ろでは水波とミアが若干不安そうな表情で成り行きを見守っている。

 

「真後ろに立たれると攻撃したくなるんだけど」

 

「何時までも軍人気分が抜けないのならそういってくれればいいのに。何時でも軍に戻れるわよ?」

 

「治します! だからそれだけは」

 

 

 リーナの弱点を見つけたと言わんばかりにそこを責める深雪は、生粋のサディストなのかもしれない。だがあまり楽しそうではないのは見ていれば分かるので、苛めて楽しんでいるわけではなさそうだった。

 

「まずはしっかりと食材を押さえて、指を切らないようにね」

 

「そんなヘマしないわよ……」

 

「ホントかしら?」

 

 

 疑り深い視線を向けられ、リーナは注意しながら包丁を下ろしていく。

 

「あぁ、危なっかしい」

 

「リーナ、左手は猫の手です」

 

「猫の手?」

 

「指を中にしまって押さえる事を、子供向けにそういうのよ」

 

 

 深雪に説明され、リーナは自分が子供扱いされていたことに気付いた。だが、キッチンにおいては自分が最下層にいる事を自覚し、ミアに喰ってかかるのは我慢した。

 

「とにかく包丁の使い方をマスターしてもらわないと先に進めないから、頑張って」

 

「ミユキ……やっぱり楽しんでない?」

 

「そんな事ないわよ。そもそも、これが出来なきゃ困るのはリーナなんだから、必死になってもらわないと」

 

「分かってるわよ、そんなこと……」

 

「ちなみにですが、達也様もこのくらいは簡単に出来ますので、リーナは達也様以下なのよ? そんな相手を婚約者として認めてくれるかしら」

 

「が、頑張るわよ!」

 

 

 達也だって必要最低限の家事くらいは出来る。だが、深雪と水波がそれを許さないので腕を振るう機会はなかなかないのだ。だが、少なくともリーナよりは出来る事は確かなので、深雪はその事実をリーナに告げて奮起を促した。

 

「水波ちゃんとミアさんは主菜の準備をお願いするわね」

 

「かしこまりました」

 

「頑張ります」

 

「ちょっと! じゃあこれは何を作るために使うのよ」

 

「いきなり主菜を任せるわけないじゃない。リーナのは副菜に使うためのものよ」

 

「厳しいわね……ダーリンに食べてもらう為なら頑張ってやるけど」

 

「あと、その呼び方も止めた方が良いわよ? 永遠に喋れなくなりたいなら別だけどね?」

 

「これくらいは寛容なミユキなら許してくれるんじゃないかしら? まぁ、狭量で独占欲が強いミユキなら無理かもしれないけど」

 

「ぐっ……分かったわ。そのくらいなら許します」

 

 

 思わぬ反撃を喰らい、深雪はリーナの達也に対する呼び方を許可したのだった。




リーナの仕返しに窮する深雪……

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