浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第13話 支配者の時間

 ホームルームの時間になるなり、それは姿を現した。

 

「いよいよです」

「腕が鳴りますねぇ」

「皆さん覚悟は良いですか?」

「厳しく行きますよぉ」

「さて、始めましょうか」

 

 「いや、何を?」とクラスは困惑に包まれた。何を隠そう、教壇に立っているのは殺せんせー×5。ただでさえ色々と面倒な怪物が5体もいるのである。困惑するしかない。そしてその困惑を隠しようもない生徒達に、殺せんせーは「ヌルフフフ」と不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「何を隠そう、そろそろ中間テストがやってきます」

「その通り」

「というわけで今日から」

「高速強化テスト勉強を行います」

 

 なんでそれぞれに話させてんだよ、と志御が突っ込むと、更に目の前に一人分身が追加されて「活用しないともったいないですからねぇ」と答える。「は?」と志御が困惑気味に首を傾げると、シュバババと他のクラスメイトの前にも殺せんせーの分身が現れる。よく見ると額にはハチマキみたいなのを巻いていて、そこには「英」「国」「数」「理」「社」とそれぞれの苦手科目が書かれているようだった。「ってか「全」ってなんだよ」と尋ねる志御に殺せんせーは「ヌルフフフ、全部同じくらい出来るということは全部同じくらい出来ないということですからねぇ」とニヤリと笑う。ちなみに隣のカルマの分の殺せんせーも「全」と書かれていた。

 

「というわけで」

「先生の分身によるマンツーマン指導で」

「それぞれの苦手科目を徹底復習します」

 

 教室のあちこちから聞こえてくる解説はさながら立体音響。英語4体、国語6体、数学7体、理科4体、社会3体、全部乗せ2体、あと特別コースのNARUTO1体の計27体の殺せんせーが教室に満ちている。なるほどよくやるな、と志御が殺せんせーに薦められた問題集を解き始めると、突如として眼の前の分身がぐにゃんと曲がる。「わ」と志御が小さく声を上げると同時にクラス中から困惑混じりの悲鳴が上がる。ふと志御が隣を見ると、そこにはナイフを突き出して「意外とデリケートじゃん先生」と笑うカルマの姿。

 

「急な暗殺はやめて下さいカルマ君!それ避けると分身全部に影響出るんです」

「へー、面白いこと聞いた。だってさ志御さん」

「マジ?やるやる」

「にゅやッ?!2人分だと乱れも2倍に!!」

 

 右手にシャーペン、左手にナイフ。その光景はテスト前でありながらもなんとも暗殺教室らしい。「カルマ君達出来るからなぁ」とそれをチラ見した渚は目の前で減数分裂の仕組みについて解説している殺せんせーに意識を戻した。

 

「……とまあこんな感じで……ここまでは大丈夫ですか?」

「なんとか……でも先生、こんなに分身して体力もつの?」

「問題ありません。ほら、1体は休憩してるんです」

「いやそれ逆効果じゃない?!」

 

 ということは、クラス全員分+1体で合計28体。ちょっと前までは3体くらいだったのに、と渚はノートを取りながら考える。生徒達と同様か、それ以上にパワーアップを続ける殺せんせー。このままならきっと1年後には地球を滅ぼせてしまうだろう。「ヌルフフフ、ついてこれますかねぇ」と笑う、殺し屋にとっては限りなく厄介な暗殺対象(ターゲット)で、生徒にとってはこの上なく頼りになる担任の先生に渚は「はい」と力強く頷いた。

 

◇◇◇

 

 そして放課後。帰っていく生徒達と入れ替わりに、一人の男が教員室を訪れていた。男が烏間やイリーナに語る声とともにカチャ、カチャ、と部屋に響くのはルービックキューブを動かす音。男の手元に幾つか並んだそれは、揃えられては無秩序にリセットされてを繰り返している。

 

「……とまあ、このように慣れれば簡単に出来るものです。しかし、それでは慣れるまでに時間が掛かる。それではよくありません。もっと誰にでも出来る方法、楽に、素早く、そして沢山を揃えられる方法。実に簡単です」

 

 男は乱れたルービックキューブの隙間にマイナスドライバーを捩じ込んだ。バキッという音を立て、バラバラだったルービックキューブが物理的にバラバラになる。

 

「分解して、組み立て直す。これが私の求める「合理性」です。お分かりですね?先生方」

 

 そう言ってマイナスドライバーと壊れたルービックキューブの破片片手に男は微笑む。それと同時にガララと古びた引き戸を開けて教室に入ってくる殺せんせー。男はそれに気が付くとニコリと微笑んだ。

 

「直接お会いするのは初めてですね、「殺せんせー」」

「……この方は?」

「ここの理事長サマですって」

「ああ、俺達の教師としての雇い主だ」

「……!」

 

 浅野學峯、それが男の名であった。椚の葉を模したネクタイピンがよく似合う彼は僅か十年でこの私立椚ヶ丘学園を全国有数の進学校にした敏腕経営者にして徹底的な合理主義者、そして浅野志御の父親である。無論似てないところも少なからずあるが、その目の色と何より纏う雰囲気が彼女によく似ていた。志御のものをより研ぎ澄ませたような、そんな感覚を初対面のイリーナは覚えていた。そして殺せんせーは瞬く間に状況を把握すると「粗茶ですが……」と一瞬でお茶を用意し、さらに學峯の肩をその触手でもみ始めた。どうやら給料の交渉が目的のようだと、帰り際にそれを覗いてしまった渚は「見ない方がよかったかな……」みたいな顔をした。

 

「それにしても事前に連絡してくださればこちらからお伺いしましたのに……」

「いえ、こちらこそすいません。いずれこちらからご挨拶に伺おうと思っていたところでしたので。あなたに関しては烏間さんや防衛省()の方から聞いています。無論、全てを理解できているわけではありませんが」

「それはそれは……」

「それにしても、なんとも悲しいお話ですね。世界を救うはずが、世界を滅ぼす終末装置へと成り果ててしまうなんて」

 

 窓ガラス越しに聞こえたその会話に渚は、無意識の内に強く食いついていた。「救う……?」「滅ぼす……?」と學峯の言葉を聞き取ろうと渚は窓ガラスに張り付く。

 

「……いえ、これ以上は無粋ですね。私程度ではどうしようもならない問題ですから。それに口止め料も充分に頂いてますし」

「……御協力感謝します」

「世界の危機っていうのに随分ドライなのね。……嫌いじゃないわ」

「恐縮です」

 

 そして教員室を覗いていた渚の背中が「何見てんだよ」とポンと叩かれた。誰かと思って振り返ると、そこには志御がいた。「そっか」と渚は呟いた。

 

「あれが、志御さんのお父さん……なんだよね」

「ああ。そういうこった」

「どんな人なの?」

「どんなこんなも、見ての通り。徹底した合理主義者にして教育者。何か「教育」が無い限り、私どころか兄さんと話すことさえほとんどない」

「それは……」

「憐れむなよ。誰だって家にこの程度の爆弾の一つや二つくらい抱えてんだろ?不利益被ってないからまだマシな方だぜ?」

 

 そう言って志御はいつもと顔色一つ変えやしない。「まあ、見てて面白いもんじゃないぜ」と言い残し、志御は一足先に校舎を出た。

 

「しかし、学校運営というと話は別です。率直に言ってしまえば、E組に変わられては困ります」

「それは……差別を続けるということですか?」

「はい。働きアリの法則というのはご存知ですか?どんな集団でも20%は怠惰、20%は勤勉であり、残りの60%は平均的になるという法則です。しかし、これでは些か合理的ではない。私の理想は「95%の勤勉と5%の怠惰」です。「E組にだけは行きたくない」「E組みたいにだけはなりたくない」、そのようにE組(5%)を強く意識することで残りの95%が勤勉になる。これで理想的にその割合は達成されます」

「なるほど、非常に合理的です。確かにそのためにはE組は惨めでなければなりません」

「そういうことです。ですが、先日の全校集会です。E組の生徒が集会中に問題行動と問題発言を繰り返し、本校舎のD組に反抗したと。これは私の下では許されません。生徒達には「そのような行動は慎むように」と厳しくご指導の程よろしくお願いします」

 

 僅かな違和感を覚えた殺せんせー達を差し置いて、學峯はポケットから何かを取り出し、殺せんせーに投げ渡す。知恵の輪だった。それもかなり複雑極まりないもの。「1秒でお願いしますよ」と理事長から与えられる制限時間。殺せんせーは慌てて解き始めたが、1秒後には触手同士が絡み、知恵の輪にも触手が絡みとあられもない姿に。渚は(なんてザマだ!)とツッコミながらも弱点ノートに「知恵の輪でテンパる」と書き入れた。

 

「なるほど、素晴らしいスピードですね。これは確かに殺せるはずがない。……しかしです、殺せんせー。世の中にはスピードで解決できない問題もあるんです」

 

 知恵の輪が絡まって床に伏す殺せんせーの顔を覗き込んで、僅かに険しく見えるような表情で學峯は告げる。そしてまた笑顔を作ると「私はこの辺で」と教員室を出て行った。「あ」と外にいた渚と目が合った。學峯はわざとらしい笑顔を作ると「やあ!」と声を掛けた。

 

「中間テスト、期待しているとも!頑張りなさい!」

「ど、どうも……」

 

 渚が返事をする前に彼はスッと真顔に戻り、そして帰路につく。余りに渇いた、表面的で薄っぺらいその言葉はあっという間に渚の立場をエンドのE組(落ちこぼれ)へと引きずり落とした。

 

「……ねえ、烏間。あいつ本当に志御の父親なの?」

「ああ。見れば分かるだろう。あれは紛れもなく彼女の父親だ」

「そう言われても納得行かないわよ。普通、「志御の様子はどうですか?」くらい聞いてくでしょ。父親なら」

「……いえ、イリーナ先生。おそらく、あれが志御さんの家では普通なのです」

 

◇◇◇

 

「やあ、志御さん」

「……何の用だよ、理事長サマ?」

 

 高さ2mくらいの木の枝にぶら下がり、物思いに耽っていた志御に學峯は声を掛けた。身体を引き付けて、身体を離してという懸垂のような動きを止めず、志御は尋ねる。

 

「何、E組での時間はどうだい?」

「はっ、ならお望みの答えをやるよ」

 

 パッと手を離し、カバンを手に持った彼女。その顔に大胆不敵な笑みを浮かべ、志御は答えた。

 

「最ッ高!」




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