浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第18話 観光の時間

「いやあ、着いちゃったね、京都!」

「だな。ま、今日はバス乗って旅館行って寝るだけだが」

「そう、ですよ……皆さん……本番は……明日、なんですから……」

「酔い過ぎだよ殺せんせー」

「新幹線でこれならバスとかどうなるんだよ……」

 

 新幹線に揺られること数時間。E組は憧れの古都京都へと足を踏み入れた。ここから先はバスで宿へ向かうことになっていたが、もちろんE組だけは別。他のAからDが三つ星ホテルの個室を取られている中でE組だけはおんぼろな寂れた旅館。というか名前から「さびれや旅館」とかいうこの世の終わりみたいな雰囲気が漂っている。唯一いいところと言えば男女それぞれ一室ずつの大部屋だから賑やかにはなるだろうということであった。ちなみにバスについても他が貸し切りの団体バスなのに対してE組は市営バスで向かえとのことであった。

 

「志御さんなにそれー。トランシーバー?」

「これ?盗聴器。殺せんせーのプライベート暴こうと思って良い奴用意した」

「ヌルフフフ、やれるものならやってみなさい……ほら、皆さんバスが来ましたよ」

「多分バス一本じゃ足りねえけどな」

「じゃあ女子組先行ってていいぞ。俺等はもう一本待つから」

「りょうかーい!」

 

◇◇◇

 

「あ、来た来たー!」

「案外早かったな」

 

 「取り敢えず荷物置いてこいよ」とロビーの少しカビ臭いソファに茅野に貰ったロリポップを舐めながら寝転がった志御は男子用の大部屋の方を指差した。そしてその向かいのソファでは案の定追撃のバス酔いでダウンした殺せんせーが今にも死にそうな顔になっている。「ちょっと部屋で休んでくれば?」とナイフで切りつけながら提案する岡野だったが、殺せんせーは青い顔でさらっと避けて答える。

 

「いえ、大丈夫です。それに先生一回東京の方戻りますので。枕を忘れてしまいましたから」

「あの荷物で忘れ物あんの?!」

「っていうか枕変わると駄目なタイプか……」

「もうカバンに入ってるこんにゃくでいいだろ」

「そういやビッチ先生どこ行った?」

「服買い行ったぜ。律儀に私の着替え5万で買い取ってからな」

 

 そしてプリン味のロリポップを舐め終えた志御はふと荷物を探っている神崎と茅野に気が付く。よっと、とソファから起き上がると、志御はそっちへ駆け寄った。

 

「どうかしたか?」

「あ、志御さん。神崎さんが日程帳失くしちゃったらしくて……」

「あー、新幹線までは確実にあったよな」

「うん。皆に見せた後も確かにバッグに入れたはずなんだけど……」

「めっちゃ作り込んでたもんなぁ……一応私のも探してみるけど、心当たりはないぜ?」

「うん……ありがとね、志御さん」

「皆さん自分達でもまとめておくとは感心ですねぇ。安心安全完全攻略の先生のしおりもあるというのに」

「それ持ち歩くのはごめんだからな」

 

 にしても、日程帳なぁ。志御が中身を思い出していたところで、ふとあの後席を立った際にすれ違った極楽高校の生徒の顔が脳裏をよぎる。「まさかな」と志御はため息を吐いた。

 

◇◇◇

 

 そして修学旅行二日目。結局日程帳は見つからず、神崎は殺せんせーのしおりを持っていくことになった。その流れで殺せんせーに同じく押し付けられた志御は「大体覚えてるっての」と不満げだった。

 志御達四班の暗殺の出番は午後。殺せんせーを上手く国が依頼した凄腕のスナイパーの元へ誘導することが彼女達に求められたミッションだった。それ故に午前は大体空き時間。京都の伝統ある町並みを歩きながらクラスメイトの杉野は呟いた。

 

「にしても良いよなぁ、京都。暗殺がなけりゃもっと良かったんだけど」

「そうか?」

「おう。こんな良い景色で暗殺とか野暮だろ」

「そうでもないよ」

 

 渚が答えると、杉野は少し驚いたような顔をした。「すぐそこだから寄ってってもいい?」と渚が皆に尋ねると、異論は出なかった。

 

「ほら、あった」

「……!坂本龍馬って……!」

「ああ、言われてみりゃこの辺か」

 

 コンビニのすぐそばに建っている碑石を見て、志御は呟いた。「そうそう」と渚は殺せんせーのしおり、その解説ページを開きながら答える。

 

「1867年、坂本龍馬暗殺の「近江屋」跡地。ここから五分もしないところに本能寺もあるよ。場所はちょっと違うらしいけど」

「あ、確かに本能寺の変も暗殺だね」

「うん。ここら辺の一キロ四方でも歴史上何人もの偉人が暗殺されてる。京都は古都ってだけじゃなくて暗殺の都でもあるんだよ」

「そう言われると、暗殺と京都は切っても切り離せねえんだな」

「そういうこと」

「はっ、そこに我らが超破壊生物が加わんだろ?ますます修学旅行需要が京都に一点集中しちまうな」

 

◇◇◇

 

「やっぱどこ言っても甘味はあるもんだな」

「プリン団子美味し〜!」

 

 表の通りで買った観光地価格の割高スイーツに舌鼓を打ちつつも、次に彼女達が訪れたのは祇園の裏通り。神崎きっての希望だった。

 

「祇園って少し入るとこんなに人少なくなるんだねー」

「うん。ほら、一見さんお断りってあるでしょ?あれってこの辺が多いの。だからふらっと歩くような人もいないし、見通しもあんまりよくないから暗殺に向いてるんじゃないかって」

「へー、バッチリ考えてるんだ!流石神崎さん!」

「……悪い、カルマ」

 

 志御はカルマに耳打ちした。「早速私達以外のお客様いんぞ」と。カルマはくるっと周囲を見渡して気が付いた。男子高校生だ。それも5、6人のグループ。そして志御がにわかに警戒すると同時に、タイミングを見計らったかのようにその周囲を男子高校生が囲んだ。間違いない。新幹線で会った極楽高校だ。「やっぱ私の直感当たんだよなぁ」と苦い顔で志御はため息を吐いた。

 

「ちょっと、何なんですか急に!」

「観光っぽくないよね?俺等になんか用?」

「あいにく男にゃ興味ねーんだわ。さっさと女置いて失せろや」

 

 ギョロ目の坊主の男が言うと、カルマはノーモーションで喧嘩に突入した。その顎に掌底を叩き込み、続けてその頭を電柱に叩きつける。そして一瞬間が出来た内に志御は考えた。

 逃げる?無理、ちゃんと囲まれてる。倒す?無理、その間に誰か拉致られて終わり。叫ぶ?無理、ここ裏通り。なら、あれか。志御はカバンからさっと盗聴器を取り出すと、そのマイクを胸ポケットに放り込んだ。誰も気が付かなかった。

 

「……うご……」

「ね、渚君。目撃者いないし喧嘩しても大丈夫っしょ」

「そーだなぁ」

 

 カルマが坊主を沈めて渚に話しかけたその瞬間。その赤髪に向けて鉄パイプが振り下ろされた。意識外からの一撃にカルマはその場にダウンする。

 

「だから最高なんだよなここ。おい、女攫うぞ」

「は?!何言って……ングっ?!」

「……!」

「チッ……!」

 

 技術が介在する余地があるならともかく、単純な膂力で縛られては志御に太刀打ちは出来なかった。最後のあがきとして、志御は手に持った盗聴器の受信機側を倒れたカルマの方へ投げつける。そして茅野、神崎、志御が縛られて軽バンに詰め込まれる中、抵抗虚しく杉野も渚も祇園の石畳に倒れていた。

 

◇◇◇

 

「うっひゃひゃひゃ!!こいつらちょれー!!」

「だから言ったろ?ガキは力でねじ伏せるに限るって」

 

 いきなり無免かよ、と志御はため息を吐いた。縛られた彼女等を載せた車は元気よく国道を疾走している。いや、やるかと志御は小さく目をつぶり、そして口を開いた。

 

「おい。こいつら売ってやるから私の縄解け」

「ちょっ、志御さん?!」

「なんだ、お早い裏切りだな」

「ああ。こいつらは好きにしてくれていい。だが私は助けろ。そしたら私達の引率には上手く誤魔化してやるぜ?」

「へえ、お前名前は?」

「浅野志御。椚ヶ丘中学3年。あと理事長の娘だ」

 

 「取引相手には悪くないだろ」と凛と答える志御。リーダー格らしいオールバックの男はパラパラと手元のノートのようなものと今の志御の口述を比べる。案の定、志御が思ったとおりに日程帳はスられていた。多分新幹線の車内だ。相当手慣れてる。志御がそう推し量っているうちに身体を縛っていた縄はするりと解かれた。手首をぐるっと回して彼女は続ける。

 

「次。私のバッグ返せ。どうせ回収してんだろ」

「どうしよっかなー?」

「修学旅行で近づいちゃいけない場所は幾つか教えられてる。案内してやるよ。絶対巡回は来ねえだろうからな」

「……おい、返してやれ」

 

 そして志御はカバンの中身を確認すると、「次の交差点右でその次左。後は看板の案内従えば廃ビリヤード場だ」とハンドルを握っている彼に告げた。茅野は「どういうこと?!」と声を上げ、神崎は信じられないようなものを見るような目で彼女を見ている。志御は「黙ってろ」と二人の方を見た。二人は確信した。志御が何かを図っている、と。その目は、3-Eで志御と関わって一ヶ月半程度、少なくともそこでは一回も見たことがないほどに真剣で、鋭い光が宿っていた。そして、その目のままに男達へ向けて志御は笑った。

 

「宜しく頼むぜ?お前ら」

 

◇◇◇

 

「だ、大丈夫ですか?!」

「……!良かった、奥田さんは無事だったんだね」

「ごめんなさい、怖くなって隠れちゃいました……」

 

 あの男子高校生等が去った後。倒れた渚達の元へ奥田が駆け寄った。そして腹を抑える杉野、ズキズキと痛む頭を抑える渚に少し遅れ、気絶していたカルマは目を覚ます。

 

「……ナンバー隠し、多分盗車。慣れてんなあいつら……」

 

 そしてゴキゴキと首を回し、青筋を立てながらカルマは言う。

 

「通報しても結構掛かるよ。……っていうか直接俺にやらせてくれないかなぁ?」

 

 男子高校生の襲撃、クラスメイトの拉致。暗殺教室とはいえ修学旅行でもあった渚達にもたらされた余りに大きなトラブル。渚達が取っ掛かりもない中で藻掻こうとしたその時、カルマの傍らに落ちた受信機が鳴る。志御の裏切る声。カルマはすぐに真意を悟った。それと同時に、渚が無意識に手を伸ばしたその先、落ちた殺せんせーのしおりがぱらりと捲れる。「クラスメイトが拉致られた時の対処法」、そんなページが渚の目に入った。




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