浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「っていうかAからDだけグリーン車ってマジかよ……」
「しゃーないだろ。
「だよなぁ……」
いよいよ訪れた修学旅行当日、生徒達は駅のホームで新幹線の到着を待っていた。いつものE組差別はあれど、それを補って余りあるくらいに朝からテンションは高い。とはいえ差別が気になるのもまた事実で、隣に並ぶD組の生徒が「おやおや普通車のE組の皆さんじゃないですかぁ」と声を掛けてくる。
「いやぁ、かわいそうだけどしょうがないなぁ」
「そうそう、成績の悪い君達が──」
「うっせえ」
「あいたっ?!」
「今何投げた志御さん?!」
「ポケットティッシュ」
「あんな豪速球みたいな音出るの?!」
スパァァンッ、というプロ野球でしか聞かない様な音を立てて飛んでいったポケットティッシュ。哀れにも的にされた彼は軽く鼻血を流し、それを見たDの担任が志御に声を掛けるも「鼻血出てたしティッシュいるだろ」と彼女は適当にしらを切る。全校集会での一件もあり余り強く出られない彼がおずおずと引き下がると同時に、カッカッと高いヒールの足音が響いた。
「あら、あんた達随分早いのね」
「ビッチ先生だ」
「ハリウッドセレブみたいな格好してんな」
「あんな毛皮のジャケット着てるやつ初めて見た」
サングラスに毛皮のジャケット、ブランドバッグに高級パンプスと随分と着飾ってきたイリーナ。引き気味の生徒達に対して彼女は「分かってないわね」とため息を吐く。
「いい?私くらいの殺し屋になると
「そうか、今すぐ着替えろ」
「そうでしょそうでしょ……ってなんてこと言うのよカラスマ?!」
「当然だろう。今のお前は暗殺者であると同時に引率の先生なんだぞ。そんなに目立つ格好でどうするつもりだ」
「お堅いわねカラスマ。私はガキ共に大人の旅が何たるかを……」
「早く着替えてこい」
その剣幕に気圧されたイリーナは僅かに引き下がり、そして「そんなこと言われても後は寝間着くらいしか持ってきてないわよ……」と小さく呟く。烏間は大きくため息を吐き、そして女子生徒の方を見渡した。
「すまない、誰かこの馬鹿に着替えを貸してやってほしい」
「あ、私あるぜ。念の為に持ってきた私服」
「本当か!」
そして志御はこの前買ってきたばかりのキャリーケースから私服の一式を取り出すと、ちらっと腕時計を見る。電車が到着するまであと15分、出発まで更に15分。間に合うな、と彼女はイリーナに声を掛けた。
「おいビッチ先生、多目的トイレ探すぞ」
「は?!あんた真っ昼間から何するつもり?!」
「頭色ボケしてんぞ。それともまさかここで着替えるつもりか?」
「……!」
「しょうがないわね」と観念したイリーナ。志御は神崎に「悪いが任せるぜ」と荷物を預け、イリーナの手を引いてトイレの方へ走っていった。
◇◇◇
「……あんた、意外と堅めなのね。普段着」
「余所行き用。流石に四六時中第一ボタンまで留めてらんないっての」
イリーナの脱いだ服を畳みながら志御は言う。170cm50kgのイリーナと168cm49kgの志御の体格はほぼほぼ同じ。「胸がキツイのだけは勘弁しろよな」と志御は着替え終えたイリーナに彼女の私服を返した。白いブラウスに薄手の灰色のカーディガン、膝上10cm程度のスカートにこれまた薄手の黒タイツ。さっきよりは余程引率の教師らしくはなっただろうか。
「……案外悪くないじゃない」
「取り敢えず現地着いたら残り2日分の洋服買って、それはクリーニングして返せ」
「いいわよ、せっかくだし買い取るわ」
イリーナが着替え終えたのを確認して、志御は再び腕時計を確認する。出発まで後7分を切っていた。
「悪いビッチ先生、その話後でな。後7分で新幹線出発するぜ」
「もうそんな時間?!」
「それそれなりに機動力はあるから安心しとけ。てな訳で走んぞ!」
「は?ちょっ、置いてくのやめなさいよ!」
◇◇◇
「……なんとか間に合った……神崎、荷物マジ助かる……」
「ううん、全然大丈夫だよ」
出発1分前。ギリギリで乗り込んだ志御は背もたれに思いっきり寄りかかって息を整えていた。神崎に任せていた荷物から扇子を取り出し、パタパタと顔を扇ぐ。そして身体が背もたれに押し付けられるような感覚があって、新幹線が出発したことに気が付いた。
「っていうかさっきのビッチ先生のファッション……」
「ああ、世間知らずってやつだろうな。金持ちばっかり殺してるからだろ」
「確かにそれっぽかったですね……」
談笑する彼女達。同じ班の渚達男子は早速ババ抜きで盛り上がっている。そして徐々に息も整ってきて、茅野が「皆でやろうと思って」と花札を取り出した辺りで志御は違和感に気が付いた。
「そういや殺せんせーどこ行った?」
「……あ、確かに今日朝から見てない!」
「言われてみればそうかも」
「先生はここにいますよ!!」
「うわっ?!」
茅野は新幹線の窓に張り付いた殺せんせーを見て驚愕の声を上げた。時速300kmで走行する新幹線に触手でぺったりと張り付いている様子はシュール極まりない。
「何があったんだよ」
「それが、駅ビルでスイーツフェアがありまして……楽しみ過ぎて寝れなかった上朝ご飯も食べてなかったものですから」
「あー……先生スイーツ好きだもんね……」
「はい。ですから次の駅まではこの状態でついていくことにします」
「バレるだろ」
「一応保護色は使っているので荷物と服が張り付いているようにしか見えませんよ」
「バレるだろ」
そして宣言通りに次の駅で合流してきた殺せんせー。相変わらずのショボい変装だが、美術の天才菅谷お手製の付け鼻によってまだ相対的にマシにはなっているだろうか。あちこちで楽しげな声が上がる中で志御は何かを読んでいる隣の席の神崎に声を掛けた。
「何読んでんだ?メモ帳?」
「これ?日程帳。ほら、殺せんせーのしおりは持ち歩くのには向いてないでしょ?だから自分で作ったんだ。読む?」
「もちろん。……すげ、結構作り込んでんじゃん。私等のプロフィールまで書いてある」
「ホントだ、すごいね神崎さん!」
「これを機にもっと皆のこと覚えようと思って。私それも楽しみなの」
「うわここまでマドンナかよ。もはや腹立つぜ」
「こうなったらこの修学旅行でマドンナサマの本性拝むしかねえな」と冗談めかしてケタケタと笑う志御。「どうだろうね」と神崎も曖昧にして微笑んでいる。「まさか神崎さんに限ってないでしょー」と茅野は朝買ってきたらしいプリンスムージーの最後の一杯をゴクリと飲み干した。
「ね、私飲み物買ってくるけど皆何にする?」
「あ、私も行きます!」
「私も私もー!」
「私も置き去りはゴメンだぜ」
そんな感じで揃って席を立った御一行。途中男子高校生、志御の記憶では「私立極楽高校」の同じく修学旅行らしい生徒と神崎がちょっとぶつかるアクシデントはあったが、「ごめんなさい」の一言で特に何も起こることはなく、彼女達は「京都楽しみだねー」なんて話しながら車内販売の方へ向かっていた。神崎お手製の日程帳がスられたことには、誰も気付いていなかった。
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