劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まだまだ秘密が多い四葉家……


四葉家の内情

 体調が悪いのにおしゃべりを続けて大丈夫なのかという達也の懸念を他所に、ほのかは楽しそうに深雪と雫とのおしゃべりに興じている。

 

「っと、そろそろお暇しないと」

 

「もうそんな時間?」

 

「あんまり水波ちゃん一人に任せるのも可哀想だしね」

 

「水波は深雪に頼ってもらえてうれしいかもよ?」

 

 

 実際水波は未だにガーディアンというよりメイドと言った方が良いような働きをしているし、水波自身も「自分はあくまでもメイド」だというオーラを纏っている。だが何時までもメイドでいられるわけないので、少しずつガーディアンであるという自覚を強めてほしいと達也は考えていたのだった。

 

「水波ちゃんは喜んでるかもしれないけど、家の事情で何時までもメイドでいてもらうわけにはいかないからね」

 

「そっか……その事情も私たちは教えてもらえないの?」

 

「正式に四葉家に入れば、もしかしたら教えてもらえるかもしれないけど……」

 

 

 そこで深雪は達也に視線を向ける。深雪から視線で助けを求められた達也は、深雪を庇うように一歩前に出て雫とほのかに説明する。

 

「詳しい事は今は言えないが、外から見れば非人道的な扱いだと言われかねないからな。もちろん、水波にそんなことをさせるつもりは無いが、その任務で命を落とした魔法師も少なくない」

 

「そうなんですか……」

 

 

 ボディーガードという言葉を使わなかったのは、自分の意思で辞められないという、決定的な違いを話す事が出来ないからである。

 

「とりあえず、達也さんと深雪が水波にそんなことを強要するとは思ってないから、深雪がそんな顔をする必要は無いよ」

 

「ありがとう、雫」

 

 

 達也が放った「命を落とした魔法師」という言葉に、深雪は表情を曇らせた。ついこの間思い出したばかりの女性、水波に瓜二つの調整体魔法師であった桜井穂波の事を思い浮かべてしまったからである。

 

「それじゃあほのか、この後は大人しく寝ているんだな。明日も休むようなら、泉美と香澄が見舞いに来るかもしれないから」

 

「は、はい……達也さん、今日はありがとうございました。深雪も、ありがとう」

 

「いいえ、お大事にね」

 

 

 軽く会釈をして、達也と深雪はほのかの家から司波家へ戻るために駅を目指す。

 

「達也様、あの二人になら本当の事を話しても宜しかったのではありませんか? あの二人は本当に達也様の事を想っていますし、達也様の失態に繋がるような事はしないと思いますし……」

 

「確かにそうだが、未だに俺を認めたくない輩は存在している。そいつらに恰好の餌をくれてやるのは避けたかったんだ」

 

「まぁ、叔母様もそう懸念してガーディアンの事は口外しないようにと仰られたのでしょうしね」

 

 

 難しい顔の深雪を見て、達也は微笑みながら彼女の頭を撫で、そのまま家路を急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也と深雪が帰宅しても、雫はほのかの家に留まっていた。元々どちらかの家に泊まる事が多い二人にとって、この状況は別に緊張するものでもない。

 

「ねぇほのか」

 

「どうしたの、雫?」

 

 

 達也に言われ大人しくベッドで横になっていたほのかに、雫が神妙な面持ちで話しかけた。

 

「達也さんが言っていた『命を落とした魔法師』って、前に深雪が言っていた人かな?」

 

「……達也さんが初めて恋愛感情を抱いたって人?」

 

「うん……水波の伯母さんに当たる人だって言ってたし、その人も四葉の関係者だったんだろうし」

 

 

 雫の言葉に、ほのかもその可能性に思い当たった。どのような仕事内容なのかは分からないが『あの四葉家』での仕事だ。達也が言うように非人道的な扱いがあったとしても不思議ではない。

 

「前に泉美から聞いたんだけど、深雪と水波と一緒に行動してる時に襲われたって」

 

「そういえばそんなことあったね。達也さんが敵を全て蹴散らしちゃったらしいけど」

 

「あの時の二人と水波との間には、普通の従者とは違う雰囲気があったらしい」

 

「普通とは違う雰囲気って?」

 

 

 ほのかの問いかけに、雫はどう表現して良いのか考えて、そして口を開いた。

 

「この人の為になら、死んでも構わない。むしろ、自分が死ぬことでその人が守れるなら本望だ、って感じ」

 

「ボディーガードみたいな感じってこと?」

 

「でも、それだと達也さんが言っていた『外から見たら非人道的』だという表現に当てはまらない。ボディーガードを生業にしている人だってたくさんいるんだから」

 

 

 実際、雫とほのかも両親からボディーガードを付けた方が良いのではという提案を受けたことがある。陶然、ほのか共々断ったのだが。

 

「じゃあ、何が『非人道的』に当てはまるんだろう……」

 

「私たちじゃ考え付かないようなことがあるんだろうね。それよりほのか、少しは達也さんと仲良くなれた?」

 

「なっ、何を言いだすのよ!」

 

「せっかく二人きりにしたんだから、少しくらい進展があったかなと思って」

 

「何も無いよ。ただ、私が気にし過ぎてただけだって分かったくらい」

 

「そっか……でも、これで達也さんが私たちをちゃんと想ってくれているって分かったでしょ? 義理やお情けで付き合ってくれてるわけじゃないって」

 

「うん……達也さんがそんな人じゃないって分かってたけど、実際に聞いて安心した」

 

「なら、後は風邪を治して達也さんのお手伝いをしっかりとしないとね」

 

「はい……」

 

 

 雫にも釘を刺されてしまったので、この後ほのかは大人しく横になって養生するのだった。




風邪ひいてるときのお喋りは堪えそうですね……

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