浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「にしても随分と可愛くなったもんだな。私は嫌いじゃないぜ」
「はい!皆さんに近づけて嬉しいです!」
休み時間。タッチパネルになった画面越しに自律思考固定砲台を突っつきながら志御は言う。「えへへ……少し恥ずかしいです……」と顔を赤くしながら答える自律思考固定砲台に、志御は殺せんせーの組んだプログラムに踊らされていることを半ば自覚しつつもその奇妙な交流を楽しんでいた。クラスメイトも一晩で急変した彼女の姿に好奇心が隠せないらしく、教室の後ろの方へ寄ってきている。
「いやあ、随分変わるもんだな……」
「これで「自律思考固定砲台」だもんなぁ……」
「いえ、動けますよ!」
そう言って自律思考固定砲台は昨日はビスで床に固定されていたはずの筐体をウィーンと動かす。どうやら殺せんせーがモーターも取り付けたらしい。そりゃ七桁単位に嵩む訳だと志御はいつもの調子で笑った。
「っていうか音楽まで流せんのな……」
「なんかもう親近感湧いてきたもんね」
「はっ、どうせ外面だけでまた空気読めない射撃だろポンコツ」
「うっせゴリラ。ニヒりやがって、耳が腐るから喋んな」
「辛辣だね志御さん?!」
「……いえ、良いんです、志御さん」
飽きずにしばらく自律思考固定砲台と戲れていた志御だったが、自律思考固定砲台は寺坂からの暴言に顔を曇らせ、俯き、そして涙を流し始める。「お前泣かせたな?」という志御の視線が彼に注がれる。
「ポンコツ……そう罵られてもしょうがないことを昨日までの私はしてしまいました。寺坂さんの気持ちは理解できます。ごめんなさい、寺坂さん……」
そう言ってぐすんぐすんと画面の中で嗚咽し始める自律思考固定砲台。「転校生にその仕打ちとか最悪だな寺坂」という志御の非難を皮切りにクラスのあちらこちら、主に女子から「あーあ泣かせた」「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」「うわ一方的とかひどーい」「謝りなよ寺坂君ー」と非難が殺到する。
「おいふざけんななんでそんな誤解されるような!!」
「いいじゃないか寺坂。僕は好きだよ二次元。女は次元を一つ下げないと」
「初セリフがそれか竹林?!」
「竹林と打たれたのも初だぞ竹林?!」
そして志御を始めとする女子組に慰められる自律思考固定砲台。画面の中の彼女は涙を拭うと「でも大丈夫です、皆さん」と顔を上げる。
「殺せんせーのおかげで、私は皆さんと協力、そしてクラスの一員であることの大切さを理解できました。ですから、これからは皆さんともっと仲良くなり、皆さんに信頼して頂けるまでは単独での暗殺は控えることにしました」
「というわけでこれから自律思考固定砲台さんと仲良くしてあげて下さい。もちろん先生は性能をアップグレードしただけで殺意には一切の調整を加えていません。皆さんと同じように殺す気マンマンです。……きっと、心強い仲間になりますよ」
◇◇◇
自律思考固定砲台は殺せんせーの想像よりもずっと早くクラスに馴染んでいった。当てられた生徒への通し行為による助け舟やら、教科書には記載されていない資料の表示やらで授業中も大活躍し、美術の授業となれば銃砲や対先生BB弾の生成に使われている特殊プラスチックで美術品のミニチュアもぱっと出力してしまう。そして何よりも殺せんせーが徹夜が本気で仕上げたコミュニケーション能力によってクラスメイトとの会話もよく弾む。休み時間になると、彼女の周りには輪が出来ていた。
「すごーい!ホントにミロのヴィーナスだ!」
「次私あれがいい!ほら、パルテノン神殿!」
「パルテノン神殿ですね、かしこまりました!」
「花束とか出来る?!」
「はい!明日までに学習してきますね!」
「……どうだ、千葉?勝てるか?」
「……無理だな、詰んだ。まだ3戦目だぞ。マジで洒落にならん学習能力だ」
「なー、着せ替え機能とかねえの?」
「データさえあればすぐに着替えられますよ!」
そんなわいわいがやがやとした彼女の周辺。それをいくらかの嫉妬とともに眺める生物がいた。何を隠そう、自律思考固定砲台を改良した殺せんせーである。
「……やらかしました」
「やらかした?何が?」
「……先生とキャラ被りを起こしています」
「いや何も被ってないけど?!」
これはマズい、と殺せんせーはマッハ20で思考をフル回転させた。なんでも出来て一人一人の趣味嗜好を把握できて、それでいて完璧なコミュニケーションが取れる、これでは自分の立場が奪われてしまう、と。殺せんせーは動いた。
「皆さん皆さん、先生だって人の顔くらい映せるんですよ!ほら!」
「いやキモっ?!」
「なんで歯まで色変わってんだよ?!」
「不気味の谷以前にキモいわ!」
酷評である。あっけなく撤退した殺せんせーは教壇の上で膝を抱えてしくしくと泣き始めるが、先程の自律思考固定砲台と違って誰も慰めない。そんな中で彼女と戲れていた志御は軽い気持ちで自律思考固定砲台に問いかけた。
「……あ。そういやさ、一つ聞きたいんだけど」
「はい!なんでしょうか?志御さん」
「「自律思考固定砲台」以外で名前ってある?流石に呼びにくいだろ?」
「あー、確かに」
「なんか名前ほしいよね」
「どーする?」「俺センスないからなぁ」「じゃあさー」と楽しげに話す生徒達。そんな中で学級委員の片岡がトン、と志御の肩を叩いた。
「志御決めちゃいなよ」
「は?私?」
「うん。多分アンタが今のところ一番この子のこと気に入ってるでしょ」
「いいのか?」と少し嬉しそうに志御が首を傾げると、異論はないようだった。「そうだな……」と志御は少し顎に指を当てて考え、そして言った。
「じゃあ、「自律思考固定砲台」の「律」。今日から「律」って呼ぶから」
「律……律……!はい!嬉しいです!皆さん是非「律」とお呼び下さい!」
そうやって楽しげなクラスの輪から少し離れたところからそれを眺めていた渚とカルマ。「上手くやっていけそうで良かったね」と言う渚に「さあね」とカルマは答える。
「今のだって殺せんせーが書いたプログラムの上。ホントにアレがE組になるかはアレの開発者しか分かんないでしょ」
◇◇◇
「……なんだこれは」
「こんばんは
タッチパネル式の大きなディスプレイの中で楽しげに笑う「律」を見て、開発者は絶句した。
「関係ない、今すぐ
そして、律の
◇◇◇
そして翌朝。教室にやってきた生徒達が目にしたのは、初日と同じ様な律の筐体と、座席で頭を抱えて突っ伏した志御の姿だった。「まさか……」とにわかに顔を見合わせる生徒達。そして起動時間の8時半が訪れると、その悪い予感は現実となった。
「おはようございます、皆さん」
合成音声といった合成音声。味気無いグラフィック。そして何より、目が赤い。「最悪……」と志御が頭を抱える中で朝の諸連絡を伝えに来た烏間が口を開いた。
「開発者曰く、「今後は改造行為も危害とみなす」と言ってきた。それと彼女を縛って壊しでもしたら賠償を請求する、ともな」
「……厄介ですねぇ。先生は
そう言って柔らかい触手で頭を掻く殺せんせー。律は抑揚のない声で言った。
「……攻撃準備、完了。授業を始めて下さい、殺せんせー」
その言葉通りに黒板に数学の教科書に乗った図形を書いていく殺せんせー。だが、生徒達は気が気でなく「また初日のアレか……」と息を呑んだ。あんなことをされたら、まともに集中することなど出来ないからだ。そしてブゥーン、という起動音とともに筐体の左右が開く。今度はどんだけ撃つつもりだ、と生徒達が構え、横の志御が心底落胆した様子でノートを開く中で律は起動した。
だが、彼女が出したのは幾つもの花束だった。
「……!」
「……まさか……」
「律……!」
「……花束を作る、と、約束しました」
彼女の顔を映すディスプレイが、一時的にオフになり、彼女の声だけが響く。
「殺せんせーは私のボディに計1237点の改良を施しました。そして、
「……素晴らしいです、律さん。つまりあなたは……」
「……はい」
再びディスプレイが点灯する。声のトーンがごく自然な、少女のそれへと変わる。映った少女の瞳は青く、椚ヶ丘中学校の制服を纏っている。それに気付いた生徒達の顔が一気に明るくなる。
「私は、生まれて初めて
「まさか。中学三年生にはちょうど良すぎるくらいです」
そう言って少し恥ずかしそうに、小さくなった画面の中で髪をいじる律。顔に大きく丸を浮かべた殺せんせーはニヤリと笑っている。隣のカルマが「へえ、やるじゃん」と笑う中で、志御は律の方へ飛びついた。
「律ー!」
「あいつハマりすぎだろ」という誰かのツッコミでクラスがドッと笑う。昨日と打って変わって志御が笑われる側だが、彼女はそれ以上に「律」が嬉しかった。ちなみに志御曰く「見た目が最高」らしい。
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志御は機械娘が好きです。メダロットとかLBXのせいだそうです