劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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三年次でやるかどうかは分かりませんが……


九校戦の話

 深雪に作ってもらったおかゆを食べるためにベッドから抜け出たほのかを交えて、四人は沖縄の話題で盛り上がった――といっても、達也はたまに相槌を程度だが。

 

「ほのかと雫が水着で達也様に抱きついた時は、本気で海を凍らせてしまいそうになったわよ」

 

「あれはスバルとエイミィの案。少しでも深雪に焦りを覚えさせるためにって練った作戦だったんだけど、予想以上に効き目があってちょっと焦った」

 

「その所為で風邪ひいちゃったけどね」

 

 

 まだ少し怠そうなほのかがしみじみと呟くと、深雪と雫は顔を見合わせ、同時に噴き出した。

 

「な、なに?」

 

「いや、ほのかが言うと説得力が違うなと思って」

 

「実際大変な目に遭ってるものね」

 

「うぅ……笑わないでよ」

 

 

 後輩たちには風邪の原因は伝わっていないが、知られてしまっている深雪や雫に強がりは無意味なので、ほのかはそっぽ向いて抵抗しようとしたが、視線を逸らした先には達也がいて、余計に恥ずかしい思いをしてしまった。

 

「達也さんも、実は呆れてるんですよね?」

 

 

 ネガティブ思考に陥ってしまったほのかは、達也も内心自分の事を笑っているのではないかという妄想に囚われ、それを達也に聞いた。

 

「呆れはしないが、もう少し自分を労わった方が良いと思っている。風邪などは俺の魔法ではどうしようもないからな」

 

「ゴメンなさい……」

 

 

 これが怪我とかなら、達也が即座に「再成」してくれていただろうが、風邪ではそれも出来ない。呆れられているのではなく心配されていると理解し、ほのかは嬉しさと共に自分のネガティブさを恥じた。

 

「ほのかは昔からネガティブ過ぎるんだよ。実力は十分だったのに、小学校の頃対抗戦などで勝てなかったのはそういうのが理由だったんだと今ならはっきりと分かる」

 

「少しは自信を持った方が良いわよ?」

 

「でも、私と比べたら深雪の方が――とか、私より相応しい人がいるんじゃないかって思うとどうしても……」

 

「それがいけないんだよ。誰かと比べる必要なんてないし、ほのかは十分実力があるんだし、実際九校戦でも負けてないよね?」

 

「それは……達也さんが側で見ていてくれたからだし、去年は完全に達也さんがCADを調整してくれたからだし」

 

「俺がいなくてもほのかは勝てたと思うが」

 

「達也様も自己評価が低すぎです。もう少し自分の実力を誇示してもよろしいのではないでしょうか?」

 

 

 達也が否定したすぐ後に深雪が口を挿む。深雪としても達也の自己評価の低さは気になっているので、再三同じような事を言っているのだが、それでも達也の自己評価の低さは改善されていない。

 

「そもそも、吉祥寺真紅郎相手にエンジニアの腕で勝負しても差なんてそれほどないんだ。ほのかや雫、もちろん深雪たちが勝ち進んだのは俺の力など関係ないと思うが」

 

「そんなこと無いよ。実際ピラーズ・ブレイクの時、達也さんが警戒してた案が実行された時、笑いそうになったし」

 

「私だって、ミラージ・バッドでスバルに勝てたのは達也さんがCADを調整してくれたお陰だと思ってます」

 

「そもそも私は、達也様に調整していただいたCADで無ければ実力を発揮出来ません。つまり、達也様がいてくださなかったら、私は九校戦の代表を辞退していたという事です」

 

 

 大袈裟に聞こえなくもないが、深雪はこれでかなり本気で言っている。一年の時もそうだが、深雪が居なかったら達也は九校戦に参加しようとも思わなかっただろう。

 

「作戦参謀として、そしてエンジニアとして、達也さんは私たちに無くてはならない存在。もちろん、精神的支柱としても必要」

 

「達也さんがいてくれるだけで『何とかなる』と思えるんですよ」

 

「俺はそこまで万能ではないんだがな」

 

 

 苦笑いを浮かべながらも、達也は彼女たちが真剣であることを理解している。さすがにここまで慕われてなんとも思わないほど、達也も枯れてはいない。我を忘れる感情は無くとも、相手を愛おしく思う事はあるのだ。

 

「達也様は異性からの情に鈍感だったから気づいてなかったかもしれませんが、一年の時から他校の女子生徒が達也様に熱視線を送っていたんですよ」

 

「見られていたのは知っていたが、深雪の関係者として見られていたのだと思っていた」

 

「そもそも一条さんは私と達也様が血縁であることを知らなかったのですよ? 私の関係者だとか、そんな理由で達也様を見ていた女子がいたとは思えませんし、そもそも『私』が『達也様』の関係者なのです」

 

 

 深雪にとって、それだけは譲れない事なので、あえて強調したのだが、達也はもちろん雫やほのかもその事を指摘する事はしなかった。当然『それは同じことなのでは?』というツッコミも発生しない。

 

「今年は余計に目立つだろうね」

 

「達也さんが四葉家の次期当主で、エンジニアとして事実上無敗記録を達成するかって注目するべき事が二つあるもんね」

 

「選手としても出れば強いと思うけどね」

 

「選手は一科生の奴らに任せて、俺は作戦立案とCADの調整で貢献させてもらうさ」

 

 

 本音を言えば、参加したくないのだが、そんなことは深雪をはじめとする婚約者たちが許してくれないだろうし、学校としても優秀なエンジニアの不参加など、よほどの事がない限り認めてくれないだろうと、達也は半ばあきらめの境地で呟き、苦笑いを浮かべるのだった。




達也が出たらチートになる……

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