浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

30 / 67
第26話 転校生の時間・二限目

「おはぁー」

「おはよう、志御さん」

「おはよー」

 

 毎度毎度飽きもせず、遅れることも早く来ることもなくきっちりと始業15分前にやってくる志御。席につき、ぐぐっと背伸びした彼女にクラスメイトが声を掛けた。

 

「志御知ってる?また新しい転校生来るんだってさ」

「どうせ殺し屋だろ。十中五百な」

「多分ねー」

「……あ、律なら何か分かんだろ」

 

 そう言って志御はスマホを取り出す。「御用ですか?」と画面の中にひょっこりと律は姿を現した。

 

「っていうかさ、中村もスマホに律入ってる?」

「あ、そうそう。ウチもいつの間にか入っててさ。……でも、志御のやつなんか違くね?ちょっと豪華っていうか、ハイスペっていうか……」

「昨日私暇だったからな、律に教わりながらちょっと弄った。今じゃ部屋の家電も全部動かせるぜ」

「超未来的だねそれ」

「まあな。……で、律。転校生についてなんか知ってたりするか?」

「転校生……」

 

 律はAIでありながらまるで人間のように、反芻するように繰り返すと「もう、彼が投入されるのですね」と呟いた。「彼?」と志御が首を傾げると、画面内の彼女は頷いた。

 

「……当初は、私と彼が同時に投入される予定でした。ですが、いくつかの問題が発生したためにその計画は変更となりました」

「問題?」

「はい。1つは、彼の調整に当初の想定よりも時間を有したこと。そしてもう1つは、彼の性能が圧倒的だったが故に、私の性能では彼のサポートには力不足である、と」

「……へえ、律のスペックでも全く足りない、ってことか?」

「……はい。それ故に、重要度の下がった私から送りこまれたということだそうです」

「ふーん」

 

 志御は考えた。このクラスで初めて射撃によるダメージを与えた律、それが性能で比べ物にならないとなると、一体どれだけだ?少なくとも調整ということは律と同じような機械、ないしは一部が人工物というのは間違いない。妙な香りがすんなぁ、と志御はふと、雨の降る外を見た。

 

◇◇◇

 

「皆さん、もう知ってると思いますが、今日から新しい仲間が増えます」

 

 そう言って朝の連絡やなんやらとまとめて話し出した殺せんせー。そして「律さんのときみたいに油断はしませんよ」とその柔らかい触手を鳴らそうとした、その時だった。ガララッ、と教室の扉が開いた。先程の律の話が広まっていたクラスの緊張は最高潮。殺せんせーも含めたクラス全員がバッと入口の方へ向いた。

 

「失礼」

 

 教室に入ってきたのは、一人の白装束を纏った男。彼は教室の空気が固まっているのを見ると、戯れに袖から鳩を出してみせた。慣れた手つきだった。そして僅かに生徒達の緊張がほぐれたのを確認すると、彼は口を開いた。

 

「突然訪ねて驚かせたみたいだね、申し訳ない。私は転校生じゃなくて保護者さ。……そうだね、白いからシロだ。シロと呼んでくれ」

「……あー、びっくりした……」

「そりゃそうだろ、殺せんせーみたいなバケモンじゃない限り……」

 

 ふと生徒が殺せんせーの方へ目をやると、殺せんせーはかつて奥田の協力で再現した液状化モードを発動して教室の隅に張り付いていた。ビビりすぎだと生徒達がツッコむと、「実は先生もさっきの律さんの噂をこっそり聞いてたものですから……」と情けなく言い訳した。そしてぬるぬるとアカデミックドレスを纏い直すとシロに「初めまして」と挨拶した。

 

「ところで、肝心の転校生はどちらに?」

「ああ、すいません。色々と事情を抱えている子ですから、私から直接紹介しようと思いましてね」

 

 そう言ってシロはクラスを一瞥した。何人かの生徒と目が合った後に、「いやあ、雰囲気の良さそうなクラスで何よりです」と彼は言う。そしてそれと反対に、志御は形容し難い反発感を抱いていた。敵意と言ってもいい。それは、彼女が無意識レベルで組み立てていた論理と、直感として現れる前世の記憶に裏付けされたものだった。

 シロは自らを「保護者」と名乗った。すなわち、先程の「転校生が全て或いは一部人工物である」という仮定が正しいのであれば、彼は件の転校生の開発者とも言える。そして律と比べてなお圧倒的、そのようなスペックを組み上げられる人間など何かしら腹に一物を抱えている。そして何より、理事長()からの教え。それによって培われた経験が語っていた。「目の前のヘラヘラと笑う男を信用するな」と。

 だがそんな彼女の感情を知るすべもなく、シロは志御と律の間に挟まれた空席を確認すると、教室の外へ声を掛けた。

 

「おーい、イトナー!」

 

 シロの声に答えて、イトナと呼ばれた転校生はE組に足を踏み入れた。それも、教室の真後ろから。バキバキバキ、と教室の壁を割り、彼は何事もなく席に着いたのである。「いやドアから入れよ!」とE組の思考回路がおおよそ一致した。殺せんせーも何か真顔とも笑顔とも言えない、歪でぎこちない、中途半端な顔で汗を垂らしている。雨降る日とはいえもう夏もすぐそこまで迫ったそれなりに暑い日だというのに、長袖ブレザーマフラーと季節感をガン無視した彼は「俺は今日も勝った……俺の方がこの教室の壁よりも強いことが証明された……」とブツブツ呟いていた。「うわまたイカレかよ」と志御は頬杖を突いた。

 

「堀部イトナです。是非名前で呼んであげて下さい」

「は、はい……」

「それと、私も少々イトナには深く目をかけていましてね。しばらくはここで彼を見守らせていただきます」

 

 そんなことが教室の前で話されている中、不幸にもイトナの隣となってしまった志御は「おい」と声を掛けた。

 

「お前さ、壁ブチ抜いたってことは外から来たんだよな?それも手ぶらで。……何で、この雨の中でお前は全く濡れてないんだ?イトナ」

「……お前は」

 

 イトナは立ち上がり、そして相変わらずの高飛車具合に頬杖を突く志御の方へ寄って行った。背は志御よりも10cm弱小さかった。

 

「多分、E組(ここ)で一番強い。でも……」

「……んだよ?」

「俺よりは弱い。だから、俺はお前を殺さない。俺が殺すのは、俺よりも強いと思えたやつだけ。つまり……」

「……おや?」

「アンタだ、殺せんせー」

 

 近寄り、指を差したイトナに殺せんせーは「ヌルフフフ」と笑った。

 

「強い弱いはケンカのことですか?先生相手には無駄ですよ、そんなことは」

「いや、無駄じゃないさ。だって……俺達は「兄弟」なんだから」

「……は?」

「え?!」

「嘘?!」

「き?!」

「ょ?!」

「う?!」

「だ?!」

「い?!」

 

 

 教室が思わぬ衝撃に包まれる中でイトナは殺せんせーの目を見て言った。

 

「負けたら死亡な、兄さん」




高評価よろしくお願いします!
その他も諸々!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。