私は侮っていた。彼のセンスを。彼の執着を。今にして思えば顔を隠すためにガスマスクを持参して来るような男だ。期待してはいけなかったのだ。
「だぁかぁらぁ!上も下も黒色で統一も100歩譲っていいよ!けどなんでワンポイントも何もない無地の黒ばかり選んでくるの!」
「セットで着ること考えて選んで!」
「その厨二病満載のネックレス辞めて!なんで修学旅行で買いそうな龍の装飾を選んだの!まだ中学生なの!?」
「冬服選びに来たのに何でTシャツ選ぶの?バカなの?死ぬの?」
「罵声がずっと飛び込んできやがる…」
両手に荷物を持ちながら呟く彼に強く言い返す。
「いい?カッツォ君に笑われない服を選びたいって言い出したのは君なんだよ?この私を連れ回してる事を考えても本気出さないと。」
俺の人生はクソゲーという単語から始まりクソゲーで終わるあっけらかんな人生だったのだ。なのに日本を代表するモデルと服選ぶことになっている。
そしてこいつは俺が考えたファッションをとんでもない罵詈雑言でぶった斬ってくる。
助けてくれ、妹よ。お前に頼るのは心の底から癪ではあるがこのままではお兄ちゃんは灰になって崩れ落ちてしまう。
「もー!全然ダメ!こうなったら私が選ぶから!いい!?」
「最初からそうすればよかっただろ…」
「いーや駄目だね!ファッションってのは自分がどう見られているかを知らないと出来ないものでもあるんだ。で!この結果ってことは楽郎君は自分のことを客観視出来ていないってこと!わかる!?このご時世プロゲーマーが自分の容姿気にしないとか無しなの!」
「はい…もうしわけない…」
もう!なんて言いながらマスクで顔を隠しても分かるほど頬を膨らませる永遠を見て反発する気力もなくなった。
流石モデルという事もあり、魚野郎との決戦に着る服を何着も見繕ってくれた。中には妥協として刺繍にペリカンが履いたレザージャケットなんて探してきてくれた。実はハシビロコウはペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属に分類される鳥類なのだ。よってこいつも≒ハシビロコウと認識することが可能である。とても嬉しい。
そんなこんなで両手に大量の紙袋を持ちながらフードコートで一休みすることになった。最も、フードコートになった理由は永遠がジャンクなバーガーを食べたいと言い出し、バーガー屋さんがフードコートにしか無かったためだ。
「いやー!買った買った!馬子にも衣装っていうし!」
「誰が身分低いってー!?あぁーん!」
「高いも低いも関係ないわよ。全部私が選んでやったのよ?こと服装に関しては私より右に出る人間なんていないんだからこうべを垂れて泣き叫びながらその奇跡をありがたがればいいのよ」
「こいつ無敵か?」
「なんてくだらない会話をしながらバーガー屋さんから受け取った呼び出しベルが鳴ることを待ち続ける私たちであった」
「誰に説明してんの?」
「んー?そこで私たちを盗み見てるファンの皆さんに」
「は?」
「実はさっきね、このショッピングモールに天音永遠がいるってSNSのタレコミが出ちゃったみたいなの。そんでほら。君の右後ろの席の子達がこっちをずっと見てるの。まぁこれだけ騒ぎながらショッピングしてたらバレちゃうよねー!アハハ!」
「アハハじゃねぇアハハじゃ!」
これはまずい。非常にまずい。何がまずいかっていうと天音永遠が男を連れてショッピングモールで喧しくショッピングなんていう報道が出てみろ。前回みたいな密会事件じゃ済まない。
「まぁ良いじゃない。バレたって。」
「…なんだって?」
「私、君とならそんな噂されたっていいって言ったの。」
「へ?」
「んー?どうしたの楽君。おっとベルが鳴った鳴った!とってくるね」
思考が止まる。それはつまり。え?それって。おれのシナプスは情報を送る事を拒絶する。遠ざかっていく呼び出しベルと耳を真っ赤に染めた永遠を見ながら俺は思考を放棄した。
この天音永遠人生いっちばんの大勝負!私の勝ち!あの間抜け顔たまらない!けどこれハンバーガー持って帰った時どうするの?