9月というまだ暑い時期に俺は仕事仲間兼ライバルから食事のお誘いが来た。
「裏で何考えてやがるカッツォ。えーとなになに?くる人はカッツォ、夏目氏...天音永遠。本当にただのメシの誘いか?」
返信しようとしているとここ一か月天音永遠の師匠発言によってさらに注目度が上がってきている妹君からお迎えの依頼メールが飛んでくる。
「お。仕事終わったか。ちょっと待ってろよっと」
お迎えメールに返信を送り、支度をする。以前妹のお迎えを鉛筆大魔王の策略に嵌った経験から身なりは出来る限り気にするようになった。
「ハシビロコウのTシャツめっちゃいいのになんで不人気なのかねぇ」
スマホと最低限の荷物をもって迎えに行く。あの生特番以降、大学では有名人になってしまい、最初はからかっていた友人たちも気にかけてくれるようになった。それはそれとしてカッツォやペンシルゴンのサインをせがんでくるのはやめてほしいのだが。
「あいつらのサインっていくらぐらいで取引されてるんだ?」
そんな野暮なことを考えながら駅に着く。スタジオの最寄り駅まで電車を利用するのが一番コスパが良く、一般市民である俺にはちょうど良い。そんな中、
「もしかしてノーフェイスさんですか!?ファンなんです!リアルミーティアスとの闘い生で見てました!サインを!!!」
「ウッ!」
まさかの俺のファン!?そんな物好きがこの世にいるとは思わず、顔を隠すものなんてつけていなかったのが裏目に出てしまうとは。
「ハハハ...オウエンアリガトウ...サインイルノ?」
「めっちゃほしいです!」
あいつらのサインについて考えていた俺にバチがあたったが如く目を輝かせサインを欲しがってくれるこちらの女性から油性ペンを貸してもらいメ、モ帳に大きなサインを書く。こんな俺にもついにサインを書く日が来るとは。なんて考えていると周りに人だかりが出来始めた。すまん妹よ。兄はここでしんでしまうようだ。情けないね...
「すみません永遠様。兄から変なメール届いて変なこと言ってます。」
「ん-?見せてー瑠美ちゃん」
「はは!こちらです!」
「うむくるしゅうないくるしゅうない。なになにー?[眩しすぎる光は俺を切り裂くには十分すぎるほどの威力をもっているみたいだ。]何言ってるの楽郎君は」
「私にもわからないのでもうどうしようもないですねー」
「もし楽郎君が迎えに来なかったら私がタクシー代出すよ」
「恐れ多すぎます!私なんかのために!」
「こーら自分だとしても陽務瑠美は私の弟子よ?私の弟子を[なんか]なんて言わないで頂戴?」
「永遠様!!」
そんなやり取りをしていると、
「なーに俺の妹を口説いてるんだ鉛筆てめー」
「あ、お兄ちゃん」
「おー!楽郎君!待ってたよー」
「俺は瑠美を迎えに来ただけなのになんでお前がいるんだよ」
「それは私が瑠美ちゃんの師匠だからじゃない?」
「永遠様!!」
「だめだこいつ完全に洗脳されてやがる。」
そんなことをつぶやきながら2人が待っていた待機室のドアを閉めて寄りかかる。あの時から俺の中にある天音永遠に対する恋慕は燻ったままだ。同じ部屋にいるだけで顔が赤くなりそうなため、今までやってきたクソなゲーム達のことを思い出す。やっぱだめだわ。フェアクソがちらついてやっぱり顔が赤くなりそうだ。
「なんで楽郎君遅れたの?メール的になにかあったんでしょ?」
「そういえば怪文書届いてましたね」
「あぁ。駅で俺のファンにサインをお願いされてな。そのまま人だかりが出来て遅れた。すまん。謝罪はするが誠意はない。」
「誠意のない謝罪なんて謝罪じゃないよ?けどついにサインをお願いされるほどの有名人になったんだねー。お姉さんうれしいよ...」
「元を辿ればお前のせいなんだぞ天音!」俺がさっきどれだけつらかったか...」
「サイン如きで音を上げるんだったらカッツォ君にも負けちゃってるね。いいの?負けてて。」
「はーーーーーー!?俺がカツオ野郎に劣ってるわけねーーだろ!!!」
「うーわほんとに簡単に口車に乗せられちゃってる。あんなのが兄とは」
「うっ!!」
「アッハッハッハ!!やっぱり2人とも最高だね!」
「永遠様に褒められた!」
「騙されるな妹よ。奴は本物の魔王だぞ」
こんなやり取りを少ししていると瑠美はマネージャーに呼ばれて部屋には俺と永遠の2人になった。だが揶揄いあいは続く、そんな中やっぱり俺はこの天音永遠という人間が好きなんだと思い知る。俺の発言にのらりくらりのってきて反論してくれる。こんな関係がとても心地よい。だから...
「やっぱり怖いな…」
「なんか言った?」
「いや何も?」
「そう?じゃあそろそろ出よっか。瑠美ちゃんお家に帰さないとだし。あっ、楽郎君を待ってた理由忘れてた。」
「俺を待ってた理由?からかうのが理由じゃないのか?」
「それもあるけど。カッツォ君からごはんの約束きた?」
「あー来たぞ。3人が行くなら俺も行くぞ」
「楽郎くーん。そのみんなが行くならって考えやめなー?プロになったなら自分の意志をしっかりもたないと」
「こればかりは正論かもな...」
「ふふん!ごはん行くんだね?」
「あぁ。天音は行かないのか?」
「カッツォ君の頼みだし行こうかなー」
「そうか。楽しみだな」
「...エ?」
「?なんか変なこと言ったか?」
「いや?なんでもない。できればこっち見ないで...」
そんなこんなでスタジオから俺は瑠美を実家へ送るために出た。最後、反応がいまいち変だった天音は少し気になっていたが、終電が近いためスタジオから出て最寄りの駅へ向かう。最近瑠美の迎えに天音がいることが普通になってきたが師匠だとしてもおかしいと思うんだが。
なんとか誤魔化せたようで安心した。違ったとしても私と同じく、「楽しみ」だと言ったあなたに心臓が高鳴ったことは秘密にしたいな。