午前中の講義を終え、午後の予定がないかスケジュール管理アプリを開く。すると、新しいスケジュールが入れられていることに気づく。
お迎えお願い!!18:00終了:○○撮影スタジオ2階
まったく人使いが荒い妹である。正直、天音永遠に顔バレしてしまったため、以前ほど撮影現場に行くことに警戒する必要はないのだが。
「なら一旦家に戻って用意するか...」
家に戻る途中、プロとして戦っているGH:Cの新戦法を考える。
「最近、思考が凝り固まっていかんな。神ゲー様に頼るか?」
サンラクがプロゲーマーになるきっかけ、GH:Cのゲームエンジンを手がけているユートピア社がリリースしている全世界が認める神ゲーム[シャングリラフロンティア]にログインするか考える。
とその瞬間、SNSの着信音がする。
[ハンバーガー食べたい!]
だそうだ。撮影で疲れているだろう。できる限り撮影スタジオ近くにあるハンバーガーのファストフード店があるかアプリで確認する。
「最近、自分に人気あることが出ている気づいているのか?」
1年前から、実家には瑠美目当てで天音永遠が良く来るようになった。
なんでも瑠美は俺の妹関係なく、天音永遠に気に入られ、モデルとして大事なイロハをたたき込まれたようだ。
その甲斐あってここ数ヶ月、妹の人気が上がっていることをひしひしと感じる。
昨日も瑠美が表紙の雑誌を本屋で見かけた。
自分に「顔隠し」という爆弾がなければ素直に応援してやりたい。
「人気急上昇の妹のためにもちゃんとした場所相応の服装にしないとな」
「永遠様!兄にハンバーガーが食べたいと連絡しました!」
「ごめんねー?カロリー重めの頼みごとしちゃって」
「ハイ!イイエ!」
その反応はどっちなんだと考えながら天音に話しかける。
「じゃあ作戦の最終確認をしよう。天音さん」
「んー...だから天音じゃなくて永遠で呼んでよ。慧君!君達にそんな堅苦しく言われるの嫌だなー!お姉さんはー!」
「こんなモデルの撮影現場で俺が名前呼びしたら首が飛びますー!」
「ま、今後に期待!それじゃあ早速始めようか!
撮影終了時間の少し前にスタジオにお邪魔し、撮影が終わるまで静かに待っていると撮影が終わり、少し顔に疲れが出ている瑠美が来た。
「おう、お疲れ様」
「うーん、淡泊!もう少し労って欲しい!」
「馬鹿言え、いつもお迎えをしているこっちの身にもなってみろ!」
「ブー!絶賛人気急上昇中の妹になんて言い草!お兄ちゃんどうせ大学終わったらずっとゲームじゃん!」
さらっと自分のことを人気急上昇中って言ったぞこの妹。
「趣味に関して家族間で口出しなし!が暗黙の了解だろ?ほらハンバーガー食べに行くぞ」
「ちなみどこのハンバーガー?」
「ここのスタジオに一番近くにあった所じゃだめか?」
「そこなら問題なし!」
「なら行くか」
そう言ってスタジオを後にする。
いつもなら撮影であった事を話してくれる瑠美だが、今日は熱心にスマホを叩いている。なにかあったのだろうか?
程なくして撮影スタジオに一番近いハンバーガーショップに入る。その瞬間に妹が腕を掴んでくる。
「どうしたんだ妹よ?もう一人で注文出来るお年頃だろ?」
しかし妹は悪い笑みをしながらずんずんと店に入って行く。
何か癪に障ることを道中でしてしまったかと行動を思い出していると、見知った顔もとい、自分が所属する「爆薬分隊」のチームメイトがあり得ない量のフライドポテトを食べていた。なんだその量いくらなんでも多すぎる。
唖然としていると一心不乱にポテトを口に持って行く女性と目が合う。
急いで瑠美に視線を移すといつの間に腕から離れ、何故か店内にいる外道鉛筆に抱きついて一緒に注文している妹の姿が。
そしてこちらを一瞥してウィンクする鉛筆。
そうか、今日のお迎えは罠だったのだ。おそらく外道鉛筆が瑠美を使って俺をおびき寄せ、夏目氏の大食いポテトと妹の行動で俺の思考、歩行、視線を制限、そして...
「俺もあの量は心配なんだよね」
そんなことを言いながら肩を組んでくる「爆薬分隊」のリーダー。
「なぁ?サンラク?」
「謀ったなペンシルゴン!!!」
もはや逃げる術なしと諦め、夏目氏達が座っている机にできる限り影を薄くしながら座る。こいつら3人しかいないのに6人席を取っていたことから俺を嵌めるためにこの店にいたのだ。
「いやーサンラク君奇遇だね?私達親睦を深めるために「なわけあるか!!」」
何故か俺の隣に座る鉛筆の話に割り込んだため、妹の目線が怖い。えなにあの目!人殺しの目?
さらにまずいのが他の客の視線である。あり得ない程見られている。
それもそのはず、日本を代表するカリスマモデルとモデルとして人気急上昇中の妹、日本の格ゲー界隈を牽引するチーム「爆薬分隊」のリーダーとメンバーが同じ席で食べているのだ。生きた心地がしない。
「それで永遠様?何故うちの兄をこのお二人に会わせたかったのですか?」
「良い質問ね?瑠美ちゃん。それはね君のお兄様は...」
「待ってくれ天音さん、そこはちゃんと俺とメグに話させてくれ。瑠美さん。今から言うことは全部真実だ。それを前提に聞いてくれ」
「?」
そうして、動画サイトに投稿されている
[動画名:GH:CリアルカースドプリズンVSリアルミーティアス]
を見せながら慧は続ける。
「このカースドプリズンってキャラクターを操作してるのが当時高校2年生の楽郎。そこで色々縁が出来て、今は俺とメグが所属してる爆薬分隊ってチームに[顔隠し]として所属、そして世界ランキング1桁をキープし続けている謎のカボチャ仮面が君のお兄さんの正体だ」
固まってしまった。それもそのはず。妹からすれば年がら年中クソゲーをプレイしている兄が実はプロゲーマーだったのだから。その衝撃は計り知れない。
昔はゲームをするだけと考えられ、プロゲーマーは軽視されていたが、今ではあこがれの的になる立派な職業である。
「...」
「あららーフリーズしちゃったね」
「おいサンラクおまえプロゲーマーになったこと妹さんに説明してなかったのかよ」
「父さんと母さんには話したよ。けどあのとき瑠美は人気が出始めた時だったから変な影響与えないように黙ってた。」
「まぁ、言いたいことは分かるけど、ちゃんと伝えないとダメでしょ」
「それもそうだな、すまんかった。瑠美」
「エ?ア、ウン」
「ダメだこりゃ」
一旦瑠美を放置して再起動がかかるのを待ちながらGH:C同窓会が始まった。
「にしてもサンラク」
「なんだカッツオ」
「もしかして顔を隠してた理由本当に妹さんのためだったのか?」
「それもだが、あの天音永遠と日本の格ゲーエースと知り合いって周りにバレたくなかった」
「まぁバレたら平穏な生活は送れないわよね...」
「結局プロゲーマーになってしまったんだけどな?」
「で2人とも、リアルサンラクもとい陽務楽郎君はどうだい?」
「思ったより一般人」
「人畜無害に感じるわ」
「一体俺をなんだと...」
そんなたわいのない会話をし始めて30分ぐらいたっただろうか。
客の誰かがこの同窓会+妹の情報をSNSに流したのだろう。ドンドン人が集まってくる。
「さすがに長居しすぎたかな?今日はここまでにしときましょう!」
「賛成です」
「また今度ちゃんと話そうぜ。楽郎。もうガスマスクなんてつけてくんなよ」
「わーってるって。ほら瑠美、帰るぞ?」
「ハーイ!それでは永遠様また何かいつでもお呼びください!」
「今日はありがとうね瑠美ちゃん!」
そうして5人は各々の帰路に就く。
瑠美を実家まで送った後、アパートに帰る。
遂に顔隠しとして世間にバレるのか、それとも瑠美の兄貴として世間に公表されるのか定かではない。なので今回の首謀者はどう考えているのか聞くことにした。
「あの中で俺だけ世間で知られてないだろ。どうやって周りを言いくるめるんだ?天音さん。あとついてくんな」
「もー!名前で呼んでよ楽郎君!」
「うわほんとにいたのかおまえ...」
「まさか嵌められた?」
「おう」
何故つけていたのか聞きたかったが、少し赤面しながら寄ってきた天音から何故か目が離せなかった。
「どうしたの楽郎君?」
「なんでもない...てかなんでついてきたんだよ」
「秘密!」
そういって笑う笑顔があまりにも可憐で、初めて彼女を異性として見てしまったことを自覚した。
「おや?その顔はもしかして見惚れてる?」
「バッ!」
「おぉー!そんな反応楽郎君出来たんだねぇ?その反応に免じて今日はここまでにしといてあげましょう!」
「勝手に言ってろ!!」
「それじゃーバイバイ。楽郎君」
そう言ってやっと本当の帰路に就く彼女を見て、俺は自分の何かが変わったのを感じた。