浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
そして午後。E組はカクリコ町を訪れていた。当然、目的は装備の調達である。しかし、旧校舎からそれなりに近い中では栄えている方のその町は何やら様子がおかしかった。
「……ねえ、ここってこんな町だったっけ?」
「いや、最後来たのは2ヶ月だが、こんな感じじゃなかったぜ」
確かに、それは中々異様な光景だった。何せ町の男達誰も彼もが頭にへんてこなハート型の被り物を付けながらエッサホイサと働いているのである。というか町全体がハートまみれ。「そんなに愛に溢れた町じゃねえだろここ」と志御は毒づくが、現に目の前の景色はピンク色で愛に溢れているとしか形容のしようがない。そして困惑しているE組と烏間、魔王に件のハートの被り物をした男が話しかけた。
「ようこそイリーナ町へ!」
「……え、イリーナ?カクリコじゃなく?」
「そうだよ、ついこの前変わったのさ!」
「これまた急な……何かあったのですか?」
「そうそう!つい先月、この町に女神イリーナ・イェラビッチ様が降臨されてね!そこから名前を頂いたんだ!それから我々は毎日イリーナ様のことを考えながら生活しているんだよ!」
聞けば聞くほど怪しい話である。「『お前等死ぬほど騙されてるぞ』」と志御はメッセージウィンドウで忠告するも、どうやら目には入らないらしい。「どうする?」と生徒達は顔を合わせるが、取り敢えず装備を整えるには問題ないだろうと街に繰り出した。
そしていち早く武器屋を発見した前原と磯貝が軒先に座る店主に声を掛ける。
「すいません、おじさん。この店の武器見せてもらえませんか?」
「武器?なんのことだい、ウチは「イリーナまんじゅう」しかおいておらんぞ」
「え、だって武器屋って看板……ほら、オススメとかないんですか?何か」
「そりゃオススメくらいあるわい」
「ちょっと待っとれ」と店の奥に引っ込む店主。「なんだ、あるんじゃん」と胸を撫で下ろした前原。店主がそれを手に持って戻ってくるまでの安息だった。
「ほれ、何と言ってもウチのオススメ「イリーナまんじゅう」じゃ」
「おいまんじゅうしかねえじゃねえか!」
店主が持って来た箱の中身は、件の女神イリーナのものを象ったらしいたわわな乳房を模した二つのまんじゅう。キャッチコピーは「女神のやわらかさ」。まあなんといってもアレなお土産である。一応特産品らしい。
そして「やっぱなんかおかしくね?」「ああ、明らかにヘンだな」と顔を見合わせる彼等の下へ探索を終えた茅野や渚、神崎、志御なんかが戻ってくる。
「おかしいよこの町!」
「うん、防具屋はイリーナせんべいしか売ってなかった……」
「こっちも。道具屋とか薬屋見に行ったんだけど……」
「イリーナ焼きにイリーナ揚げ。ヤバすぎ。ま、殺せんせーは食べ歩きに忙しいみたいだけどな」
「志御さん!イリーナ天は☆4でお願いします!」
「はいはい」
スッとメッセージウィンドウに記録して魔王の方へぶん投げる志御に「協力してるんだ……」と渚は小さく呟く。しかし誰がどう見ても遊んでるだけに見えた殺せんせーはちゃんと仕事も果たしていた。
「ヌルフフフ、ですが食べ歩きのついでに何やら話を聞けそうな方を見つけましたよ」
「マジで?!」
「はい。今から皆さんで向かいましょうか」
◇◇◇
「良く来たのう、若人よ」
魔王に連れられてE組が訪れたのは旧カクリコ町にして現イリーナ町の町長の家。唯一この町の男でありながらハートの被り物をしていない彼は快くE組を招き入れると家の広間で彼等に語り始めた。
「これは全て魔女の仕業なのじゃ」
「ま、魔女?!」
「うむ。一月前に美しい魔女が街に現れてな、男達に「
「おい、待てよ。ならなんでアンタはかかってないんだよ?」
メッセージウィンドウを掲げながら尋ねる志御。「確かに……」「もしかしてかなりやり手なんじゃ……?」「超すごい魔法使いとか……?」と推測する生徒達に、町長は少しの間を挟んだ後に口を開いた。
「オネエなんじゃ」
漂う沈黙。誰もが無表情。高飛車、傲岸不遜、大胆不敵を地で行く志御も大人しくメッセージウィンドウを抱えて正座している。しかし町長はそれを気にすることなく話を続ける。
「このまま町がイリーナ一色になってしまえばカクリコ町は終わってしまう!どうか旅の若人よ、あの魔女を退治してくれんか?!退治してくれた暁にはこの町に伝わる伝説の装備を譲ろう!」
「伝説の?!」
かくしてE組は魔女の潜むという、町の外れの「誘惑の塔」に向かうことになった。
◇◇◇
「ここが誘惑の塔……!」
「案外高くない……?」
「四階建てだな。流石にこの町の規模じゃ予算にも限界があったんだろ」
そして揃って誘惑の塔に突入したE組。しかしその中、少なくとも一階は伽藍堂であり、一同は肩透かしを食らったように辺りを見回す。そんな一人であった志御は唐突に肩を叩かれた。
「?どうかし……」
そして振り向いた瞬間、ローブで姿を隠した何者かに志御は思いっ切りディープキスを叩き込まれた。「『待って私純潔なんですけど?!』」とメッセージウィンドウで抗議する志御だったが、抵抗虚しく志御はフルセットの舌入りキスを完遂されてしまう。解放された志御は顔を真っ赤にしながらボッと現れたハートの被り物を被った。「成功ね」と志御にキスした女はローブを剥いだ。
「うわぁっ?!志御さん魅了かかった?!」
「待って魅了って女子にも効くの?!」
「は?魅了とか効いてないんだけど?」
「そんなに顔真っ赤にしてたら言い訳できないでしょ志御さん……」
「いやこっち注目しなさいよ!」
そう言ってE組の目を向けさせたのは誘惑の魔女、イリーナ・イェラビッチ。すなわちカクリコ町を襲った悲劇、その黒幕である。凄まじい美貌と抜群のスタイルを持つ彼女はまさしく魔女と言った露出の多い衣装を身にまとっている。どれくらいかと言うと、前原や岡島はひと目見ただけで魅了に引っかかった。
そして彼女は魔法でぐいっと矢田の身体を引き寄せ、「進化した私の魅了を見せてあげるわ」と志御にしたのと同じようにディープキスをぶちかますが、矢田は顔を赤くするだけで一向に魅了にはかからない。「おかしいわね……」とイリーナは志御と矢田の顔を交互に見た。
「……あんた男?」
「いや違うに決まってんじゃん。こんな美少女捕まえといてさ」
「……まあ良いわ」
いつもの口調が少し崩れている志御相手に思考を放棄したイリーナは烏間と魔王に目をつけた。これをオトせば良い駒になる、と。結論から言えば超堅物の烏間は無理だったが、おっぱい星人の魔王は谷間を強調するだけで一発KOだった。「サイテー!」「それでも教師か!」と生徒達から抗議の声が上がった。
そして志御以外の女子生徒を魅了の実験材料にするために魔法の檻で捕らえると、イリーナはその鍵を谷間に挟んで一階を去って階段を登っていく。
「待て、彼女達を解放しろ魔女!」
「ヌルフフフ、イリーナ様の邪魔はさせませんよ」
「うわ魅了の効き強っ?!」
イリーナを討とうと抜剣した烏間だったが、魅了によって下僕にされた魔王に阻まれた。志御は従順な部下としてイリーナの後をお供していて、前原や岡島は魔王とともにE組を食い止めるために残されている。
「こっちは俺がなんとかする!君達は魔女を追え!」
烏間に送り出され、E組は魔女を追いかけた。
◇◇◇
「うわ、魅了された手下だらけだ……」
「なんかアイドルの親衛隊みたい……」
誘惑の塔。そこではイリーナに仕えたい親衛隊の隊員によって日夜熾烈な争いが繰り広げられていた。
「イリーナ様にお仕えしたいかー!!」
「うおおおおお!!」
「イリーナ様をそばでお守りしたいかー!!」
「うおおおおお!!」
爆発的な熱気、掛け声とともに腕を突き上げる親衛隊達。その隣を通り過ぎようとしたE組はそこに見慣れた姿を見つけてしまった。
「ぬるおおおおお!!」
「おー!!」
「いやなんで殺せんせーと志御さんが?!」
「くっそ、もう烏間先生が抜かれたか……!」
そして親衛隊にもたらされる「塔への侵入者を捕らえればイリーナのそばで働ける」という情報。ざわめきと共にE組への注目度は一気に高まった。
「おい、あいつらだぞ!」
「捕まえろ!」
「待て!」
「俺が先だ!」
こっそりと二階を通過しようとしていたE組。しかし見つかってしまった彼等は「うわこっちきた?!」と逃げるもその背中を法被を纏った親衛隊が追撃する。そして屈強な男達が走り出す中でその先陣を切る少女一人。
「逃がさないけど?」
「うわ志御さんだ?!」
「魅了効きすぎだろ?!」
「っていうかそれ武器になるの?!」
まるで大剣のように「『イリーナ様にファーストキスの責任取らせる』」と書かれたメッセージウィンドウを振り回して突撃する志御。元聖騎士という経歴に違わないその戦闘能力に一瞬で数人が脱落する。その上彼女以外にも迫ってくる親衛隊の数々。それも「自分がどれだけイリーナ様が大好きか自慢」みたいなことをしながらのためモチベーションもMAXである。
「俺はイリーナ様が好きすぎてイリーナ様のお名前を剃り込みまでしたんだからな!」
「甘い、俺はイリーナ様のお名前を背中に彫り込んだぜ!」
「ヌルフフフ、皆さん甘々ですねぇ」
親衛隊の中でイキり始めた魔王。志御を始めとする最前線で暴れる一部を除き、親衛隊員達はその発言にぐいっと引き付けられる。そして魔王は「私のローブをよーく見てみて下さい」と周囲に告げた。
「な、このローブ、ただ真っ黒なだけかと思いきや……!」
「す、全てイリーナ様のお名前で縫われているだと……?!」
「なんと素晴らしい!」
「ヌルフフフ、少々すばやさには自信があるものでして」
そして親衛隊が魔王に気を取られている内に階段を駆け上がるE組。何人かを捕まえて「『ふりだしに戻る!』」させながら志御が彼等の後を追いかけようとしたところで、親衛隊の連絡役が志御に耳打ちする。
「え、出世?上行っていいの?」
彼女は少し軽い足取りで階段を登った。
◇◇◇
誘惑の塔三階。ここまで来るとだいぶ親衛隊の数も減ってくるが、その分少数精鋭といったところで、屈強な男達が侵入者に備えて鍛錬を積んでいるところだった。そしてその中にはさも当然かのように志御と魔王も混ざっている。「やっぱ強さ上がってる感じあるねー」とE組は様子をうかがいながら少しづつ移動していた。
「侵入者が来る前にお前等も腹ごしらえしちまえよなー」
「ああ、分かってるぜ。……にしても最高だな、イリーナ様が捨てたハイヒールを丼にして食う飯は!」
(変態度合いも上がってるじゃねえか!!)
そんな心の中でのツッコミが揃いながらも、とうとう最上階への階段が見えてきたあたりでE組は魔王が何かやっていることに気がついた。どうせ変なことなんだろうな、と確信があった。
「というわけでイリーナ様のハイヒールを天ぷらにしてみました」
「何をしてるんだお前は?!」
「いえいえ、これにはちゃんとした理由が。志御さん、お願いします」
「おっけー、先生」
何も言うことなく、その横を通り過ぎてE組は最上階へ向かった。
◇◇◇
そして誘惑の塔最上階。そこにはハート型のオブジェをバックに、男達を玉座代わりに君臨するイリーナと、その傍らに控えている志御と魔王の姿があった。どうやら超スピードで出世を重ねたらしい。
「はあっ?!なんであいつらがここまで来てるわけ?!」
イリーナはE組を見つけるなり口を開いた。その視線は隣の志御に向けられたが、「『あいつですよあいつ』」というメッセージウィンドウと共に彼女は魔王の方を指差した。「だいぶキャラ崩壊始まってんな」とE組は魅了の力に苦笑いした。そしてイリーナは鞭を構えると魔王をその場に跪かせた。
「使い物にならないなら「おしおき」ね」
そしてピシィッと音を鳴らしながら、鞭で魔王を折檻しようとするイリーナ。しかし、その目論見は簡単に打ち崩された。
「はぁ?!」
「はぁっ?!!」
「ちょっと、アンタ何避けてんのよ!」
「すいません、すばやさのバグで……」
「〜〜っ!いいわ。志御、あんた全員ここに呼んできなさい!」
そうメッセージウィンドウを掲げて最上階を離れた志御。それと同時にイリーナはE組に向けて魅了の魔法を放つ。運良く躱した渚とカルマ以外が魅了にかかり、ハートの被り物が現れると同時にイリーナの手元へちっちゃなハートが飛んでいく。それを見て、カルマは「もしかしてさ」と口を開いた。
「あんたの持ってるハート奪えば魅了解けんじゃないの?」
「?!べ、別にそんなわけないでしょ?!別にこの鍵がないと開かないところにしまってるとかじゃないし?!」
「渚君、あいつチョロくね?」
「……そうだね」
「そこ!聞こえてるわよ!……取り敢えずあんたこれ隠してきなさい!マッハで!」
鍵を渡されると、文字通りにマッハでどこかへ飛んでいく魔王。そして志御の増援もそろそろ来るだろうということもあってなんとか余裕を取り戻したイリーナは「いいわガキ共」とまさしく魔女のような笑みを浮かべた。
「ここまで来ちゃった自分を恨むことね。もう生きて帰れないわよ。……あんた達!」
玉座代わりにされていた屈強な男達にイリーナが命令すると、彼等はその命令のままに渚とカルマを捕らえ、そして最上階の窓から彼等を落とそうと外へ突き出した。渚とカルマは首根っこを掴む腕に命がかかっていた。
「じゃあね、バカなガキ共」
そんなイリーナの言葉を合図にしてその手は離された。そして重力に従って落下していく二人の身体。しかし、彼等はすぐにマッハで救出されることになった。「やれやれ、危ないところでした」、そんな言葉とともに最上階へ二人とともに舞い戻った魔王。「な、なんで……?!魅了されてたはずじゃ……?!」と顔を真っ青にするイリーナにハートの被り物を外しながら、生徒を殺されかけたことで真っ黒な怒りの表情で魔王は言い放つ。
「魔王に
「ま、魔王?!何言ってんのよ急に!……そ、そうよ!志御!さっさとしなさい!」
「無駄だ」
まだ足掻こうとするイリーナにそう言い放ったのは解放されたE組の生徒達を連れた烏間だった。そしてその傍らには、同じくハートの被り物を外した志御の姿。
「な、なんで人質の女達が……?!魔法の檻よ?!」
「知るか、そんなもの叩き切った」
次から次へと発生する想定外に「あんたまさか裏切ったの?!」とイリーナは志御に目を向ける。「まあな」といつもの調子を取り戻した志御は不敵な笑みで答えた。
「私が捕らえた奴にはこっそりメッセージウィンドウを渡しといた。烏間先生宛に「『今のうちに女子組解放しとけ』」ってな。そんでさっき部屋の外に出た後殺せんせーに鍵を渡されたから、急遽それを探しに行ってたってわけだ」
「完璧だろ?」と最高に見下した笑みで笑う志御に「先生の作戦ですけどね」と魔王は付け足す。それを否定するでも肯定するでもなく、志御はイリーナへ「ちなみに魅了はちゃんとかかったから安心しろ?ただ私が
「んじゃ、あとはお二方の独壇場だな」
そう言って志御はクラスメイトの中に引っ込んだ。代わりにイリーナの目の前にあったのは最大級の怒りを放つ魔王と烏間。彼は生徒達に「先に塔を下りておけ」と伝える。そしてその通りに生徒達は最上階を出て行った。
「さて、どのように「おしおき」してあげましょうか」
「生徒達に手を出した罪、覚悟はいいなイリーナ?」
そして、しばらくイリーナの悲鳴が響き渡っていた。
◇◇◇
「……叫んでたな」
「……叫んでたね」
E組が塔を出てから、イリーナの叫びと魔王の「おしおき」のものらしい「ヌルヌル」という効果音は数分続いていた。そして魔王とともに出てきたイリーナは「ごめんなさい……もう、二度と悪いことはいたしません……」と質の良いマッサージ、あるいはサウナでととのった後のように顔を赤くし、身体をビクつかせながらE組に謝罪した。それを見て、岡島はまた魅了にかかった。「『馬鹿がよ』」と志御は黙ってメッセージウィンドウを出した。
「んじゃ、後は町長から伝説の装備もらうだけか」
「そうだね、早く行こう」
そしてE組が再び町長の家へ向かうと、彼は「おお!よくぞあの魔女を!」と盛大に喜び、そして宝箱を持って来た。
「これが伝説の勇者が苦しむ人々を笑顔をするために使ったと言われる伝説の装備じゃ」
その言葉で期待がさらに上がる中、魔王が一番嬉々として真っ先に宝箱を開けた。その中に入っていたのはハゲカツラ、鼻メガネ、そして付け腹筋。要はパーティーグッズである。E組は盛大にズッコケた。
高評価とか感想よろしくお願いします!!
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日間乗れそうなので