浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第14話 刃の時間

「さあ」

「皆さん」

「今日も」

「張り切って」

「行きましょう」

「授業」

「開始」

「です」

 

 「いや増えすぎだろ」と誰もが突っ込んだ。教室を埋め尽くすどころか、溢れんばかりの殺せんせー。三桁に迫るその物量はマンツーマン指導どころか1人につき4体で対応するという過剰っぷり。そんなに要らないだろと思いきや教師役だけでなく隣で一緒に勉強したり実験に付き合ってくれるクラスメイトまで殺せんせーが担当する始末。行き届いているなどというレベルではない。デメリットを上げるとすれば、分身を増やしすぎて1体1体が恐ろしく雑になってるところだろうか。志御の目の前にいる殺せんせーですらネズミ的マスコットキャラクタータイプ、猫型ロボットタイプ、宇宙最強の戦闘民族タイプ、麦わら帽子の海賊タイプと多種多様。「いやもう考えるだけ無駄だな」と志御は殺せんせーチーム相手の五教科ボードクイズバトルに乗り出した。

 

「問題、「宇治拾遺物語」「源氏物語」「今昔物語集」「竹取物語」以上4つの物語を成立順に並べよ」

「あー、待って!見たことある!見たことあるから私!」

「先生もう書き終わっちゃいました」

「ヌルフフフ、この様な文学史は暗記に限りますからねぇ」

「センスだけでは太刀打ちできませんよ」

「……」

「おや、渚君も気になりますか?「クイズ学習バラエティー 殺さま!」」

 

 少しよそ見をしていた渚に殺せんせーは声を掛ける。あれそんな名前なんだ、と思いながらも渚は「ううん、大丈夫」と首を横に振った。彼が思い出していたのは昨日の理事長と殺せんせーの会話。「世の中にはスピードで解決できない問題もあるんです」、志御さんに何となく似た理事長先生は確かに殺せんせーにそう言っていた。もしかして、ムキになってるのかな、と。

 

「では抵抗の話に戻ります。オームの法則というのは……」

 

◇◇◇

 

「ぜー……ぜー……ひゅー……ぜー……はぁ……はぁ……」

「はっ、息荒過ぎだろ」

「流石にあれだけやったら疲れるよなぁ」

 

 先程まで教育にフル活用していた触手に扇子やら団扇やらを構えて今度は冷却にフル活用する殺せんせー。「よく超破壊生物がここまで頑張って先生やるもんだよね〜」という誰かの言葉を聞くと、殺せんせーは「ヌルフフフ」と不敵な笑みを浮かべた。

 

「何故頑張るのか。それはもちろん君達のためです。もし私の指導で君達のテストの点が上がれば……」

 

 そう言って殺せんせーは自らのビジョンを生徒達に共有する。「おかげで良い点数が取れたよ!」と笑顔で駆け寄ってくる生徒達、「もう殺せんせーの授業が無いと俺達駄目だよ!殺すなんてもってのほか!」と自らを慕う生徒達、そして「殺せんせーすご〜い♡私達にも教えてほしいな♡」とその評判を聞いてやって来る近所の巨乳美人女子高生……。

 

「ヌルフフフ……ここまで良い事ずくめとなれば先生だって頑張ります」

「最低だなおい」

 

 ありもしない未来にデレデレになる殺せんせーに志御は容赦なくツッコミをぶつける。「あの子はボケ担当でもツッコミ担当でも活きる逸材ね」とは不破の談である。しかし、誰かのため息で少し教室の空気が変わった。

 

「……でもさ、勉強とかそれなりでいいよな」

「……うん。だって殺せんせー殺せば百億だもん」

「百億あったら人生バラ色だしな」

「こら君達!そういう考えはよくありませんよ!」

「そんなこと言うなよ殺せんせー、俺達エンドのE組だぜ?」

「勉強なんかよりも暗殺の方がまだチャンスがあるんだよ」

 

 その答えを受けて、殺せんせーは少し考える。「これ地雷だろ」と志御は直感した。そして少しの間の後に「なるほど、皆さんの考えはよく分かりました」と重い声色で言う。「……?何が?」と口を開いた生徒が目にしたのは、殺せんせーの顔に浮かぶ大きなバッテンだった。

 

「今の君達には、暗殺者の資格はありませんねぇ」

 

 その剣幕にその場の生徒達がビクッとする。そして「全員校庭へ出るように。烏間先生とイリーナ先生も連れてきて下さい」と先に殺せんせーは教室を出て行った。「どうした急に不機嫌になって」「さあ?」と顔を見合わせる生徒達、意味を理解したのは渚を始めとする数人のみだった。

 

◇◇◇

 

「何やってんだあれ?」

「……グラウンドの物どかしてるな」

 

 皆が教室を出た頃には、グラウンドにはゴールや三角コーンはなく、殺せんせーのみが真ん中にポツンと立っていた。「何よ突然呼び出して」とやってきたイリーナに、殺せんせーは「プロの殺し屋としてお聞きします」と触手で指しながら尋ねた。

 

「イリーナ先生は暗殺する時、プランは1つしか作りませんか?」

「……?いえ、1つなんてまず無いわ。最低でも5つ。10は欲しいわよ。不測の事態に出来る限り備えるのが暗殺の基本だわ」

「ありがとうございます。では烏間先生、ナイフによる近接戦闘では第一撃だけが重視されますか?」

「いや、違うな。確かに第一撃は決して小さくない割合を占めるが、そこから第二撃第三撃をいかに鋭く素早く、そして正確に出せるか。ここが勝敗を決するポイントだ」

「ありがとうございます」

 

 「聞きましたか皆さん」と殺せんせーは生徒の方へ向き直り、そしてその場でくるくる、くるくると回り始める。

 

「世の中たった1つだけで上手くいくなんてことはありません。「暗殺があるから勉強はいいや」なんて、そんな甘いことでは通用しないのです。なのに君達は暗殺を理由にして勉強を無碍に扱おうとしている。暗殺に縋ることで自分の弱さから目を逸らそうとしているのです」

 

 そのように生徒達を戒めながらも、殺せんせーはどんどんと、凄まじい勢いで加速していく。

 

「一度考えてみて下さい。もしも先生が約束を反故にしてこの教室から逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先生を殺してしまったら?勉強を捨てて暗殺まで失った君達に何が残るというのでしょうか。いえ、何も残らない」

「……」

「そんな崖っぷちの君達に先生からの警告(アドバイス)です。……「第二の刃を持たざる者、暗殺者たる資格なし」!!」

 

 そう言い放つと、殺せんせーは一気にマッハ20もの最高速度で回転を強め、巨大な一つの竜巻となって校庭に君臨する。「派手な事しやがって」と志御は小さく微笑んだ。そして殺せんせーが回転を止めると、現れる整った校庭。雑草や凸凹に溢れた、とても手入れのされているとは言えないようなそれはトラックコースかのように生まれ変わっていた。

 

「御存知の通り、先生は「超破壊生物」。この一帯を平らにするなど造作もないのです。もし、皆さんが今のまま「第二の刃」を持てないようでしたら、次に平らになるのはE組の校舎……いえ、山ごと平らにしてしまいましょうか」

「……なら、その「第二の刃」は、いつまでに?」

「決まっているでしょう。明日です」

 

 明日。それを聞いてにわかに生徒達は目を丸くする。明日は、中間テスト当日なのだから。

 

「中間テスト、クラス全員50位以上を取りなさい」

「ごじゅっ……?!」

「それは……」

「大丈夫です。先生の教え方は本校舎に劣るほど温くありません。皆さんがその気になれば、自信を持って振るえば「第二の刃」はきっと応えてくれるでしょう。なんてことはありません。ただ仕事(ミッション)を成功させる、それこそが殺し屋のあるべき姿なのですから」

 

 「皆さんはそれが出来る暗殺者だと先生は信じています」、そのように話を締めた先生に、生徒達の目ににわかに決意が宿る。場所は本校舎、暗殺対象(ターゲット)は中間テスト、刃は既にその手の中に。E組の暗殺が幕を開けた




志御ちゃんのファンアートとかいつか欲しいですね
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