浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「お会計25260円になります」
「現金で」
レジの青いトレーに一万円札三枚を乗せる志御。そしてお釣りを彼女に手渡し、「またのご利用をお待ちしてます」と頭を下げる店員を背に志御達は帰路に着いた。
彼女達四班の選んだ夕食は「おばんざい」と呼ばれる京都の家庭料理をメインとする小料理屋。観光地ということもあってそれなりに値が張りはしたが、その値段に見合う程度の満足感は皆充分に得られていた。
「いやぁ、美味かったなぁ〜」
「ねー」
「でも良いの?志御さん。私達奢ってもらっちゃって」
「やっぱり出すよ」と財布を取り出した茅野に「良いからそれしまっとけ」と志御は言う。けれど少し申し訳無さそうにする彼女に志御は「はあ」とため息を吐いた。
「良いか?事情はどうであれ、私は一度茅野と神崎売ってんだぞ。これくらいさせてもらわなきゃ詫びにもならねえっての」
「でも……」
「気にすんなって。それにあんなことあったんだからちょっとくらい良い思いしたってバチは当たんねえだろ。どうせロクな金じゃねえしな」
「ロクなお金……ってどういうこと?」
「ビッチ先生に5万で服売ったやつ」
「あー……」
「それは確かにロクでもないかも……」
「服売って5万とかなんか援こ」
「流石に駄目だよカルマ君?!」
「だからロクでもねえって言ったろ」とケタケタ笑う志御。そして彼女に釣られるように神崎もクスッと笑い、そして口を開いた。
「なんかさ、志御さんって良い子だよね」
「……は?」
「あ、それ私も思った!なんか口の悪さの裏の育ちの良さが隠せてないっていうか!」
「いや、何言って……」
「確かに振り切れてないとこあるよね」
「……っ……!」
「そういえばビッチ先生に貸してた服もお嬢様って感じだったし!」
「もしかしたら志御って良い子なんじゃない?」という唐突に湧き出た論調に「ちょっ……これ以上はぁ……」と志御は顔を赤くする。神崎は返ってきた日程帳のプロフィール欄に「実は良い子」と書き込んだ。
◇◇◇
「うおおおお!神崎さん上手ええ?!!」
「ふふ、そう言われるとなんだか恥ずかしいな」
旅館の古びたゲームコーナー。浴衣に着替えた神崎はまるで自らが身体の如くアケコンを操っていた。機種はおよそ何十年前の格闘ゲーム。対戦相手の志御は五連敗しながらも「あっは!1年経っても追いつけるか分かんねぇぞこれ!」と興奮しながら再び百円を入れた。
「っていうかさ、こんだけ上手いなら十二分に個性だろ。なんで黙ってたんだよ?」
「ほら、うちって進学校でしょ。別に遊びが出来たって馬鹿にされるだけだと思ってたから」
「あー……」
「でも、さっきの志御さんのおかげでなんだか振り切れた気がするの。「肩書なんか関係なく、私は私だ」って。だからありがとね」
「そんな良いこと言ってないっての。おい茅野、2対1で神崎倒すぞ!」
「いやそれでも勝てないって!」
「ふふ、いいよ。やろう、二人共」
カルマと渚がメダルゲームで勝負している中、彼女達の第二ラウンドが幕を開けた。
◇◇◇
「いやあ、あれだけやってなんとか1勝かぁ……」
「神崎クソ強え……」
「ううん、最後の方は二人もすごく上手くなってたよ」
「んで勝ち越すまでどんだけ掛かんだって話だ」
「お、丁度いいやつ見っけ!」
彼女達三人が部屋に戻る途中、中村莉桜が志御に声を掛けた。多分趣味がセクハラであろうオヤジ系中学生の彼女は志御が自らの同類と見込んで提案した。
「志御、アンタ興味ない?」
「興味?何の話だ?」
「何って「覗き」よ」
「無理だな、私は純情乙女だぜ?」
「ふっふっふ……そうも言ってられないぜ?聞いて驚くなかれ、ターゲットは……」
「……?!は?マジで?」
「おうよ。今不破がカメラ構えて張ってるところ」
「悪いな、ちょっと行ってくる」と好奇心が抑えられない様子の志御は神崎達の下を離れ、携帯電話片手に大浴場の方へ走っていく。「撮れたら写真送ってねー!」と二人は彼女を送り出した。
「……あ、中村さんに志御さん。それに不破さんも。何してんの?」
「しっ!静かに!」
男湯の前を張っている三人に、通りかかった渚とギリギリ法を越えていないだけの変態岡島大河が声を掛けた。なんだか真剣な顔の三人にただ事じゃないんじゃ、と渚は首を傾げている。
「っていうか風呂でやることとか覗きに決まってんじゃん」
「待て覗きっつったか?!それ
「勝手に括らないでよ」
「おやおや渚ちゃんも純情派かね?しかしこれを見たらそんなことは言えなくなるさ」
そう言って中村が手を挙げると、のれんの手前で控えていた不破がさっとのれんを捲る。その奥に待っていたものに二人は思わず目を見開いた。そこには、見慣れたアカデミックドレスと角帽、三日月があしらわれたネクタイが置かれていたのだ。
「つまりこれは……」
「そう、
「……いざ、御開帳!」
そう言って中村は風呂場の扉を開ける。一体何が見れるのかと五人の期待が膨らみに膨らむ。そして、その目に入った光景とは……。
「……おや、皆さん。楽しそうですねぇ」
泡風呂に浸かっている殺せんせーの姿だった。「おい入浴剤禁止だろ」と志御がツッコむと、「これは先生の粘液です」と殺せんせーは触手をブラシで洗いながら答える。
「実は先生の粘液汚れ落としにも使えるんです。表面の汚れも泡立てて浮かせてピカピカです」
「尽く利便性の塊みたいな性能しやがって」
「……ふふ、でもここまでよ殺せんせー」
そう言って中村はナイフを構える。ちなみに志御もナイフを構え、ついでに携帯をカメラモードへ切り替えている。
「ここまで来たからには殺せずとも裸くらいは拝ませてもらおうじゃないの」
「ヌルフフフ、どちらもごめんですねぇ」
そう言うと殺せんせーは泡立ちを纏ったままスッと立ち上がる。まるで寒天で固めたゼリーかのごとく持ち上がるお湯。そして殺せんせーは空いた窓からちゅるんと逃げて行った。
「……無駄骨、だったな」
「……そうね」
二人はナイフを床に叩きつけた。
◇◇◇
「おー、何やってんの?」
「良いとこ来たなカルマ。今皆の気になる女子調べてんだ」
男達の大部屋。そこでは湯上がりの男子達が一枚の紙を囲んで真剣に話し合っていた。「気になる女子ランキング」と題されたそれは一人一票で自分が一番気になる女子に投票していくという至ってシンプルなシステムでランキング付けされていた。
「やっぱ神崎さん人気あるなぁ」
「流石に神崎さんは嫌いなやつ一人もいないだろ」
「そんで案の定岡島は矢田さんか」
「おう。とても14歳とは思えないワガママボディ最高だぜ」
「あれ、他にデカいので言うと……」
「俺の見立てだが、矢田がEでその下に中村と志御が並んでる感じだな」
「あー、確かにあの辺も割とあるな。その中だと一番低いのは……志御さんか」
「しょうがないだろ。父親があの理事長だぞ」
「父親が理事長だとなぁ」
「やっぱ理事長の娘となるとなぁ……」
「本人外の減点すぎるだろ」
「それで、カルマは誰か気になる人いるか?」
「全員言ってんだからな。お前一人逃げようたってそうはいかないぜ」
「うーん……だったら奥田さんかな」
「お、意外だな」
「だって奥田さんに薬品作ってもらえればもっと色々いたずら出来そうじゃん」
「理由ヤバ」
「一人だけ違うランキングやってんだろ」
「ま、これでひとまず全員だな。言っとくが、ここでの話は俺達だけの秘密だ。女子にも先生にも絶対に……」
「ヌルフフフ、良いですねえ。青春って感じです」
「……おいあのタコブチ殺すぞ!!」
「メモってやがったあいつ!!」
「絶対に生きて帰すな!!」
「俺達のプライバシーを守り抜け!!」
◇◇◇
一方女子部屋。そこではおやつを囲みながらイリーナと生徒達が話していた。
「っていうかまだビッチ先生二十歳なんだ」
「なんかもっと年上のイメージあったー」
「ふふ、経験は色気を育てるのよ」
「私一回りは離れてると思ってたのに」
「なんか毒蛾みたいだよね」
「せっかく人が心地よく酒飲んでんだから水差すの止めなさいよ!」
「っていうか教師がなんで生徒の前で酒飲んでんだよ」
「あんたこそ勝手に私のビーフジャーキー食ってんじゃないわよ!……ま、私だってあんた達の若さが羨ましくなったりもするわ」
「そうなの?」
「そうよ。女盛りなんてあっという間。それをこんな平和な国で過ごせるなんて感謝した方が良いわ。それで、精一杯に女を磨くことね」
「……」
「……なんかビッチ先生がまともなこと言ってるー」
「変なのー」
「最終回?」
「あんたら一回辞書で「先生」って引いてきなさい!」
「……あ!じゃあさじゃあさ、先生の男エピソード知りたいな」
「私も気になるー!」
「お、いいじゃんそれ。私も興味あるぜ」
「確かに酒の肴には丁度良いわ。別次元の話に腰抜かすんじゃないわよ。例えばあれは16の……」
「ふむふむ、私も興味ありますねぇ」
「……いや何混じってんのよタコ!!」
「良いじゃないですか。色恋好きは男女問わずですよ」
「でも殺せんせーそういう話しないじゃん」
「聞いてばっかだよね」
「なんかアンフェアだよな」
「っていうか巨乳好きなんだし一つや二つくらいそういう話あるでしょ」
「……これにて失礼!」
「あ、逃げた!」
「あんた達!!あれ逃がすんじゃないわよ!!どうにかして吐かせなさい!!」
「イエッサー!!」
◇◇◇
「おいいたぞあのタコ!!」
「脳天ブチ割って記憶ごとブチ殺せ!!」
「あんた達!!あいつ殺して吐かせて殺すわよ!!」
かくして修学旅行最後の夜は暗殺漬け。結局いつも通りだったけれど、それが志御は楽しくてしょうがなかった。殺せんせーを追いかけながらも「兄さんに自慢してやろ」と志御は神崎達と撮った自撮り写真を転送した。
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