あなたの輝きに惹かれて(永楽)   作:楼瓶

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運命の密会事件から2日が経った。昨日は完璧に肉体と精神が水と油のように反発し合って何もする気が起きなかった。ただベットに寝っ転がって天井の模様を数える日となった。

しかしその甲斐あって、心の整理が出来、朝の日課の走り込みを敢行できるほどには心身共に回復した。

やはり不調の時こそ頭を空にして考えることが大事なのである。

 

「フーーッ……よし…」

 

歯車を意識する。少しずつ、歯車の回転数を上げるイメージをしながら走り始める。

以前カッツォに言われたことを思い出す。

 

「サンラクの強みはテンションと直結したパフォーマンスから繰り出される圧倒的な択の押し付けだ。だがシルヴィと違って、その高パフォーマンスを維持出来ない。だから体力と集中を維持する術を見つけるべきだ」

 

簡単に言ってくれるがそう簡単に出来るものでもない。

そうして悩みに悩み、考えに考えた末に生まれた策。それは自身のイメージを創造、そして投影する。俺の場合は歯車のイメージである。

 

全身が沢山の歯車のイメージだ。

歯車は回転を始めてしまえば周りの歯車と噛み合い、回転は伝播していく。

 

上半身は頭→首→肩→腕→手のように

 

下半身は胴体→腰→膝→足

 

このように歯車を回転させ、他の歯車に連動させていくのだ。この回転こそが自分のパフォーマンスを決定づけるテンションである。

 

むちゃくちゃな理論であることは百も承知である。

だが、もしイメージ上でもうまく噛み合わせることが出来たのならば、今よりさらに自分が目指すプレイスタイルに近づけるだろう。

 

今日の走り込みはこの思考練習も兼ねて行う。

少しずつテンションを上げる。思考をクリアに。要らない思考はゴミ箱に。雑念も全て捨て、歯車を回す。

ここ数日、「恋」という新しい感情を知ってしまったがトレーニングには関係ない。

どんなものであってもこのイメージの前では雑念と化す。

御託はもういい。思考を完璧に切り替える。

乱雑に配置されている脳の回路が整頓されていく。

次第に意識が加速を開始する。

この感覚を知覚できたことはすなわち、歯車が動き出したことを意味する。

ここまでくると成功といえる。成功率は五分程度だが、今日はテンポ良く歯車が動いた気がする。

やはり一日中丸ごと休みに回したのが良かったのだろう。

このまま意識を加速させる。ここ数日の不調をこの歯車の超回転で吹き飛ばす!

 

それに。自覚したのなら、ちゃんと向き合いたいと思うのが俺である。

 

「あいつに釣り合う男になるなら!もっと強くならないとな!」

 

 

 

 

 

 

今日も日課のウォーキングを始める。ほんの少しではあるが気温が下がり、より一層過ごしやすくなったことを肌で感じる。

昨日は百とリモート飲み会もどきを行ったため、起きるのに少し苦労した。しかし、これぐらいでやめてしまったらモデルとしてやっていけないのである。

それ以前に夜遅くまで飲み会しなければよいのだが。

 

「なんか頭の奥にしこりがあるような…」

 

そういいながらもストレッチを終え、ウォーキングを開始する。

彼に対して、明確に意識し始めたあの顔隠し露呈事件もこの走り込みだったことを思い出す。

 

あのコンビニでの出会いがなければ、私はこの恋心を見てみぬフリを続けたのかもしれない。

 

柄ではないが運命なんじゃないかと思う。

 

「ホント柄じゃないよね」

 

けどそう思えるくらいには奇跡的だったのだ。

この歳になって1人の男に恋をした。

告白なんて数えきれないほどされたものだ。やり方は分かる。

だがあのクソゲーマニア兼プロゲーマーになってしまった彼にどう伝えれば良いものか。

そんなことを考えているとマネージャーから今日のスケジュールが変更した旨のメールが届く。

撮影スタジオの手配ミスがあったようだ。午前丸ごと休みになってしまった。

ならば昨日のお酒で本調子じゃない分ゆっくりしよう。

このポカをやらかしたマネージャーには後でお灸を据えてやらねば。

そんなことを考えていた瞬間、向こうから結構な速度でランニングする青年を見つけた。

一目見た瞬間分かる。彼だ。楽郎君である。

 

何と幸運な日だろうか。あのコンビニ事件以降、あの日と同じ時間に合わせてウォーキングをし続けた甲斐があった。

もう彼も密会事件で顔が割れてしまっている。気軽に話しかけたって問題ないだろう。

 

「おーい楽郎くーん」

 

…しかしこちらには目もくれない。いや、この感じは集中して周りが見えていないように見える。

鬼気迫るような迫力を纏い、話かけることが出来ず、すれ違う。

 

黙って彼を見送る。

 

その横顔を見て思わず息を呑む。

 

「君は知らないと思うけど顔隠し(ノーフェイス)は女性ファン沢山いるんだよ」

 

徐に彼が走る写真を撮る。

これは待ち受けにでもしよう。

 

朝から良いものが撮れた。こんな遠くからではなくツーショットで撮れる日を私は欲する。

 

「ならやっぱり使えるものは使わないとね」

 

彼の動向を知る上ために、あるフォロワー(狂信者)にメールを送る。

 

「誰にもあなたを渡さない。覚悟してね。楽郎君」

 

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