浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
ようやく梅雨の明けた6月下旬。長袖もそろそろ止めだな、と腕を捲った志御は登校中に買ったいちごシロップのたっぷりかかったドーナツを頬張っていた。そんな中、彼女はとんとんと肩を叩かれた。
「志御さん、少し良い?」
「あ、片岡」
クラス委員の片岡メグだった。責任感とリーダーシップに溢れた彼女はE組でありながらも未だ本校舎の、主に女子から根強い人気があるらしく、その高身長と凛々しさも相まって「イケメグ」なんて渾名で呼ばれているらしい。「なんか用か?」と志御がスムージーを吸いながら首を傾げると「放課後、空いてる?」と彼女は尋ねた。
「放課後か?良いぜ。今日は暇だしな。でも何やんだ?」
「作戦会議よ」
「……あ、そうか。そろそろあの時期だな」
「そう、球技大会のね」
クラス対抗球技大会。椚ヶ丘学園で毎年6月下旬頃に催される、健康な心身をスポーツで養うというのをコンセプトとして行われるスポーツ大会である。しかし、E組にとっては別の意味でビックイベントであった。
何と言ってもやはりその理由は本戦後に全校生徒の前で行われるエキシビションマッチ。5クラスだとトーナメント方式では一つ余るという理由でE組は意図的に省かれており、その代わりとして用意された舞台である。相手は男子であれば野球部、そして女子はバスケ部の、それぞれの選抜メンバーと試合を行わなければならない。この球技大会はあくまで一般生徒のためのイベントであるため、部員達は大会には出場できず、ある意味ではその鬱憤晴らし兼全校生徒への見世物として設けられたプログラムであった。
そして放課後。志御達は近場の貸体育館に集まっていた。
「あ、志御さん!」
「悪い、少し遅れた」
「良いよ全然。それじゃあ始めよっか」
備え付けられていたミーティングルームで顔を合わせる13人。ついでに志御持参のノートパソコンを媒体に参加する律で14人。ホワイトボードの前で進行を務めるのはもちろん片岡である。
「まず、相手の女バスはこの5人で、控えは一切なし。全員全国クラスの選手だけど、なんとかしてこの5人だけ対策すればオッケーって訳ね」
「こっちは好きに交代して良いんだっけ?」
「そう。ハンディキャップってやつね」
「今表示しますね!」
そう言って画面の中の律は一枚のPDFを表示した。「球技大会エキシビションマッチ特別ルール」、そう書かれたそれを律は朗々と読み上げていく。試合時間は1ピリオド10分×3セットの3ピリオド30分で、同点の場合はフリースロー対決。コールドゲームは50点差。「作ったやつブチギレられんだろうなぁ」と志御はケタケタ笑った。
「それで、勝ち目はあるの?」
「それを今から考えるの。男子は殺せんせーに練習付けてもらってるらしいけど、私達がここで殺せんせーの力借りずに勝ったら面白いと思わない?」
「あはは、確かにドヤ顔出来るかも〜」
「本校舎は冷えるだろうなー」
「いいじゃん、冷やしてやろうよ!」
「出来る限りね」
「このキャプテンの胸だけは許さない……!」
「殺意漏れ出てるよ茅野」
だんだんと乗り気になってきた彼女達。律にインターネットで彼女達の大会のデータやバスケの基本テクニックなどを収集してもらいながら、彼女達は女子バスケ部を出し抜くために策を練っていた。そんな中で、志御は口を開き、片岡に尋ねた。
「なあ、これ「盤外戦術」はどこまでアリだ?」
「……もちろん、好きにやっちゃって!志御さんには期待してるから!」
「はっ、良いぜ」
「あいつらにトラウマ刻み込んでやるよ」と首を親指で掻き切るようなジェスチャーをしながら、志御は不敵に笑った。
「志御さん、本体の方で100%シュートが決まる装置を出力しました」
「名前は「緑・マシーン」ね!」
「いや流石に誤魔化せねえよ。あとギリ怒られるぞ不破」
◇◇◇
そしてそれから一週間。球技大会当日の朝を、志御は迎えていた。一週間の間、暗殺の訓練と同時進行でバスケの練習を重ねた彼女達。さらに、志御はそこに加えて「盤外戦術」も存分に仕込んでいた。
その一つとして、本校舎での「対立煽り」。「E組に負けたら死刑」、かつての知り合いを使ってそんな感じの雰囲気を本校舎で作り上げることで、相手を極度の緊張状態にするというのが、志御の盤外戦術その一である。正直最初からそんな感じではあったから、それを多少煽り立てるだけの簡単なお仕事。だが、これが後々効いてくる、志御はそう踏んでいた。
「……おはよう、志御」
「おはよう、兄さん」
そして準備を終えて間もなく出ようとした志御に起きてきた学秀が声を掛ける。「随分と早いな」という彼の言葉に「E組は準備があるからな」と志御はリュックにパソコンをしまいながら答えた。
「じゃ、楽しみにしてるぜ?兄さんの二刀流」
「ああ。
「安心しろ、私の話題で持ち切りにしてやるぜ」
そして「じゃあな」と手を振って出ていく妹を、学秀は「行って来い」と送り出した。
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