浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「……それで、殺せんせーを1番追い詰めたのは自爆テロ仕掛けた渚。多分その次は身投げしたカルマだろ」
昼休みの教員室。渚と入れ替わりになってイリーナの下を訪れた志御はキャスター椅子を回しながら話していた。手元にはタバコ。「渚辺りに注意されたろ?」と志御は言うが、イリーナは気にも留めていないようだった。
「共通点は自分を人質じみた使い方してるってとこだけど、多分ビッチ姉さんじゃ無理だな。あれは殺せんせーが「先生」であいつらが「生徒」だから成り立ってる。ビッチ姉さんは大人しくハニトラ仕掛けた方がいいぜ」
相変わらず教師への敬意というのは欠片もなさ気な態度だが、渚から聞いて既にイリーナが知っている場所は飛ばしつつも「このBB弾が結構効く」とか「テンパると弱い」とか要所要所はきちんと話しているその様子は本人曰く「キスのお礼」。「案外使えるじゃない」とボイスレコーダーやタブレットで記録していたイリーナはふと志御に尋ねた。
「っていうか、なんであんたこんなところにいるのよ?」
「こんなところ?」
「だって
そんなことを言いながらイリーナは朝の様子を思い出していた。パッと見だけで自らをスラブ系と判断した洞察力、非ネイティブ特有の力みを感じさせないスムーズなロシア語とウクライナ語、その場で殺し屋だと見抜く推理力。殺し屋として多くの人間を見てきたという経験と自負が、彼女が只者ではないと語っている。「あー」と少し考えて、志御は答えた。さっきのキスの所為か、志御は「ビッチ姉さんになら話してもいいか」なんてことを思っていた。どうせファーストキス奪われた相手だし、と。
「……行き過ぎた反抗期」
「反抗期?」
「そう。私の父さん、超厳しくてさ。しかも厳しい上に目を掛けるのは兄さんばっかで。そんでどうしようもなく腹立って、それでもう、とにかく否定してやろうって思ってここまで来た。馬鹿らしいよな」
「……へえ」
「まあ面白いから良いけどな」と強がり混じりかどうかという言葉をこぼす志御に、少し考えてからイリーナは言った。
「あんた、殺し屋やらない?」
「……は?」
「向いてるわよ。顔も身体も悪くないし、コミュニケーションも出来るし、私のキスで堕ちなかったんだから才能もある。やるっていうなら私が一から仕込んであげるわ」
あまりに気紛れな提案だった。自分でも、なんでそんなことを言ったのかは分からない。強いていえば、その勝ち気、高飛車の裏に隠された少女らしい本音への僅かな同情。けれど、目の前の浅野志御という少女があまりに才能に溢れた原石であることもまた事実。自分と同じことが出来る駒が増える、その価値は計り知れないものがあるだろう。答えを待たれた志御は、「それなら」と口を開いた。
「交換条件。ビッチ姉さんが殺せんせー暗殺に成功したら、弟子入りしてやるよ。その代わりだ」
「……聞かせなさいよ」
「殺せなかったらマジで「先生」やってくれよ。今のお悩み相談とかそれっぽかったしな」
調子を取り戻した志御はケタケタ笑って言う。どうせあり得ないし、と「もっと吹っ掛けた方が良いんじゃない?」と軽い笑いと共に答えたイリーナに志御は「天才ブックメーカー舐めんな」と一蹴する。
「賭け金は私のファーストキス。……乙女のファーストキスの価値、分からないはず無いよな?」
答えなかったイリーナに「じゃあな」とすっかりさっきの弱みはどこかへ仕舞い直した志御は意気揚々と去っていった。
◇◇◇
「おまたせしました、イリーナ先生」
「まあ、本当に買ってきてくださるなんて!」
「マジで授業やらなかったな」「まさかホントに1時間自習とはね」なんて五限目も終わって生徒達は話している。校庭では、イリーナに絶賛パシられ中の殺せんせーがチャイティーを買ってきたところだった。そしてイリーナはクイクイとわざとらしく殺せんせーのアカデミックドレスの裾を引っ張り、「二人きりで話したいことがあるの」と告げる。
「ええ、喜んで」
「良かった。この後体育倉庫とかで……いかがかしら?」
鼻とかないのに鼻の下を伸ばしきってるのが分かる殺せんせーと、言葉巧みに「狩り場」へ誘導するイリーナ。「これで百億と使える駒ゲットなんてチョロいものね」と内心でイリーナはほくそ笑んでいた。
「おいおいマジかよ」
「なんか殺せんせーがそういう感じだとショックかもー」
「ね、幻滅っていうか」
一足先に六限目の射撃演習に備えて校庭に出ていた生徒達が後ろ指を指すが、二人には届かない。やはり生徒達に不満が募るが、僅か一日でここまで優位に持ち込んだその実力は否が応でも超一流であることもまた彼らは理解していた。志御は「まあ無理だろ」と目もくれずに演習用のターゲットの頭を執拗に撃ち抜いていた。
◇◇◇
「それでイリーナ先生、話というのは……?」
体育倉庫に二人きり。扉を締めたイリーナに殺せんせーは尋ねる。彼女は答えること無く、徐ろに上着を脱いだ。
「……ごめんなさい、殺せんせー」
「にゅやッ?!」
殺せんせーの小さな目が谷間に釘付けになる。「本当に、あなたのことが好きになっちゃったの」とゆっくりと、這うように近づいてくるイリーナに殺せんせーはパニックモードになりかける。その視線の先は豊満な胸に固定されて揺らがない。イリーナはまたほくそ笑んだ。体育倉庫は僅かな時間で改造が施されており、棚、跳び箱、体育マットの何れもが射撃場所としてセッティングされている。そこで構えるのは彼女が先程連れてきた屈強な男達。その手元には実弾、それも殺意の高い散弾の籠もった銃。
「裸を見せるのは少しだけ緊張するの。……少しだけ、待っててくれないかしら?」
「は、はだ……っ?!」
そう言ってイリーナは散弾に巻き込まれぬように物陰に姿を隠す。そして彼女の姿が見えなくなった瞬間、男達は一斉に引き金を引いた。漂う火薬と鉛の匂いと響く銃声。変なBB弾なんて使わなくても大量の弾丸を撃ち込めば死ぬ、イリーナはその前提の上でこの作戦を組み立てた。銃撃時間は一分間。延べ50000発近くの弾丸がこの体育倉庫で殺せんせーを襲う。イリーナは勝ったと確信した。
「……終わっ……?!」
「おや、イリーナ先生。
イリーナが顔を出すと、そこには男達をのした殺せんせーが何事もなく突っ立っていた。そして身体の中に触手を突っ込むと、ドロリとした灰色と銀色の中間のような塊を取り出した。殺せんせーの体内で溶けた鉛だった。「だから対先生用BB弾があるんですがねぇ」とそれを床に捨て、更に自らの顔を指差してイリーナに問い掛ける。
「イリーナ先生、何かお気づきの点などないでしょうか」
「……っ、目が4つ……?」
「いえ、鼻です。ついさっき来てみれば金属の匂いと成人男性の加齢臭まみれ。これは一部の生徒しか知りませんが、私はとても鼻が効くのです」
そこでイリーナは、渚が殺せんせーは鼻が効くと言っていたのをようやく思い出した。
「ヌルフフフ、手の内がバレた暗殺者の末路など決まっているでしょう」
触手をうねらせながら近づいてくる殺せんせーにイリーナは思わず後ずさりする。
「教えてあげましょう、イリーナ先生。私は暗殺者を「手入れ」するのが好きなのです」
そして壁に追い込まれたイリーナに触手が迫る。彼女はE組に来て初めて女性らしい叫び声を上げた。
◇◇◇
「おい、なんだ今の声?!」
「ビッチ姉さんじゃね?!」
「しかもなんかヌルヌル聞こえるぞ!」
生徒達の視線が一斉に体育倉庫に向く。聞けば聞くほど聞こえるヌルヌル、執拗なヌルヌルに生徒達は駆け出していく。志御も「だろうな」と大して意外でもないようについて行った。
「……おや、皆さん」
「あ、殺せんせー!」
「おっぱいの誘惑には勝ったの?!」
「いやぁ、もう少し楽しみたかったんですけどねぇ。しかし皆さんを楽しませるための明日の小テストを作らないといけません。今回のはとびきりですよぉ」
「……」
「……ビッチ姉さん!」
そして殺せんせーに引き続いて体育倉庫から出てきたイリーナ。どこか蕩けるような表情で、露出の多いスーツから健康的な体操服に着替えさせられている。うわ言のように「ヌルヌルマッサージ……まさかあんなことまでされるなんて……」と呟く彼女に生徒達は「何やったんだよ」「お見せ出来る内容なんだろうな」と視線を向けるが、殺せんせーは「大人には大人の事情がありますので」と真顔になって露骨に顔をそらす。「この小説にもR-18タグが必須になっちゃうじゃない!」と誰かが悲鳴を上げた。
「さ、皆さん今日も一日お疲れ様でした。着替え次第帰りのホームルームを始めますよ」
そんなこんなで教室に戻っていく生徒達と殺せんせー。残されたイリーナは「こんなはずじゃ……!」と憎々しげにハチマキをほどいた。
9とか10お願いします!
あと志御は多分一生ファーストキスの件根に持ってます