浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第12話 集会の時間

 その日は月に一度の全校集会。E組にとってはあまり面白くない、というか不愉快な、気の重くなるようなイベントだった。

 

「お、渚くんじゃ〜ん」

「ホントだ、久々だね〜」

 

 列に並んでいた渚に、2年の頃のクラスメイトであった生徒達が声を掛ける。笑顔ではあるが、それは大層下品な、嘲笑のそれだった。

 

「いやあ、それにしても大変だね〜。E組からここまで来るの結構疲れるでしょ〜?」

「頭下がるわ〜」

 

 そう言って「ぎゃはは」とこれまた下品な笑い声を上げて、渚の反応を待つことさえなく彼等は自らの定位置に戻っていく。彼等にとって渚は元クラスメイトである以上にE組であり、E組であるということは虐げることが許されるサンドバッグであるということ。本校舎の生徒のほとんどはその法則、秩序に従ってE組を見下している。全校集会とはE組がそれを身を以て味わうイベントであり、それ故に心底疎ましいイベントでもある。しかし、それを物ともしない少女が一人、そこにはいた。

 

「んぐ……」

「で、あるからして皆さんは……」

「もぐ……」

「やっぱE組ってさぁ……」

「ずず……」

「……いや何食ってんだよあいつ?!」

 

 隣の列に並ぶD組の生徒がスルーしきれなかったツッコミとともに指したのは、何を隠そうE組の異端児、デカ目のフランスパンを囓っている浅野志御その人であった。「んだよ人の昼飯邪魔しやがって」と不機嫌そうに目を向ける彼女に「いやおかしいのはそっちだろ!」と追撃が入り、E組のクラスメイト達は僅かな冷や汗とともにそれを見守っていた。というか寄りにも寄ってカルマがサボっている以上E組の一番前に並んでいるのは志御であり、磯貝は「おい、大丈夫かよ?」と問い掛けるが志御は「安心しろ、ちゃんとビーフシチューも持ってきてる」とニッと笑う。

 

「そもそも体育館は飲食禁止だろ?!誰の許可得てそこで飯食ってんだよ!」

「は?許可なんて要る訳ないだろ。バカには分かんないみたいだから説明してやるか」

「いや待てどこから出したホワイトボード?!」

 

 左手でフランスパンを抱え、時々かじりながら右手でキュキュっとホワイトボードに図と文章を書き込んでいく志御。思わず壇上でE組弄りを交えて話していた校長さえ口を止めて彼女の方を見ていた。

 

「お前らが「体育館は飲食禁止」の根拠にしてるのはこれ。生徒会規則第4章第36条、「部活動中を除き体育館では飲食を禁ずる」っていう条文で合ってるよな?」

「……お、おう!ちゃんと書いてるだろうが!」

「バーカ、一回くらい中身暗記してこい。理事長サマは律儀でな、わざわざ最後の方に「特別強化クラスは以上の対象にならず、個別に定めた規則に従うものとする」って書いてあんだぜ。そしてそこに体育館利用に関する条文は一文字も載ってねえ」

 

 「要はE組()がここであのハゲの有り難い御高説馬耳東風キメながら昼飯食ってもなんら問題は出ないってことだ」、そう言い切って志御はスープジャーに入ったビーフシチューで口の中のフランスパンを流し込み、そして突っかかってきたD組の担任である大野に「だよなぁ!」と同意を求める。彼は急いで生徒会規則を見直すが、確かに一般生徒の飲食は禁じられていたが、E組に関してはそのような制限が存在していなかった。「チッ」と苛立って舌打ちした大野は項垂れた。

 

「……ああ、確かにその通りだ」

「な?ちなみに生徒会規則の変更には提出後生徒議会の議題に上がってから一週間の検討期間とさらに施行まで一週間の猶予を設けることが必須だからこの場の私はどうやっても止められないぜ?」

 

 「御愁傷様だな」と嘲笑いながら志御はフランスパンの最後の一欠片を口に放り込み、そして「ごちそうさま」と手を合わせた。空気は凍っていた。この場で最も弱い立場であるはずのE組の蛮行を、誰一人として咎めることが出来ず、あろうことか担任まで閉口せざるを得なかったのだ。いや、他の生徒であれば「E組が何言っても無駄だろ」という一蹴することだって容易かっただろう。しかし、そこにいたのは仮にも「支配者の遺伝子」を継いだ少女。その言葉は一切の他の介入を許さない圧倒的な「力」を纏っている。大野は少女の一言一言に理事長の面影を強く感じていた。

 

「んで、なんで話止めてんだよ校長。時間押してんだろ?」

「え、ええ。……それで、故に君達は全国のトップを走るエリートなのです。もちろん、油断すればあっという間に誰かさん達みたいに落っこちてしまいますけどね」

 

 校長の天丼じみたE組いじりに「あっはっは!」と再び他のクラスから笑い声が響く。けれど、先程より皆少し楽だった。D組とかが少し無理して笑ってるのが分かるし、何よりも上手くやり返した、先頭に立っている彼女。志御は「やっぱ何よりバカ面拝むのが一番美味いな」と大胆不敵にポケットに手を突っ込みながら笑っていた。

 

◇◇◇

 

「……り、理事長?」

 

 理事長室でその全校集会のライブ中継を見ていた學峯は、酷く険しい顔で、眉間に深いシワを浮かべていた。ただ黙って椅子にもたれ掛かり、それを眺めている彼に総務部長は僅かな恐怖心とともに声を掛ける。

 

「……後で大野先生を呼ぶように」

「か、畏まりました!」

 

 そう言って急いで飛び出す総務部長。學峯の目には、カメラに艶やかな金髪を揺らす(教え子)が映っていた。

 

◇◇◇

 

「続きまして、生徒会からの連絡です。生徒会の皆さんは準備を始めて下さい」

 

 そんなアナウンスとともに壇上のオブジェクトを動かし始める生徒達。そんな中でガララッと体育館の扉が開く。振り返って見ると、少し遅れてやってきた烏間だった。もちろん、彼と面識があるのはE組だけ。「かっこい〜」「何あの先生?」「もしかしてE組?」なんて他のクラス、特に女子がにわかにざわめく中、流石に殺せんせーをバラすわけにはいかない烏間は「E組の担任の烏間です。中々機会もありませんから、この場を借りてご挨拶を」と他のクラスの担任に挨拶する。そんな中で何人かのE組の女子がぽんぽんと彼の肩を叩いた。

 

「みてみて先生、ナイフケースデコったんだ〜」

「ほら、結構センスあるっしょ」

「っ、隠せ隠せ!他のクラスにも暗殺は絶対に秘密なんだからな!」

 

 それに気がつくなり烏間はそのナイフケースを手で覆うように隠し、小声ながら慌てて注意する。「やっべ」という表情を浮かべながら大人しく引き下がる女子達。そのやり取りに他のクラスの女子は「いーなーあんなイケメンが担任とか」「ウチらは先生も男子も揃ってブサイクばっかなのに」「仲良さそー」と羨むような言葉を漏らす。それに対して男子陣は「それがどうした」みたいな態度だったが、次の瞬間には女子と同じか、それ以上の羨望を抱いていた。

 

「ちょっ、待てよ!なんだあの美人?!」

「すげー体してんな?!」

「ものすごい体の外人だと?!」

「まさかアレもE組かよ?!」

 

 相変わらずの露出の多いスーツで体育館に入ってきたイリーナ。どうやら想定外だったらしく、烏間が「何をしに来たお前は?!」と驚きながら尋ねると、彼女は「情報収集よ情報収集!」と疎ましそうにしながら答える。そしてイリーナは列の中に渚を見つけると、そっちの方にひょいと寄っていく。

 

「ねえ渚。あんたあんなノート作ってるってことはホントはもっと情報握ってんじゃないの?」

「えっと、知ってる情報は全部あれにまとめてて……」

「そんなこと言っちゃって、どうなっても知らないわよ?」

「ちょっ、苦し、胸はやめてよビッチ先生!」

 

 胸に渚の頭を押し付けて無理矢理に情報を吐かせようとするイリーナと、必死に抵抗する渚。志御が「あ、私新ネタあるぜビッチ先生」と声を掛けると「やるじゃない!」というイリーナの一言とともに渚は解放される。「助かった……」と渚はベストを直した。

 

「後で詳しく聞かせなさい、ちゃんとお礼はするから!」

「あっは、あざーす」

「くっそ、羨ましい……!」

「ズルいぞエンドのE組の分際で……!」

 

 そして嫉妬の視線がE組に向けられる中で生徒会の連絡をまとめたプリントが配られていく。しかし一向に回ってこないE組の分。「もしかして俺等の分だけハブられてる?」と磯貝が志御に声を掛けると、彼女はパッと周囲を見渡して「多分な」と答える。(指摘してもあいつらの思う壺か……)と磯貝が考えていたところで、突如E組の隣を突風が吹き抜けたような、でも温かい感覚が襲う。生徒達がふと手元を見ると、そこには手書きで書かれた連絡プリント。それと同時に、進行を務める生徒がマイクの音声を入れた。

 

「あー、申し訳無いんだけどE組の分だけ忘れたみたい!悪いんだけど……」

「あ、いや!俺等の分あるんでそのまま続けて下さーい!」

 

 そう言って学級委員の磯貝はひらひらと自らの手元のプリントを見せつける。司会は「は?!嘘どういうことだよ?!」と酷く動揺した後に、かなり不満げにしながら「それでは続けます」と進行する。志御がふと烏間達の方を見ると、そこには雑な変装をした殺せんせーの姿があった。カツラ、付け鼻、触手を隠すヒートテックと手袋。そのくせに腕はとても人間には出来ない感じのうねりを見せつけていて、他の生徒達や担任に「なんだあの大男は?」「なんか関節もめちゃめちゃ曖昧だし」「っていうかあの女の先生に刺されてる」「あ、イケメンにつまみ出された」「意味分かんねえ」と困惑をもたらす始末。けれどE組の生徒達はコントでも見るかのように「まーたビッチ先生バカやってら」と呆れたりしながらも笑っている。

 

「あー、ホントしょうも──」

 

 周りのクラスメイトと同じように笑いかけたところで、志御は背中に酷く冷たい、覚えのある視線が刺さり、圧がのしかかる。

 

「暇人かよ、理事長サマ」

 

 振り返った志御は、(理事長)と目を合わせた。「相変わらずだな」と小さく呟いた。




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