他の婚約者に対する劣等感を捨て、遥は思いっきり達也に甘えようとしたが、それとこれとは話が別なのか、怜美と響子が邪魔をしてきた。
「何故邪魔をするの? 貴女たちが私の背中を押してんじゃない」
「卑屈になり過ぎだとは思ってましたが、だからといって抜け駆けを許せるほど私たちだって達也くんに甘えたりしていないんです」
「小野先生が抜け駆けするなら、他の人も巻き込んでまず貴女を排除するしかなくなっちゃうわよ~?」
怜美が言っている他の人というのが誰を指す言葉なのか、遥は怜美が意図した通りの人物を想像して震えだす。
「じゃ、じゃあ……順番で司波くんに甘えるという事で……三人だけの秘密にしておけば、他の人に伝わるとはないでしょうし」
「それなら仕方ないわね……」
「それで、誰から行くのかしら~?」
「俺が誰かに喋るかもという考えは無いんですね」
当然のように達也は黙ってくれるだろうと思い込んでいる三人に、一応確認の意味を込めてツッコミを入れたが、当然の如く流されてしまった。もちろん達也は誰にも言うつもりは無いし、聞かれても答えるつもりもないのだが、それを当然だと思われているのはちょっと考えさせられるものがあったのだった。
「じゃんけんの結果、エレクトロン・ソーサリス、私、安宿先生の順番に決定しました。もちろん、あまり過激な事をすれば深雪さんにバレる可能性が高いので、二十分ずつ腕を組んで街を散策するだけに留めておきましょう」
「それが賢明でしょうね。達也くんがよく気付く目を持っているように、深雪さんは他の女性の匂いに敏感みたいだし」
「そうなんだ~。まぁ、甘えられるのは嬉しいけどね」
普段から一緒に行動する事が少ない三人なので、それくらいでも満足だと思えるのだろう。これが深雪や真由美だったら、二十分くらいで満足するはずもないだろう。
「それじゃあさっそく私から。達也くん、行きましょう」
ごく自然に達也の腕に自分の腕を絡ませた響子は、これまた当然のように歩き出す。達也が引っ張られる事はないが、後ろを行く二人には若干達也が響子に引っ張られているように感じられた。
「珍しい事もあるんですね」
「達也君だって高校生だしね。それに、あまり積極的にこういう事をするタイプの子じゃないみたいだし」
「まぁ、司波くんが積極的だったら、もっと婚約者の数も増えていたでしょうし、私たちだってその中に入れていたかもしれませんからね」
遥も怜美も、積極的な達也を想像しようとしたが、結局はいつも通りの達也しか想像出来なかった。その後何度も想像を試みたのだが、結局は失敗に終わるのだった。
響子、遥と腕を組んでの散策が終わり、いよいよ怜美の番になった。今まで見せつけられてきた分、怜美は思いっきり達也に甘えようと決めていた。
「そういえば、達也君は魔工科のままなのね。せっかく一科生にも負けない魔法力を手に入れた――というか取り戻したのに」
「まだ完璧には制御出来てませんし、アイツらの中に混じって勉強するのは大変そうですからね」
達也が言うアイツらとは、当然一科生男子の事であり、怜美もそのように受け取った。一科生の男子には、未だに達也の事を下に見たり、自分は負けていないと張り合ったりするのがちらほらと見受けられる。最初から負けを認めている幹比古や、元一科生で現在はクラスメイトの十三束のように達也の実力を認めている人物も確かにいるのだが、一度自分の方が優れていると思い込んだら、その考えを改めるのは難しいようだった。
「達也君が四葉家の人間で、深雪さんを凌駕する魔法力の持ち主だって事は発表されているんだから、その内負けを認めるんじゃないかしら?」
「そうだとしても、俺は魔工科で十分です。元々魔工技師を目指して一高に入学したわけですし」
「そうだったんだ~」
歩きながら会話をしているにもかかわらず、怜美の達也に対する距離感は他の二人よりも近いものを感じさせる。物理的に近づいているのも当然なのだが、それ以上に話す空気感が二人の距離が近いと錯覚させるものがあった。
「たまには保健室にも遊びに来てほしいんだけど?」
「遊びに行くところではないと思いますが……そもそも、あまり怪我をするような事も無いですし」
達也の嘘に、真実を知っている響子が吹き出しそうになったが、達也の雰囲気を感じ取って素知らぬ顔を続けた。婚約者には教えられているが、愛人候補でしかない遥と怜美には達也の魔法の詳細はまだ伝えられていないのだ。
「まぁ暇を感じたら遊びに来てちょうだいな。お茶くらいなら出せるわよ」
「二科生だった頃ならともかく、魔工科には担当講師が付きますので」
「残念……まぁ、それ以外で暇を感じた時でもいいわよ。君なら、生徒会の業務を他の子よりも早く終わらせることが出来るでしょうしね」
「覚えていたらお邪魔します」
三年になってそんな暇があるかどうか分からないが、達也は怜美の誘いをとりあえず頭の片隅に留めておくことにしたのだった。その後、もう一周だけ三人と過ごす時間が欲しいとねだられ、一時間延長してから三人と別れたのだった。
明日から原作復帰します