浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「っぱ烏間先生に教わるのが一番だな。独学じゃ限界が早え」
そう言って志御は笑った。この1ヶ月で実用段階も見えてきた彼女の格闘術。聞くと、最近は自主トレーニングのメニューも律に相談して作っているのだという。あの後、防衛省として彼女のスペックをデータとしても聞かされた烏間は「それは良い」と頷いた。
「何事も自分一人でやるには限界があるからな」
「仰る通りって訳だ。……じゃあな、烏間先生」
「ああ、気をつけろよ」
そして一通りの訓練、組手を終えて帰路に着いた志御を見送った烏間。そしてそれと入れ替わりに姿を現した殺せんせー。「もうスイーツは十分か」と口を開いた彼に殺せんせーは「ええ、それはもう」ととても満足そうに笑った。
「それにしても鷹岡先生、生徒には大人気のようですねぇ」
「ああ、そのようだな」
「よろしければ私にも彼について少し教えてほしいのですが」
「……分かった。あいつは俺が空挺部隊にいた頃の同期でな、その頃は大して目立たなかったが、教官としては目覚ましい成果を上げていたはずだ。それこそ、俺よりも遥かにな」
「ヌルフフフ、そうであれば才能あふれる教員がまた一人ふえるということです。喜ばしいですねぇ」
「なんだ、俺の話か?」
教室周りを少し見て回ったらしい鷹岡がそんなことを言いながら教員室に入ってくる。「悪い、冗談だ」と軽く謙遜する彼に烏間は「いや、お前の話だ」と答えた。彼は少し得意気に鼻を鳴らした。
「だが烏間。さっきの訓練も見ていて思ったんだが、あれで3ヶ月は物足りないな。軍隊なら1ヶ月でもあのレベルに出来るぞ」
「職業軍人と同じ括りで語るんじゃない。あくまでも学生を我々の事情で暗殺に巻き込んでいるんだ。学業に支障をきたす訳にはいくまい」
「かーっ、甘い、甘すぎるぜ烏間。良いか?地球の未来が懸かってるんだ、そんな呑気なこと言ってらんないだろ!」
そう言って鷹岡はジャージのポケットから何枚かの写真を取り出し、烏間に見せた。そこには教官時代の鷹岡が、鍛え上げられた教え子達と共に笑顔で写っていた。
「教官自ら教え子に体当たりで熱く接する!過酷な訓練も共に乗り越えていけば、その熱量に生徒は必ず応えてくれるさ!」
「……」
「まあいい、お前もいつか分かるさ。だから首洗って待っとけよ、殺せんせー!俺の生徒達が必ずお前を殺してやるからさ!」
そう言って最後に殺せんせーに餌付けして教室を去っていく鷹岡。「ヌルフフフ、随分考えの甘い先生もいたものですねぇ」と甘いお菓子を頬張りながら言う殺せんせーだったが、烏間は敢えてのスルーを敢行した。
「……まあ、そんなことはさておいて。体育に関してはあなた方が譲らないのでおまかせしています。ですから担当の変更などにとやかく言うつもりはありません。ですがあえて
そう言って去っていく殺せんせーを、烏間は黙って見送った。そして一人になった教員室で、彼は少し思考した。
◇◇◇
「というわけで、昨日も言った通り!今日から俺の新しい体育を始めていくぞ!」
翌日、早速の鷹岡の授業ということで生徒達はグラウンドに集められていた。「ちょっと厳しくなるが、頑張ったらまた美味いもん食わせてやるからな!」と彼が言うと、生徒が「それ先生が食べたいだけでしょ?」「だからそんな腹してんだな!」とツッコミを入れる。鷹岡は「バレたか」と腹をつまみながら照れ笑いした。
「それと、俺の授業では掛け声があるぞ!良いか?俺が「1、2、3」って言ったら皆でピースで「ビクトリー!」だ」
「うっわ、古」
「しかもパクリじゃん」
「違う!オマージュだオマージュ!」
すっかりクラスに馴染んだらしい鷹岡に「なんか烏間先生よりフレンドリーで良いよなー」「ちょっと厳しくてもこっちの方が頑張れるかも」なんていうクラスメイトの声。そんな中で志御は一人、仏頂面で頬杖を突いていた。「カルマの奴きっちり逃げやがった」なんて考えていると、すぐ近くに座っていた茅野が「志御さんは鷹岡先生どう?」と尋ねる。
「どうか?あいつが?」
「そう。志御さんはあんまりなのかなーって」
「そうだな、好きか嫌いかで言えば反吐が出る」
「ああいう人間が一番嫌いなんだ、私」と志御はケタケタ笑った。
「……見事だな」
そして校舎から鷹岡達の様子を眺めていた烏間は小さく呟いた。自分よりもずっと早く、鷹岡はこのE組の生徒達に馴染んでいっている。軍隊との区別もきちんとつけているように見える。あれならば生徒達も上手い具合に成長できるだろう。だが、それと同時に烏間の頭をふと暗い感情がよぎった。「俺が間違っていたんだろうか」と。プロとして彼等との間に一線を引いて接するのではなく、もっと鷹岡のように家族の如く親密に接したほうが、そう考えながらもその手は自然と鷹岡の置いていった写真を取っていた。確かに鷹岡とその教え子が写っているそれは家族写真の様にも見えた。だが、烏間はそこに重なっていたもう一枚の悍ましい写真に気がついた。
「……っ?!これは……!」
そこには先程笑顔で鷹岡と写っていた教え子達、その背面が写っていた。見るも無惨な生傷が刻まれており、その手は針金で固く縛られている。だが、それを写す鷹岡ただ一人は笑顔のまま。烏間はその目を大きく見開き、その拳を強く強く握り締めた。それと同時に生徒達の、そして放課後の志御の言葉が脳裏をよぎる。俺が間違っていた?冗談じゃない。生徒達をこんな目に遭わせて堪るものか。
烏間はジャケットを羽織り、グラウンドへ出た。
◇◇◇
「で、これが新しい時間割だ、回してくれ」
そう言って鷹岡は一枚のプリントを配り始めた。「時間割?」と首を傾げていた生徒達だったが、それを見て思わず唖然と口を開く。
「……は?」
「うそ、でしょ……?」
「おいおい……」
「10時間……?」
「午後、9時までって……」
本来であれば一日6コマ、終了時間3時半。だが鷹岡の用意してきた時間割は一日10コマ、終了9時という限りなく生徒の事情、学業さえ無視した代物だった。志御は一瞥だけでそれを握り潰すと「はっ、本性出しやがって」とにわかに目を見開きながら口角を上げた。「理事長にも「地球の危機ならしょうがない」と許可をもらった」、そう語る鷹岡。違う、理事長からすれば「お手並み拝見」みたいなもんだ、志御はそう直感し、そして彼が「そういえば近々E組にお邪魔するかもしれない」と家で語っていたのを思い出した。
そして案の定、生徒達からは声が上がる。「こんなの出来るわけ無いだろ」「成績落ちちゃう」「遊ぶ時間もなくなる」と。そして最前列でそれを主張する前原。鷹岡は彼の頭を掴んで引き寄せると、その腹に膝蹴りを浴びせた。
「何が「出来ない」だ?「出来ない」じゃない「やる」んだよ。言ったろ?俺達は「家族」で俺は「父親」だ。父親の命令を聞かない家族が世界のどこにいる?」
「はっ、こんな出来損ないな父親持った覚えはねえな!」
「良い年して家族ごっこしてんじゃねえよ落ち零れ」といつものように傲岸不遜、大胆不敵に笑う志御。鷹岡は「はっはっは、反抗期の娘にはお仕置きが必要だな」と笑顔でありながらもビキビキと青筋を立てて志御に近づいていく。そしてまた膝蹴りを浴びせようと伸ばした手を志御は鋭く払い除ける。それと同時に「鷹岡」と怒りに満ちた声が響いた。
「俺の生徒にこれ以上手を出すな」
振り向くと、そこには鷹岡以上に怒りの形相に満ちた烏間の姿があった。
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