劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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黙ってる意味が……


IF深雪VSリーナ編 その3

 リーナが作ったものがどれかを達也に教える事無く食事を出したのだが、達也は一目でリーナがどれを作ったのかを理解した。だがあえて口には出さずに、黙ってリーナが作ったものを食べ始める。

 

「あぁ!?」

 

「ん?」

 

「いえ、何でもないわ……」

 

 

 そんな反応をすれば自分が作ったと言っているようなものなのだが、リーナはその事に気付いていないし、達也もあえて指摘する事はしなかった。

 

「達也様、お味は如何でしょうか?」

 

「特に問題はないが、何か問題でもあったのか?」

 

「いえ、そのような事は決して」

 

 

 リーナが感想を聞けないのをやきもきと見ていた深雪が、リーナの代わりに達也に感想を求めた。

 

「良かったわねリーナ。問題なしですって」

 

「初めから問題がないって事は分かってるわよ! てか、もし問題があるものだったらミユキがタツヤに食べさせる前に処理するでしょうが!」

 

「当然でしょ? 達也様に危険なものを食べさせるわけにはいかないもの」

 

 

 何を当然のことを聞いているのかと言いたげな深雪の視線に、リーナはムッとした態度を見せたが、ここで喧嘩しても達也に怒られるだけだと学習したのか、ぐっと耐えたのだった。

 

「というか、リーナがどれを作ったかなんて、達也様なら一目で理解してましたよね?」

 

「あぁ。明らかに不格好だったし、リーナがずっとそれを凝視していたからな」

 

「ワタシ、そんな分かりやすく見てたつもりは無いのだけど?」

 

「達也様相手にリーナ程度のポーカーフェイスじゃ太刀打ちできないわよ」

 

 

 確かに自分はポーカーフェイスが得意な方ではないと自覚しているし、達也相手に敵うとも思っていないのだが、それを第三者に言われると頭にくるのは、決してリーナが未熟だからというわけだけではないだろう。

 

「お前たちも食べるんだろ?」

 

「はい。では水波ちゃん、ミアさんも」

 

「失礼します」

 

 

 深雪に促されて水波とミアも腰を下ろし食事を摂り始める。リーナもムッとした表情を改める事無く腰を下ろし、黙々と食事を摂る。自分が作った副菜を口にして、自分の未熟さを痛感した。

 

「タツヤ、良く平気そうに食べれたわね……」

 

「達也様は並大抵の不味さで音を上げるような方ではありませんから。それに、初心者が作ったのならこのくらいだと思いますがね」

 

 

 そういいながら深雪はリーナが作ったものを気にした様子もなく食べ進める。よく見れば水波も気にしていない風だが、ミアは若干呑み込むのに苦戦している。

 

「ミア、無理して食べてくれなくてもいいのよ」

 

「いえ、問題ありません……この程度、軍属だったころを思い出せば」

 

「演習中に出された食事は酷かったものね……」

 

「USNA軍ってまともな食事が出されないのかしら?」

 

「そういうわけじゃないけど、演習中は実戦を想定しての動きを強要されて、食材も料理上手な人間も無い状況を想定された食事だったから、本当にただ食材を齧ったり、木の根っこなどを出されたりしてたのよ……」

 

「達也さま、日本軍でもそのような事があるのでしょうか?」

 

 

 水波がふと疑問に思ったことを達也に問う。この場に達也が特殊士官兵であることを知らない人間がいないので水波もあっさりと聞くことが出来たのだ。

 

「そんなことは無いぞ。最低限の食事は確保されていたし、USNA軍のは本当に最悪の状況を想定しての訓練だろうからな」

 

「実戦でもそこまで酷い事にはならないと思ったんだけどね……文句言ったところで改善されなかったし、もうあんな思いをしなくてもいいんだしね」

 

 

 本当に嫌な思い出だったのだろう。リーナとミアは顔を顰めながらその頃の事を話していた。その表情を見ながら、深雪はそんな状況に陥っていたのにも関わらず料理の腕を磨こうとしなかったリーナに呆れた視線を向ける。

 

「貴女って本当に向上心があるのかしら?」

 

「あるに決まってるじゃない! てか、何で今その話になるのよ!?」

 

「だって、それほどひどい食事を出されてたのなら、自分が出来るようになって酷い食材でもまともな食事が出来るようになろうとは思わなかったのでしょ?」

 

「あ、あんな食材でまともな料理が作れるわけないじゃないの! てか、ミユキはそれが出来るっていうの?」

 

「そのまま齧る、なんて事にはならなかったでしょうね。少なくとも演習中って事は火くらいはあったのでしょうし、最低限の調理くらいなら出来たと思うわよ」

 

「てか、そのまま齧るなどありえないと思いますが」

 

 

 料理上手な深雪と水波が指摘すると、リーナとミアは居心地が悪そうな表情を浮かべ、ゆっくりと視線を逸らしていく。

 

「調理するのも面倒だと思うくらい、演習でヘロヘロになってたのよ……食べられるだけでもありがたいって思ってしまったのよ……」

 

「そんなにも過酷な訓練を積んでいたにもかかわらず、リーナは達也様に負けたのね」

 

「アナタたち四葉の魔法師の噂は海外でも有名だもの! まぁ、あの時はタツヤやミユキが四葉の魔法師だという事は知らなかったんだけどね……」

 

「そもそも、あの時の達也様は能力を制限されていたのよ? それでも貴女は達也様に勝てなかったんだから、USNA軍のレベルの低さを疑われても仕方ないのかもしれないけどね」

 

「喧嘩売ってるなら買うわよ?」

 

「貴女と喧嘩しても面白くないもの。そもそも、あの時より私だって強くなってるのよ? 貴女、私以上に成長してるのかしら? 半分以上恋にうつつを抜かしていた貴女が」

 

「深雪、挑発もそのくらいにしろ」

 

「申し訳ございませんでした、達也様」

 

 

 リーナが激高する前に達也に窘められ、深雪は素直に達也に頭を下げたのだった。




頑張ってるんでしょうがね……基準が深雪や水波だと厳しい……

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