あなたの輝きに惹かれて(永楽)   作:楼瓶

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理想の出会いなんてものはなく

今日も重い瞼をどうにか開ける。スマホで時間を確認するとまだ6時18分、陽が昇り一日の始まりを告げている。しかし日課の走りこみをするにはうってつけの時間帯である。

近年では外に出るだけで白い目で見られることもあるほど高気温を記録している8月中旬でも、早朝は比較的涼しく、走るにはちょうど良いのだ。

この日課は今年の春から電脳大隊(サイバーバタリオン)格闘ゲーム部門「爆薬分隊(ニトロスクワッド)」に所属が決まってから欠かさず行っている。知り合いの陸上全国大会経験者にトレーニングの相談をした所

 

「走ることがどんなトレーニングよりも優れています!」

 

「そうなのか!? やってみるわ!」

 

こんな感じに軽い気持ちで初めてみたが、実際走ることで起きる体全体にかかる心地よい負荷、そして早朝特有の澄み切った世界がVR三昧によって薄れていた「リアルの情報量の膨大さ」を再確認させてくれた時の感動から、今日までこの日課のトレーニングを継続することが出来ている。

だが正直な所、現実の体力強化は出来ていてもゲームの動きが良くなっているかどうかはわからない。しかし、結果ではなく、過程こそが大事なのだと自分に言い聞かせる。

走り込みを始めつつ、ここ数日の出来事を振り返る。

大学生になるにあたり住み始めたアパートの住所が何故か某全米一にバレてしまい、凸ってきたり、外道魔王が外道魚類を生放送で女装させることに成功したり、最大火力と我が妹が仲良く俺の個人情報をリークしあっている瞬間に出くわしてしまったりと退屈はしない日々である。

我ながら変なことに巻き込まれてばっかな大学生活及びプロ生活だなと呆れていると、日課の走り込みコースのおよそ半分にあるコンビニが見えてきた。

休憩がてらコンビニに入り、飲み物を買おうとするとそこには昨日から始まった、ライオットブラッドと爆薬分隊のコラボキャンペーン企画である新フレーバー「ライオットブラッド ラナウェイ」を3本以上買うと貰える「爆薬分隊選手ステッカー」プレゼントキャンペーンが置かれていた。

 

「ライオットブラッドを3本買わないと貰えないステッカー...絶対に宣伝方法として間違っているだろ」

 

どう考えても3本一緒に飲むことを推奨(そんなことはない)しているキャンペーン商品である爆薬分隊選手ステッカーに自分も乗ることをマネージャーから連絡を受けていたため、実物がどのようなものか気になり、手に取ろうとした瞬間、同じステッカーを取ろうとしていた人がいたことに気づいた。

 

「「あっ」」

 

「「すみません」」

 

咄嗟に謝るところが我々日本人の特徴なのだと訳の分からぬことを考えながら謝りつつステッカーを手に取ろうとしていた人を見てみると、紺青色のランニングウェアにARを搭載しているであろう縁が少し分厚いランニングサングラス、そしてサングラスをかけてなお、少しばかり只者ではありませんと誇示してしまっているオーラを放つ女性がいた。

俺はこの女性を見た瞬間、外道センサが危険信号を最大レベルで発したこと、何より「K( 魚臣慧)」と「顔隠し(ノーフェイス)」のステッカーを手に取っていることから彼女が誰なのか分かってしまった。

しかし、ここは早朝のコンビニである。いくら人心掌握悪辣魔王(天音永遠)様であろうとこれ以上声を発しなければ問題ない。

そう考え、軽く会釈した後、ライオットブラッド服用法「アクセル」を行う際にいつもお世話になるスポーツドリンクをそそくさとレジに持っていく。

会計中に軽く振り向き確認したがあちらは俺が「サンラク」であることに気づかなかったようだ。いやこの一瞬のエンカウントで正体がバレてしまったら恐ろしすぎるのだが。

出来る限り平静を装いながら、朝から出勤して眠そうなレジを担当しているコンビニ店員にスポーツドリンクを精算してもらう。

途中、品だししていたはずのコンビニの店長らしき人がもう一つのレジに向かっていくのを視界の端で確認しつつ、どうこの状況を切り抜けるか考えていると、鉛筆は俺の顔を知らないという当たり前なことを思い出し、ここで変な反応することこそが愚策であると気づく。

そして会計が終わり、静かにコンビニから出ようとした瞬間、奴がもう片方のレジで精算し終え、俺の背後についた。

しかしもうバレることなどありえない。ゴールは目の前なのである。もう声を発するイベントはないのである。もしバレたらライオットブラッドを3つ混ぜ、1缶分のみ摂取し、ある言葉以外の言語を喪失してしまう「タブー」で戦闘狂にでも墜ちてやろうかと心の中で息巻いていると、右ポケットに入れていたスマホが振動と共にメール着信の音がコンビニ中に鳴り響く。こんな朝っぱらから誰だと思いつつ、確認すると

 

 件名:4ヶ月でもう爆発分隊の顔になってるじゃんサンラク君

 

 差出人:鉛筆戦士

 

 宛先:サンラク

 

 本文:もうこんなかっこつけたステッカー出せるぐらいにはプロとしての自覚が出てきたのかな? 

 

 添付:(腕組をしつつ爆薬分隊のチームロゴに寄りかかる顔隠しが描かれたステッカー写真)

 

このポーズは俺が考えたのではなく夏目氏なのだがそんなことはどうでもよいのだ。如何せんタイミングが悪すぎる。

何故かって? そりゃメールを送った本人が後ろにいるのだ。ここですぐ振り返ったり、返信などしてはいけない。

反応しては自分が「サンラク」であることを自分から言っているようなものである。

しかしそんなことは理解していても反射的に軽く振り向き、奴を確認してしまった。なので出来る限り迅速に、かつ何も見なかったように、バレない程度に歩幅を広げ、人生において何度も助けてくれた隠密スキル:気配遮断を発動。

なんとしてもこの場から離れようと試みる。

しかし悲しいかな。何故か背後から何か凄い圧を感じる。

圧に負けず、コンビニの敷地から出てすぐに走りこみという名の逃走を開始する。しかしおよそ7mほどの距離を取りながらついてくる人影が。

 

(これはバレたとみて間違いないな...)

 

しかし俺とて簡単に「サンラク君ですか?」と聞かれ「はいそうです」と言うつもりなど微塵もない。ならばどうするか? 決まっている。

どうにかして巻くのだ。元々体力やその他諸々を強化するために走りこみを始めたのだ。成長した実力を見せる最初の見せ場があの鉛筆野郎から逃げるためなのが少しの悲しいが関係ない。

少しずつ走るテンポを上げていく。

 

さぁ! どれだけ体力がついたかおまえで確認させてもらうぜ鉛筆戦士! 

 

 

 

 

 

 

 

「ずりーぞ! 鉛筆! タクシー拾って家に先回りは! 恥を知れ恥を! つかどうやったら朝っぱらからタクシー拾えるんだよ! てかなんで俺のアパート知ってんだよ!」

 

「朝とは思えないぐらい喋るねサンラク君。君の個人情報なんて私のフォロワーもとい瑠璃ちゃん経由で全て筒抜けだし、タクシーなんて私の美貌に釣られて呼ばなくたって勝手に来る物よ?」

 

「嘘つけぇ!! 絶対アプリで呼んだだろ...」

 

妹も遂に兄の個人情報を売ってしまうほどに悪魔に墜ちたのか。いや昔から墜ちてたし俺に対しての扱い雑かったな。いつも服の荷物持ちのためだけに呼び出されたり、読モの撮影場所が遠かったら迎えに行かされたり。

うーん、そろそろ兄貴は世界中を震撼させた「顔隠し」だと暴露して威厳を見せるべきなのか? 

 

「にしてもサンラク君」

 

「なんだよ...てかここでは陽務でよんでくれ」

 

「なら私も鉛筆じゃなくて永遠って呼んでよ楽郎君? というか、あんなに顔隠す必要ないくらいには整ってるじゃん。さすがは瑠璃ちゃんのお兄様」

 

「別に自信ないから隠していたわけじゃないんだよ。俺は今をときめくカリスマモデル様とお知り合いっていう事象そのものが怖いんだよ!」

 

「嘘!楽郎君の口から私の褒め言葉がでるなんて...」

 

「頼むからもう口閉じてくれ!朝っぱらからカロリー消費が凄すぎる...」

 

「ハハッ!! 確かにちょっと飛ばしすぎた? まぁ今まで顔を隠し続けたツケってことで。おっと、もうこんな時間。私のお家と距離近いっぽいし次は中に入らせてもらおうかなぁ? じゃあまたね! 楽郎君」

 

「おう、もう二度来ないでくれ」

 

さらっと名前呼びだったのが恐ろしいが、嵐は思ったよりすんなりと去ってくれた。しかし、遂に顔バレしてしまったことによって今後の方針(外道共の対応)をどうするか思案するため、家に戻ろうとすると、顔バレを誘発させた忌まわしき右ポケットにあるスマホがメール着信の音を鳴らす。

 

件名:顔バレおめでとう!! 

 

差出人:鉛筆戦士

 

宛先:サンラク

 

本文:思ったよりもタイプだったから今度からアタックしちゃおうかな? 覚悟してね楽郎君? 

 

 

「実は朝っぱらから酒を飲みながらジョギングでもしてたのかあいつ?」

 

独り言を口にしながら家のドアを開ける。このメールが彼の人生を一変させることをまだ彼は知らない。

 

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