浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
寺坂竜馬は虫の居所が悪かった。君臨することに失敗したからである。
彼の目から見ても、E組というのは想像の範疇を大きく越えたクラスだった。成績最下層の掃き溜めなんて言われながらも中間テストでは順位を大きく上げ、上位5位以内にも二人送り込んだ。球技大会では男子は見事野球部を打ち倒し、女子は女子バスケットボール部を蹂躙した。迫害されているはずの環境でさえ、防衛省のエリート軍人とプロの暗殺者、そして殺せんせーによる行き届いた教育に整備され続ける設備。挙句の果てには専用のプールまで出来てしまう始末。
それだけが揃えばモチベーションの上がらない生徒なんて殆どおらず、落ちこぼれであるはずのE組は酷く活気に溢れたクラスと成り果てていた。それが、彼にとっては本当に都合が悪かったのだ。向上心を持った人間を支配できるガキ大将なんぞ、存在しないのである。
「おい皆!プールが大変なことになってんぞ?!」
そう言って教室に駆け込んでくる岡島。寺坂はニヤリとほくそ笑んだ。そして「ほら、見ろよ!」と教室を再び飛び出す彼の後を追いかけるE組。気がつけば常に胸元のポケットの中のスマホに律がいる志御もその後を追って小走りする。
「……っ、これ、めちゃくちゃじゃねえか……」
「一体誰が……」
「おいビッチ先生の悩殺セクシー水着お披露目が失敗したぞ?!」
騒ぎ立てる生徒達。そこには破壊の限りを尽くされたプールの姿があった。粉々になったビーチベッドにブイ、捨てられたゴミ、垂れ流された薬品。遅れてやってきた寺坂とその取り巻き、村松と吉田はそれを見て木陰からニヤニヤと笑っていたが、一切脈絡なく、ぐるっと急に回った志御の首。その薄紫の瞳が突き刺したところで彼等はそこを離れた。
「志御さん、犯人について調べますか?」
「いや良い。答え合わせなんぞ下らねえからな」
「そうです、志御さん。犯人探しなんてしなくても、どうせ先生にかかれば一瞬で直せますから」
そう言ってマッハ20でゴミを取り除き、ビーチベッドやブイを作り直してあっという間に全てを元通りにしてしまう殺せんせー。「それでは皆さん、着替えてプールの授業を始めますよ!」という殺せんせーの言葉に生徒達は「はーい!」と元気よく答えた。その様子に、寺坂は酷く苛立って舌打ちした。「こいつがいなければ、俺はまだ上にいられたはずなのに」と。
◇◇◇
「いやあ、持つべきものはマッハ20の担任だねー」
教室でいつものように男子を追い出した女子組。そんなことを言った中村に周りも「ほんとほんと」と同意する。
「でもさ、絶対あれ犯人寺坂達じゃん!殺せんせーもよく止めるよねー」
「まあ、何で雰囲気悪くなるか分からないしさ。ね、志御?」
「そらそうだ。気に入らないなら殺せんせーブチ殺せば良いのに、そんな勇気もねえんだろうなアイツ」
「うわ、ディスるね〜志御さん」
「事実だろ。誰でも見りゃ分かる」
そうこうしている内に着替え終えた彼女達は意気揚々とプールに繰り出していった。
「志御、最近ずっと律と一緒だね?」
「言うな、自覚はあんだ」
「私も志御さんにご一緒できて嬉しいです!」
◇◇◇
「なあ、寺坂。そろそろこういうの止めねーか?」
セミの騒がしく泣く暑い木陰。授業をバックレた寺坂に村松は話を切り出した。
「お前に乗ってプール壊したりもしたけどよ、あいつに効果とか全く無いじゃん。しかもクラスの奴と距離置いても俺等にメリットとか無いだろ?だから……」
「……おい、お前なんだその紙?」
話している最中、村松のポケットからはみ出した紙に気がついた寺坂は強引に話を遮ってそれを指摘した。出てきたのは模試の成績表。「まさかテメエ……!」と寺坂の眉が釣り上がっていく。
「ああ、あのタコの「模試直前放課後ヌルヌル強化学習」のおかげだぜ……!」
「お前、三人で放課後ヌルヌルはバックレようって言っただろ?!何抜け駆けしてんだよ?!」
「いや、ヌルヌルはクラスの奴も大体いたし、ヌルヌルするのとヌルヌルしないのじゃもうヌルヌルする以外考えらんないっていうか……」
「ヌルヌルうるせえんだよ!」
そう言って寺坂は村松を突き飛ばし、近くの木にその身体が叩きつけられる。そして「裏切り者が」と吐き捨てて彼は村松を置いて不機嫌極まりなく教室へ戻った。
「うお、すっげー!!こんなクオリティ中々ねえぞ!!」
そこには、大興奮の吉田の姿があった。その前にはさっきの廃材を活かして作られた模型の木製バイクに跨る殺せんせー。二人は楽しげに話している。それは、更に寺坂の神経を逆撫でした。
「……おい」
「あ、寺坂」
「何してんだよ、このタコと」
「いやあ、実はこの前互いにバイク趣味だって知ってさ。話が盛り上がっちまって。ほら、ウチの学校中々いないだろ?そういう趣味」
「ヌルフフフ、先生はこれでも漢の中の漢。こんなロマン溢れる趣味を見逃すわけ無いでしょう。にしても本物は時速300kmですか、一度は先生も本物に乗ってみたいですねぇ」
そんなことを言った殺せんせーに吉田が「それ抱えて飛んだ方が速えだろ」とツッコむと、クラスから「わっはっは」と笑い声が上がる。それがどうしようもなく面白くなくて、寺坂は目の前の模型を思い切り蹴り飛ばした。
「にゅやぁぁッッ?!!」
「あ、おい!何してんだよ寺坂?!こんな凄え模型を……!」
「謝りなよ!!漢の中の漢の殺せんせーが泣いてんじゃん!」
「はっ、虫みてえにうるせえ奴らがよ」
「ならお望み通りに駆除してやるよ!」と寺坂は自分の机から取り出したスプレー缶を床に叩きつけた。それは叩きつけられた瞬間、中身を霧の如くブチ撒け始めた。
「うわっ?!」
「何これ?!」
「口塞げ!」
「いや、良い」
席に座ってそれを眺めていた志御は口を開く。「どうせ偽だろ」と断じた彼女に寺坂は食って掛かった。
「おい、テメエ誰にそんな口聞いてんだ?」
「お前。まさかその空っぽな頭で私相手に戦うつもり?力不足だな、降りろよ。人を害する勇気も才能も無い小物に私の相手は荷が勝ち過ぎるぜ?」
そう言ってケタケタと笑う志御。1に対して10で嘲笑う彼女の言葉に寺坂は「チッ」と舌打ちだけを返した。
「つーかきめえんだよ!怪物も、そんな怪物と仲良しこよしのお前等もな!」
「へえ、じゃあ殺せばいいじゃん」
そう言って彼を鼻で笑ったカルマ。「何だお前」とズカズカ文句やら喧嘩言葉やらを吐きながら歩いてくる寺坂の口を、カルマは腕が届く範囲に入った瞬間塞いだ。
「駄目だよ寺坂、ケンカは口より手でやらないと。……ああ、ごめん。たった今志御さんにボコボコにされたばっかりだったね。その図体は木偶の坊か」
口を塞いだまま目の前で煽るカルマ。寺坂は無理やりその手を払い、ただ一人で教室を出て行った。
「志御さん、今のスプレーの成分を分析した結果、対先生物質が確認されました」
「……了解」
じゃああの辺か、と志御は律からの情報を受けて頬杖を突いた。
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