劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こうやって引っ張れるところで引っ張らないとまた後が大変ですから……


ほのか宅へお見舞い

 雫に看病されながら、ほのかは沖縄での行動を思い出しては、恥ずかしそうに布団に潜るという行動を繰り返していた。

 

「ほのか、少し落ち着いた方が良い」

 

「だって! いくら沖縄とはいえ三月に水着ではしゃいだらこうなるって何で分からなかったんだろう……」

 

「もうじき深雪たちがお見舞いに来てくれる。それまでには冷静さを取り戻しておいた方が良いよ。達也さんに余計な心配をかけちゃうから」

 

「達也さんが来るのっ!? お見舞いは遠慮してもらってってお願いしたじゃない!」

 

「うん。だから泉美たちには遠慮してもらったよ?」

 

 

 何を言っているんだという表情で首を傾げた雫に、ほのかは言葉を失った。彼女は良かれと思って達也をこの部屋に呼んだのだと、付き合いの長いほのかはそれだけで雫の考えを理解したのだ。

 

「どうせなら元気な時に来てほしかったわよ……」

 

「どうせあと少しで引っ越すんだから、弱ってる時の方が良いんじゃない? 達也さんに心配してもらえるんだし」

 

「そういう事じゃないでしょ! というか、何で雫は大丈夫なの?」

 

「私はほのかほどはしゃいでなかったからだよ。てか、ほのかの方が私より肉付きいいのに、ちょっと軟弱なんじゃない?」

 

「雫、何処見て言ってるの?」

 

 

 雫の視線がほのかの胸に向いているのを受けて、ほのかは布団で胸を隠したが、それでも雫の視線はその部分に向けられたままだ。

 

「雫は気にし過ぎなんだよ。達也さんは大きさは気にしない人だし、エイミィやスバルだってそこまで気にしてないじゃない?」

 

「ほのかは、あの二人と私が同レベルだと言いたいの? あの二人よりかはあるもん」

 

「そういう事じゃないよ!?」

 

 

 視線の中に殺気が混じったのを受けて、ほのかは慌てて弁明しようとして、立ち上がろうとしたがくらくらしてその場に倒れ込んでしまった。

 

「やっぱり無理してるんじゃない? 明日も休んだ方が良いかも」

 

「でも、それだと泉美ちゃんたちにも心配されちゃうし」

 

「もう心配してると思うけどね」

 

 

 実際、雫がメールを送っていなければ泉美たちもお見舞いに来る勢いだったのだから、心配を掛けまいと気を遣っているほのかは、非常に今更なのだ。

 

「深雪が許してくれるかは分からないけど、達也さんに身体を拭いてもらった方がほのかも嬉しいでしょ? だから、あえて今は拭かないでおくね」

 

「た、達也さんに……」

 

「あっ……」

 

 

 ほのかが何を想像したのかすぐに察した雫は、表情に赤みが増したほのかを見て少し反省したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水波には家の事を任せて、深雪は達也と二人きりでほのかの家にやってきた。水波はガーディアンの務めを主張してきたが、あまり大勢で押しかけるのもほのかに悪い、というもっともらしい理由で水波を納得させ、達也がいるから大丈夫だという切り札を使い、水波の主張を退けたのだった。

 

「いらっしゃい……? てっきり水波も来ると思ってた」

 

「水波ちゃんには、ウチの事をお願いしたの。それに、大勢で来たらほのかが気にしちゃうとも思って」

 

「それもそうだね。とりあえず、上がって」

 

 

 ほのかの家なのに雫が二人を迎え入れるという事に対してのツッコミは、深雪も達也も入れなかった。今現在ほのかは風邪で寝込んでいて、雫が看病のために先にこの家を訪れているのを知っているからと、雫があまりにも自然に振る舞っているのも理由の一つである。

 

「ほのか、達也さんと深雪がお見舞いに来てくれたよ」

 

「ごめんね、深雪。忙しい時期に」

 

「大丈夫よ。それにしても、少し顔が赤いけど、本当に大丈夫なの?」

 

「うん、大丈夫。明日は行けると思うから。達也さんも、わざわざすみませんでした」

 

「気にするな」

 

 

 寝間着姿をあまり見られたくはないだろうという理由で、達也は微妙にほのかから視線を逸らしている。その気遣いが嬉しかったのか、ほのかは満面の笑みを浮かべている。

 

「何か食べたの?」

 

「レトルトのおかゆ。さっき雫が買ってきてくれたのを温めて食べた」

 

「せっかくだから作ってあげるわよ。キッチン借りて良いかしら?」

 

「ありがとう……自由に使っていいよ」

 

 

 深雪も何かを察したように部屋からキッチンへ移動する。本当なら許しがたい事なのだが、弱っている相手に嫉妬するのも大人げないと、深雪は過去に自分を反省して寛容になろうと心に決めていたのだった。だが、若干嫉妬してしまうのは仕方ないと、自分に言い訳をしている辺り、まだ当分は達也を独占したいと思うだろう。

 

「達也さん」

 

「なんだ、雫?」

 

「ほのかの背中、拭いてあげて。私は深雪にキッチンの何処に何があるかを教えてくるから」

 

「雫っ!?」

 

「分かった。だが、さすがに前を拭いてやることは出来ないから、早めに戻ってきてくれると助かる」

 

「ん」

 

 

 達也の言葉に小さく頷いて、雫はぬるま湯が入った桶とタオルを達也に手渡し、ほのかに見える角度でサムズアップしてみせた。

 

「それじゃあ、私はキッチンにいくから。ほのか、頑張ってね」

 

 

 いったい何を頑張ればいいのか、とほのかは声を大にして言いたかったが、ほのかが何かを言うより早く雫も部屋からいなくなってしまった。突如訪れた達也との二人きりの時間に、ほのかは何をすればいいのか、どうすれば拭きやすいのかを考えて、結局は何も出来なかったのだった。




じゃれ合う二人は可愛いなぁ

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