浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第16話 準備の時間

「さて、と」

 

 「マズいな」と志御は小さく呟いた。今日も六限目まで何事もなく無事に終わり、いつものようにご機嫌に帰路に着こうとしたホームルーム。しかし、そこで配られた一枚のプリントが彼女に緊張を走らせた。そう、既に来週に迫った二泊三日の京都旅行、すなわち修学旅行の班決めである。

 「どうすっかなぁ」と志御は頭を抱えた。何を隠そう彼女、誘ってもらう自信がないのである。別に嫌われているとかクラスメイトと不仲とかそういう訳では無い。ただ、誘ってもらえるだけの特定のグループに属しているかと聞かれると首を横に振らざるを得ない。唯一可能性があるとすればカルマだが、あれは人を誘うようなタイプではない。これはマズい。いかに日頃傲岸不遜、大胆不敵に構えている志御であってもそこはきちんと女子中学生。余り物になった挙げ句にどこかの班に入れてもらうという惨めな事態はなんとかして避けなければならないと彼女は固く決意していた。

 

「最悪ビッチ先生口説き落とすか……」

「何考えてるのさ志御さーん」

 

 非常に邪な手を考えていた志御にカルマは背中から声を掛けた。志御は「わ」とらしからぬ声を上げた。

 

「んだよ、何か用か?カルマ」

「ほら、修学旅行の班。一緒に行かない?」

「……マジで?」

「うん。いたら色々便利そうじゃん」

「……お前、案外良い奴だな」

 

 見直した、と言わんばかりに志御は目をパチパチした。

 

◇◇◇

 

「という訳で皆さん行動班も決まったようですし、ここからは本格的に行動計画を作っていきましょう」

 

 修学旅行の準備は社会科の時間を使って行われることになっていた。そして修学旅行といえど、ここは暗殺教室。観光しながらでもきっちりと殺害のチャンスは狙うという綿密な計画も求められる。殺せんせーは「こんな早い時期に学生生活の総まとめみたいな修学旅行とはあまり感心しませんねぇ」など口では逆張りじみたことを言いながらも、実際にはけん玉、こんにゃく、ミニ四駆、模造紙、三ヶ月分のジャンプ、ネギ、人生ゲームなど、詰め込みすぎてもう直径1.5m程の塊としか形容しようのない旅行荷物を準備している始末。「気の早さまでマッハかよ」と志御がツッコむと、殺せんせーは少し恥ずかしそうに「本音を言えば、先生も君達と旅行に行けるということが嬉しくて仕方ないんです」と明かした。

 志御は7人班で、カルマ以外の他の面子は渚、茅野、杉野、奥田、それとクラスのマドンナ神崎さん。割と下心ありで杉野が事前に確保していたらしい。彼女は真面目かつおしとやかかつ物腰柔らかな美人さん。あまり目立つタイプではないが、クラスの皆からプラスの感情を持たれているであろう、まさしくマドンナだった。真面目ながらもクソ真面目ではないという志御があまり嫌いなタイプではない事もあって、中々悪くない班に加われたなという感覚を志御は覚えていた。それと同時に、珍しく彼女はカルマに純然たる感謝も覚えていた。

 

「よし、取り敢えずどこ回りたいか考えてこうぜ!」

「……ふっ、たかが国内旅行で大はしゃぎなんてガキは良いわねぇ。世界中飛び回った私からすれば……」

「あ、用無しだから留守番してていいぜビッチ先生」

「よろしくー」

「あ、せっかくなら花壇の面倒も見てて〜」

 

 逐一マウントを取ろうとするイリーナに対し、構ってる暇は無いと言わんばかりに京都の地図やガイドブックを見ながら楽しげに話す生徒達。金閣がどうとか銀閣がどうとかみたらし団子がどうとか自分抜きで話に花を咲かせる生徒達にイリーナはムズムズとした感情を抱いていた。

 

「やっぱり清水寺は外せないよねー」

「でもあそこ見晴らし良いぜ?暗殺辛いだろ」

「……あ、じゃあさ、こことか!」

「そこなら良いんじゃないかな」

「……何よあんたらそんなに楽しそうに話して!!私も混ぜなさいよ!!」

「結局行きたいんだ?!」

 

 そして各班をイリーナが巡回しながらわーぎゃーわーぎゃーと騒いでいる中、少し席を外していた殺せんせーが何か大量の辞書のようなものを抱えて教室に戻ってくる。「なにそれ?」とクラスが困惑する中で殺せんせーはそれを「一人一冊です」と配り始めた。

 

「いや重っ?!」

「なにこれ、辞書……?」

「辞書でもないだろ最早。鈍器かよ」

「いえ、修学旅行のしおりです」

「????」

「ヌルフフフ、実は先生昨日徹夜で頑張ったんです。京都中の観光スポットイラスト図解徹底解剖、京都お土産ランキング全10部門ベスト100、殺せんせー流護身術入門から実用まで、旅のあれこれQ&A全1000問になんと初回特典には組み立て紙工作金閣までついてますよ」

「くっそビッチ先生に引き続きこのタコも浮かれてる組か!」

「生徒より楽しんでるじゃん!」

 

 これ持ち歩かせる気かよとクラス中からツッコミが殺到する中で、カルマは「あれ」と首を傾げた。

 

「っていうか殺せんせーなら京都まで1分じゃん。そんなに浮かれる理由とかあんの?」

「簡単ですよ、カルマ君。「移動」と「旅行」は違うんです。「移動」はあくまで過程に過ぎませんが、「旅行」はそれそのものが目的になるんです。皆で同じことを楽しみ、同じようなハプニングに遭遇する、そんな経験を皆さんと共有できることが先生は心底楽しみなんです」

「へー……ま、そのしおり持ち歩くのは嫌だけど」

「にゅやッ?!ほら、カルマ君が好きそうな人気喧嘩スポットもまとめてあるんですよ!」

「なんでそんなん載せてんだよ。大半は健全な生徒だぞ」

「そんな事言わないで下さい志御さん!ほら、君には各地の店の値切り交渉Tier表もありますから!」

「いらね」

「にゅやーッ?!!」

 

 とはいえクラスの誰もが少なからず高揚していた。暗殺教室という舞台故に普通よりももっと濃いものになるであろう修学旅行。志御は来週が楽しみで仕方なかった。

 

◇◇◇

 

「ただいま」

「おかえりー」

 

 Tシャツ一枚でリビングでゲームに勤しんでいた志御は少し遅れて帰ってきた学秀を出迎えた。荷物を置いて台所で手を洗う彼に志御は声を掛ける。

 

「そういや兄さんさぁ、どこか土産物屋寄ったりする?」

「ああ、寄るが。それがどうかしたか?」

「いや、ウチの班が寄るとこ木刀売ってないっぽくてさ。そっちで売ってたら私の分買っといてくれよ」

「了解。……ところで、母さんは?」

「買い物。今日の夜はハンバーグだとよ」

 

 スライドパッドをカチャカチャしながら答える志御。洗い終えた学秀はソファに寝転がる妹を少し退けて空いたスペースに腰掛けた。

 

「ところで、随分と中間は良かったらしいな」

「多少な」

「あの成績なら十二分に本校舎復帰も認められるさ。頼めばあの件も帳消しに出来る。そろそろ茶番劇(E組)にも飽きてきただろ?どうだ、志御もA組に来ないか?」

「お断り。っていうかルール捻じ曲げんのは理事長サマが許さねえだろ」

「……そうか。まあ良い。頭の片隅で考えておいてくれ」

 

 そう言って学秀は一足先に自らの部屋へ引き上げていく。「お断りつってんだろ」とゲーム機を閉じ、彼女も後を追うように部屋に戻った。




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