浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「……あ、おはよ。兄さん」
「ああ、おはよう志御」
朝のジョギングを終えて戻って来た志御を、学秀はサンドイッチを食べながら出迎えた。志御は軽くシャワーを浴びると、制服に着替えてダイニングに戻ってくる。
「昨日さっさと木刀貰おうと思って待ってたんだけどさ、私寝落ちしちゃって。E組以外帰ってくんの遅すぎない?」
「そうだな。何せE組以外は午後まで自由時間が設けられていた。帰りも飛行機だったしな」
「はー、差別差別」
「文句があるならさっさとAに戻って来い」
「お断りだっての」
志御は兄に容赦なくNOを突きつけながらテーブルの上のフルーツサンドに手を伸ばす。「やっぱ運動後は甘味に限るぜ」と心底美味しそうにそれを頬張る妹に学秀はため息を吐き、そして木刀の入った竹刀袋を差し出した。
「ほら、注文の品だ」
「お、マジじゃん。しかもオマケ付きかよ」
「勘違いするな。そのまま持って帰って来るには些か不都合だっただけだ」
「はいはい」
そして合計で3つか4つくらいのフルーツサンドを口の中に押し込んだところで、志御はそろそろ出発の時間が迫ってきていることに気が付く。彼女はその竹刀袋とリュックサックを背負った。
「じゃ、行ってくるぜ兄さん」
「ああ。精々今日も頑張ってくることだな」
◇◇◇
「おはぁー」
「おはよー志御さん。木刀ゲット出来たんだねー」
「まあな。兄さんに頼んでおいた」
始業15分前に席に着いた志御に、隣のカルマが「ところで例の噂知ってる?」と声を掛ける。
「噂?」
「そうそう。って言っても俺もさっき渚君から聞いたばっかりなんだけどさ。なんでも「転校生」来るらしいよ」
「マジ?修学旅行終わりとか運悪いなそいつ。んで、どんな顔してんの?」
「こんな顔だってさ」
そう言ってカルマは「岡島からもらった」と一枚の顔写真をスマートフォンの画面に映す。そこに映っていたのは薄いピンクと紫を混ぜたような髪の、赤目の可愛らしい少女。志御はそれを見るなり「あっは!やっぱE組は飽きねえな!」とケタケタと笑った。
「あー、マジでおっかしいぜ」
「やっぱり志御さんは分かるよねー」
「まあな、っていうかこんくらい分かりやすかったら流石にだっての。……コイツ、「二次元」じゃん」
そうこう話しているうちに間もなくホームルームの時間。「皆さん修学旅行でリフレッシュ出来たみたいですねぇ」と殺せんせーが教室に入ってくる。
「……ふっ、皆さんご存知かもしれませんが、今日から新しい……ふふっ、新しいクラスメイトが……ぷぷ……増えます」
「笑いすぎだろ」
「っていうかあの子に笑う所あったか?」
「ふふっ……ではどうぞ烏間先生!」
そう言って殺せんせーの合図とともに入ってきた烏間。彼はゴロゴロと台車に大きな黒い板のようなものを載せて運んでいた。転校生が来ることを知っていた生徒も知らなかった生徒も思考が「??????」で埋め尽くされる。確かに殺せんせーも笑うわけだ。そして烏間が「良いぞ」と声を掛けると、そのモニターが作動してさっき志御が見せられた少女の顔が映し出された。
「皆さん初めまして。今日から転校してきた「自律思考固定砲台」と申します。よろしくお願いします」
それだけを業務連絡のように伝えると、再びモニターはオフになる。合成音声までちゃんと作ってんだな、と志御は僅かに感嘆し、そして隣のカルマへ声を掛ける。
「なあ、これ兵器だよな?」
「そうだね。AIの人格あるから生徒とでも言い張ってるのかなー」
「マジイカれてんな国も」
「……というわけで、ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ。このような形だが、れっきとした生徒として登録されている。皆仲良くしてやってくれ」
「いやどうやって?!」
「大変っすね烏間先生……」
「ああ、これを転校生と言い張って理事長に紹介しなければいけなかった俺の気持ちが分かるか」
「無理に決まってんだろ。ツッコミ追いつかねえぞ」
そして烏間は教室の端まで彼女を運搬すると、「悪いが手伝ってもらえるか」と志御に声を掛け、そして幾つかのビスとドリルドライバーを手渡す。「マジで固定すんのかよ」と志御は教室の床にネジ穴を開け、自律思考固定砲台を固定した。
「ぷぷっ……クスクス……これが生徒とは……防衛省も必死なようですねぇ……クスクス」
「舐めていると痛い目に遭うぞ。これでも中身のAIは最新鋭のイージス艦に搭載される戦闘システムを更にお前の暗殺のために改良したものだからな」
「……まあ構いません。自律思考固定砲台さん、あなたをこのE組に歓迎します!」
◇◇◇
「なあカルマ、あれどうやって攻撃すると思う?」
「えー、どうだろ」
一限目は国語の授業。殺せんせーは黒板にカリカリと走れメロスの登場人物の相関図を記している。しかし、ノートを取りながらも大半の生徒の集中は後ろでただならぬ雰囲気を醸し出す自律思考固定砲台に向けられていた。そしてウィーン、というあまり大きくない起動音に反応して何人かの生徒が振り返る。志御はスマートフォンのカメラモードをオンにした。
「攻撃準備、完了。これより殺せんせーへの攻撃を開始します」
「来た……!」
「かっけえ?!!」
「おー」
「志御さん後で動画送ってよ」
彼女の身体のサイドが開き、そこから顕になる、特殊プラスチックでその場で合成された二門の機関銃と四門のショットガン。殺せんせーの軌道を予測して放たれる無数の対先生BB弾。男心をくすぐられるその機構に男子は少なからず目を輝かせていた。
「ヌルフフフ、確かに濃密な弾幕ですが、これでは生徒達と大差ありませんねぇ。それと、授業中の発砲は禁止です」
「了解しました、殺せんせー。続けて攻撃準備に入ります」
チョークで弾を弾きながら言う殺せんせーに、文字通りの機械的な受け答えのみで次の準備を始める自律思考固定砲台。そしてその身体に無数のラインが奔り、モニターには目で追うのが不可能なほどの計算列が物凄い勢いで流れ始める。烏間は「ここからが本領発揮だぞ」とそれを眺めながら呟いた。
「弾道再計算。射角修正。有効武装再検索。自己進化
これこそが自律思考固定砲台が「自律思考」たる最大の所以。進化するAIは現実の構造そのものも無尽蔵に進化させる。あえてこの場に相応しい表現をするのであれば、「学習意欲の結晶」とでも言うべきだろうか。
「第二射、開始します」
「……こりませんねえ」
そして再び殺せんせーを狙って放たれる無数の弾幕。生徒達の目では分からないが、殺せんせーからすれば一目瞭然の代わり映えしない全く同じ射撃。「所詮は機械ですねぇ」と再び自身に迫る対先生BB弾をチョークで弾こうとしたその瞬間だった。
「……?!」
確かに弾を弾いたはずのチョーク。それを握っていた触手が粉微塵に吹き飛んだ。殺せんせーも、生徒達もあり得ないものを見るかのように目を見開く。(そういうことか……!)と殺せんせーは再び自律思考固定砲台の方を見た。確かに、先程までの装備とは別に副砲が追加されているのが確認できた。
隠し弾。殺せんせーがチョークで弾くであろう弾丸と全く重なるようにもう一弾を追加するという彼女の作戦に殺せんせーは確かに嵌められていた。対象の防御パターンを学習し、それに適応して進化し、そしてまたデータを集め進化する。それがどれだけの効果を発揮するかは、彼女の計算そのものが物語っていた。
「次の射撃で殺せる確率、0.001%未満。次の次で殺せる確率、0.003%未満。……卒業までに殺せる確率、90%以上。……次の攻撃に移ります。よろしくお願いします、殺せんせー」
そして極めて機械的で無機質なやり取りとともに展開される新たな砲門。それを見て、そして授業が中断されている現実を見て、志御は言った。
「シンプルに邪魔だなこいつ」
高評価とか感想とかよろしくお願いします!