浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第1話 浅野志御の時間

「おいおい!学年トップの優等生サマがこんなことすら分かんないとか最高に笑えるな!」

 

 2月も間もなく終わると言った冬の日。会議室のキャスター付きの椅子にふんぞり返った少女は「あっはっは!」と高笑いした。軽くウェーブの掛かった長く鮮やかな金髪はまとめられることなく広がっていて、髪型一つ取っても気紛れで勝ち気な性格を隠そうとしない。けれど、綺麗な顔立ちが良く目を引く少女だった。

 そして彼女に酷く似た向かい合った少年は深く重いため息を吐く。

 

「……ふざけてるのか?何度反芻しても正気の沙汰じゃないな」

「はっ、私はいつでも素面だぜ?その言葉そっくりそのまま返してやるよ」

 

 そう言って頬杖を突いた少女はニヤけながら手元のプリントをヒラヒラと振り回す。「転級通知」と書かれた書類のコピーは少年の目の前にも何喰わぬ顔で鎮座していた。「あなたの素行は当校生徒として相応しくないため、特別強化クラスへの移動を指示します。椚ヶ丘学園生徒指導部」、そんな文章が躍る書類は、本来であればこの学園における何よりの屈辱。けれど目の前の少女は「クソ真面目で最っ高にウケるんですけど!」とニヤケ面を浮かべたまま。

 

「……理事長はなんて言ってるんだ?」

「さあな。目の前でムカつく担任にエアガンパナシてから一回も口聞いてないし?」

「……」

「っていうかどうせ関係ないじゃん?私は所詮オマケ。本丸(そっち)がやらかさない限りこっちには見向きもしないだろ」

 

 「違う?」と相変わらずのニヤけで頬杖を突いたまま少女は尋ねる。少年は否定することなく目を瞑り、そしてもうしばらくの後に「そうだな」と答えた。その答えに少女は満足そうにまた笑った。

 

「ってなわけで3月から私はE組。あっは、A組サマとは口も聞けなくなっちゃうぜ!」

「……」

「じゃあな。低みの見物キメてやるからさ?浅野学秀、お・に・い・さ・ま♡」

 

 そう言い残して少女、浅野志御(しおん)は軽やかに消えていった。

 

◇◇◇

 

 椚ヶ丘学園。理事長である浅野學峯の辣腕によって僅か創立10年ながら中等部偏差値66、高等部偏差値71を誇る全国屈指の名門中高一貫校。しかし、その急成長には一つのからくりがあった。

 それこそが「特別強化クラス」、通称「エンドのE組」。極めて簡単に言ってしまうのであれば、「被差別階級」である。成績下位5%の生徒を集め、隔離し差別するという制度だ。校舎はE組だけ山奥の旧校舎を、E組だけ部活動禁止、E組だけ内部進学不能etc……徹底的な差別待遇を目の当たりにし、E組以外の生徒は意地でもE組に落ちないように奮起するようになる。そうして95%の学力を飛躍的に向上させるというシステム。合理性の塊のような教育制度だ。

 

 そして、そんなE組の教室、その最後方の座席に彼女はいた。

 父は浅野學峯、双子の兄に椚ヶ丘学園中等部不動のトップ、浅野学秀を持つサラブレッドのような家庭に生まれ、優秀クラスであるA組で女子トップの成績を誇りながらもずば抜けた運動神経も持つ才色兼備。それこそが浅野志御という少女。

 けれど、彼女は父や兄とは違った。極限の支配欲や負けず嫌いの彼らと同じ様な才には恵まれど、志御にはそれほどのハングリーさは無かったのだ。努力する天才である學峯、学秀と違い、彼女は気紛れな天才。噛み合えば彼ら以上のものを発揮するが、噛み合わなければそれまで。それでも学年トップ層に食い込んでいたのはひとえに怪物じみた教育者である父の英才教育の賜物だったのだろう。尤も、その英才教育も父の後継として帝王学までも叩き込まれた学秀ほどではないのだが。故に彼らほど完璧ではなく、敵も作る。しかし、総じて言えば浅野志御という少女は「君臨する側」であった。

 

 しかし、そんな彼女には一つの秘密がある。

 それは、彼女が「転生者」であるということ。前世は一般的なジャンプ読者であった17歳の少年。火事に巻き込まれ、脱出を図ろうとしたところでの転落死。一切の事件性のない、偶発的な事故で彼は亡くなった。

 その意識は彼女に引き継がれた。本来「暗殺教室」という作品に登場するはずのない、浅野学秀の双子の妹として。初めは彼の意識がほとんど全てを占めていたが、「浅野志御」の成長につれてその意識は徐々に薄れ、代わりに「浅野志御」の自我が台頭した。彼が持っていた記憶は彼女の潜在意識として刷り込まれた。要は酷くうっすらと、きっかけがないと全く思い出せない程度ではあるが、彼女は原作知識を行使できるということだ。

 しかし、強烈に刻まれた記憶一つだけは常に頭にあった。それこそが「E組」。椚ヶ丘中学校、3-Eだった。今の彼女には、そこに何があるかは分からない。けれど彼は確かに自らの転生に気が付いた瞬間からそれを思っていた。それが彼女の記憶に消えない爪痕を残したのだ。父や兄のような合理主義者ではない快楽主義者の彼女はその爪痕を直感として処理した。「絶対何かあんだろ」と。

 

 そして現在。彼女の目の前では最高に面白いことが起こっていた。

 教壇に立っているのは博士服を纏った黄色いタコのような生命体。粘液を纏った無数の触手がヌルヌルと蠢いているが、この教室の先生だ。「起立!」の号令とともに立ち上がり、「気をつけ!」の号令とともに生徒達がゴーグルを掛けてそれに向ける銃口の数々。エアガンだろうが、その金属質は教室に存在するものの中では2番目に違和感にあふれている。

 そして「礼!」と号令とともに鳴り響く発砲音。26の銃口から放たれた無数のBB弾が黄色いタコに向けて飛んでいくが、タコはマッハ20というとても不可解な速度でそれを難なく躱し、そして回避と同時に出欠を取り始める。銃声のせいで生徒達は声を張らなければならない。

 

「浅野さん」

「はーい!!」

「磯貝君」

「は、はい!!」

「岡野さん──」

 

 そして出欠確認を終えたくらいで銃声が鳴り止む。弾切れだ。一体何発のBB弾が放たれたのだろうかと考えるのは気が滅入る作業だが、一つ確かなのはただの一発も命中していないこと。なんせ先生は「無遅刻無欠席!皆さん素晴らしいですね!」黄色くて真ん丸い顔にでっかく赤丸を浮かべているのである。「中々当たんないもんだな、これ」とぼやきながら、志御はクラスメイトとともに足元に散らばったBB弾を片付けていた。

 

 タコは教師で、志御達は生徒。それと同時にタコは標的(ターゲット)で、志御達は殺し屋。

 椚ヶ丘中学校3-Eは「暗殺教室」である。




9とか10とか感想とか入ると大はしゃぎします
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