浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第34話 訓練の時間

「目を瞑るな!常に暗殺対象(ターゲット)に意識を絞れ!次の動きを予測しろ!」

 

 7月に入り、暗殺訓練も4ヶ月目に差し掛かっている。そんな中で体育教師として彼等E組に直接技術を仕込む立場である烏間は確かな手応えを感じていた。

 優れた運動神経とコンビネーションを活かし、二人がかりで手本通りに仕掛ける磯貝と前原、一見隙だらけで殺る気がないように見えるも、確かに宿る強い悪戯心をもって一撃を狙うカルマ、女子でいえば体操部上がりで予想外の動きを仕掛けてくる岡野、その優れた体格で男子並の間合いと攻撃力を持つ片岡、そしてマンツーマンでの近接格闘指南もはや一ヶ月、ナイフ術という域を超え、掛けた時間の分他の生徒と比べても身のこなしとスピード、破壊力は頭一つ抜けている志御。彼等に対し、烏間は近接攻撃(アタッカー)として高い評価を下していた。

 

「……そうだな」

「そして何よりも殺せんせー、彼こそ俺の思い描く理想の教師像に相応しい。やはり俺でもあれほどに優れた人格者を殺すわけには……」

「何勝手に人の耳元で囁いているんだ、失せろ」

 

 いつものように烏間に追い払われ、いじけながらも大人しく砂場でタージ・マハルを作り始める殺せんせー。烏間はため息を吐き、そして目の前の生徒達に意識を戻した。先程のように真摯に取り組んでくれている生徒達もいるが、逆にまだそのような姿勢を見せていない生徒もいる。寺坂、吉田、村松の不良三人組。彼等は恵まれた体格は持つものの未だ積極性は欠かれている。彼等が真面目に取り組めば、優れた戦力になるだろうと思うと、烏間は少し残念だった。

 そしてその瞬間、首元になんとも言えない悪寒を覚えた烏間は反射的に裏拳でそれを強く弾いた。

 

「……っ、いった……」

「……!すまない、渚君。少し強く防ぎすぎた。大丈夫か?」

「あ、はい。へーきです」

「ははっ、ちゃんと注意しろよなー」

「うう……」

 

 今の気配は彼か、といつものように友達と笑う渚を見て考える。そしてやはり気の所為か?と僅かな疑問を残しつつ他の生徒への指導に戻った烏間。殺せんせーのタージ・マハルの隣で体育座りをして、いつの間にか用意されていたチャイティーをすすりながら「あれが才能ってやつ?」と殺せんせーに問い掛ける志御。「ヌルフフフ、そうかもしれませんねぇ」と殺せんせーはタージ・マハルの周りに堀を作りながら答えた。

 

◇◇◇

 

「おつかれー」

「やっぱ烏間先生すごいわ。全然当たんない」

「隙なしって感じだよね」

「志御、アンタ今日何点よ?」

「多分2くらいだろ」

「いいな〜私にもコツ教えて〜」

「やってもらうか?暗殺八極拳講座」

 

 六限の体育を終え、軽く反復練習しながらも話していたE組女子達。そんな中でおそらくクラス一の烏間のファンガールである倉橋は「そうだ!」と烏間に声を掛けた。

 

「せんせー!放課後皆でお茶とかどう?街の方行ってさ!」

「……そうだな。誘いは嬉しいんだが、あいにくこの後は防衛省の連絡待ちだ。すまないが君達だけで行ってくると良い」

 

 そう言って一人足早に校舎の教員室へと戻っていく烏間。「私生活でも隙なしだね」と誰かがつぶやき、「隙なしっていうよりも私達との間に壁とか距離があるみたいな……」と誰かが付け足した。

 

「厳しいけど優しくて、私達のこと大切にしてくれてるのは分かるんだけど……」

「……うん、それも任務だから、なのかな」

「それは違います」

 

 いつの間にか「殺先生」と書かれた体操服からいつものアカデミックドレスに着替えていた殺せんせーはぬるりと彼女達の背後へ姿を現した。「そうなの?」と振り向きながら倉橋が問い掛けると殺せんせーは頷いた。

 

「確かに烏間先生は防衛省から私を殺すためにこの学校へ送りこまれた工作員のようなものです。ですが、君達の授業へも任務である以上の熱を注いでいます。彼もちゃんと、素晴らしい教師としての矜持があり、熱い血が流れているのです」

 

◇◇◇

 

 烏間はその能力を買われてこの超破壊生物暗殺の任務に送りこまれた。自衛隊の精鋭が集う空挺部隊でなおトップの成績を誇り、教官としても部下に恐れられながらも見事な手腕を発揮し、そして軍服を脱ぎ戦場を離れてからも諜報として目覚ましい成果を上げた。

 だが現状、このE組でそれに見合う成果を出せているかと聞かれれば、疑問符がついた。いや、彼としては十二分な手応えは返ってきている。だが、他所から見ればそれが悠長に映るのも仕方のないことだったのだろう。その結果として、烏間に加えてもう一人、防衛省から人員が呼ばれることになった。

 

「それが今日か……」

 

 旧校舎のグラウンド、その入口で物思いに耽っていた烏間に「よう」と男が声を掛けた。

 

「元気にやってるみたいだな、烏間」

「お前か、鷹岡」

 

 いくつかの大荷物を背負った、烏間よりも大きな体躯を誇る彼の名は鷹岡明。烏間のかつての空挺部隊での同期だった男である。

 そして彼は荷物を下ろすと、まだグラウンドに残っていた生徒達に声を掛けた。

 

「よう皆!俺の名前は鷹岡明!今日から烏間の補佐としてE組で務めさせてもらうことになった!よろしくな!」

 

 「よろしくお願いします」とまばらに返す生徒達。「まあ初対面じゃそうもなるよな」と鷹岡はしゃがみ、置いた荷物を開け始めた。

 

「……!これ……!」

「お菓子だー!」

「すっげ、めっちゃ高いやつじゃん」

 

 その中身は都内の高級スイーツ店のケーキやらエクレア、シュークリームなんかがズラリ。「これ良いんですか?」と生徒が尋ねると鷹岡は「いいぞ、じゃんじゃん食えよな!」と笑顔で答え、そしてその輪に混ざるように自らも腰を下ろす。

 

「あ、モノで釣ってるとは思わないでくれよ。仲良くなるには同じモンを同じ場所で一緒に食うに限るからな!」

「確かに一理あるかも……」

「にしても、えーっと、鷹岡先生?よくこんなに有名店の揃えましたね?」

「ぶっちゃけると俺も砂糖ラブ勢でな。やみつきなんだこういうの」

「なんかかわいー」

「せ、先生も食べて良いんですかね……?」

「しょうがねえな、せっかくだ!殺せんせーもガンガン食っちまえ!もちろんいつか殺すけどな!」

 

 そうしてグラウンドの真ん中。スイーツパーティーと洒落込んだE組と殺せんせーと鷹岡。「なんだか近所の父ちゃんみたいだなー」と誰かが言うと、鷹岡は嬉しそうな顔で「いいなそれ!確かに同じ場所で頑張んだから家族みたいなもんだ!俺が父ちゃんでな!」と生徒達とかなりの勢いで親睦を深めていく。

 そしてそれを眺めていた烏間は、隣の志御に「良いのか?」と尋ねた。

 

「良いのかも何も、甘味に釣られて目が眩む程私は馬鹿じゃないぜ?それにあいつじゃ私の父親とか力不足にも程があるっての」

「……そうか」

「っていうかあいつらしばらくあんな感じっぽいし、また稽古頼んで良いか?烏間先生」

「分かった。少し用があるから先に行っててくれ」

 

 烏間がそう言うと、志御はその言葉通りに裏山の方へ消えていく。そしてそれと入れ替わりに烏間の下へ部下の園川雀が姿を現した。

 

「烏間さん、防衛省から「今後の訓練は鷹岡に一任し、外部からの暗殺者の手引に努めるように」と……」

「……!」

「……正直言えば、生徒達が心配でなりません。鷹岡という人間は、限りなく危険な異常者そのものですから」

 

 烏間は、僅かにその握り拳に力を込めた。




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