浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
寺坂は無気力であった。E組にもたらされた数々の非日常。超音速の化け物による地球の危機、暗殺の為の日々の鍛錬、そして落ちこぼれというレッテルからの脱出。そのいずれもが彼にとってはどうでも良かった。寺坂はただ、適当に楽をして、その日その日をやり過ごせればいいだけだったのだ。日々楽しげに暗殺に励むクラスメイトも、彼等を鍛え上げる烏間やイリーナ、そして
故に、彼はE組と殺せんせーをシロに売った。プールを破壊して薬剤を混入させ、教室にも同様の薬剤を散布する。代償として得たのは端金だったが、彼にとっては殺せんせーを排除してもらえる上に小遣いまで稼げると、大層都合が良かった。
イトナは怠惰な彼を「弱い」と断じ、寺坂はそれに腹を立てるも手を出すことは出来なかった。殴ってはいけないという理性ではない。勝てないと分かりきっている諦観、自分は強者の側ではないという深層心理。彼は、そんな弱い自分を守ることで必死だった。事件の日の、早朝のことだった。
◇◇◇
「ぐすっ……ぐすっ……」
「へえ、案外ビッチ先生も弁当なんだな」
昼休み。珍しく生徒達に誘われて一緒にご飯を食べるイリーナ。くっつけた机を志御と倉橋、矢田が一緒に囲んでいる。
「当然でしょ。料理も立派な暗殺のスキルなんだから。あんた達も将来外食ばっかじゃ駄目になるわよ」
「わ、ビッチ先生からそんなこと聞くと思わなかった〜」
「……ぐすっ……ぐすっ……ぐすっ……」
「あんた達私のこと舐め過ぎじゃない?この前も……」
「ぐすっ……ぐすっ……ぐすっ……ぐすっ……」
「うっさいわねタコ!!何泣いてんのよ?!」
教室に響いている鳴き声。イリーナはさっきから無意味に涙を流し続けている殺せんせーに抗議するが、殺せんせーは「いえ、鼻水です」とその言葉を訂正する。確かによく見ると、涙に見えていたそのドロドロとした液体は目の横の小さい穴から流れていた。殺せんせー曰く「鼻である」というその事実にイリーナは「まぎらわしい!」とツッコんだ。
「にしても昨日から調子がおかしいですねぇ……夏風邪でも引きましたかねぇ……」
「かかんのかよ風邪」
「そこ人間と一緒なんだー?」
「失礼な!先生は立派な人間です!」と殺せんせーが声を上げたところで教室の扉がガララッと開いた。寺坂が教室に姿を現したのだ。そのシャツは昨日のスプレーの匂いがまだ残っている。殺せんせーは「今日は休んでしまったのかと心配でした!!」とさっき以上に鼻水を垂れ流しながら思いっ切り彼を抱きしめた。ぬちょぬちょとその粘液によって汁まみれになっていく寺坂。彼は殺せんせーのネクタイでその粘液を拭き取ると、宣戦布告した。
「おいタコ、放課後プールへ来い。そろそろ本気でブチ殺してやるからよ」
そういえば片岡が言ってた。殺せんせーは水が苦手らしい。志御はそれを思い出した。そして、彼女は思った。ああ、裏があるな、と。そして寺坂は生徒達の方へ振り向くと声を張った。
「てめーらも手伝え!俺がこいつブチ殺したらおこぼれやるからよ!」
「……寺坂。今まで俺等の暗殺には全く協力しなかった癖にいきなりお前の都合で「暗殺やります」って言ってみんながついてくると思うか?」
「ケッ、別に良いぜ。なら俺が100億総取りするだけだからな」
そう言って再び教室を去っていく寺坂。取り巻きだった村松や吉田も明確に反感を示し、クラス全体に反寺坂的雰囲気が漂う中で殺せんせーだけは「皆で一緒に暗殺して寺坂君とも仲直りしましょうよぉ」と教室を粘液まみれにしながらE組を勧誘する。足を取られたE組はしぶしぶそれに同意した。
「で、志御さん行くの?」
「行くわけねえだろ」
話しかけたカルマに志御は即答した。
「これ、明らかに茶番だぜ?アイツにそんな気力とかあるわけねえしな」
「茶番に付き合う道理なんざ私には無いぜ」とケタケタ笑う志御。カルマも「まあ十中八九ロクでもない話だよねー」とそれに同意した。「道具は道具だけじゃ何も出来ねえよ」と志御は言い切った。
◇◇◇
「よーし、そうだ!散らばって潜っとけ!」
ピストル片手に王様気取りでプールサイドから指示を出す寺坂。その姿はまさしく暴君、1年2年の頃と同じ学年中の嫌われ者。殺せんせーに泣き落とされてしょうがなくやってきたものの、やっぱり降りれば良かったと生徒達は僅かに後悔する。結局この場にいないのは志御とカルマの二人。
「私は殺したいから殺すんだ。金で動く程「浅野志御」は安くないぜ?」
「俺もつまんなそうだしパス。殺せると良いね、寺坂」
「……チッ」
直接の誘いもそのように蹴って、カルマはいつものように山で昼寝を、志御は放課後に使っている山中の訓練場で自主練に励んでいた。自由人であり、戦闘力も頭脳もE組トップクラスの二人だからこその選択。生徒達はひとまず目の前の暗殺に意識を戻した。
「なるほど、先生を水に落としてめった刺しにする作戦ですか」
訪れた殺せんせーは一瞥して言った。「まあ、ピストル一本じゃ先生はどうにもなりませんがねぇ」とニヤニヤ笑う殺せんせーに寺坂はもう一度手元の銃を見た。実はそのピストルは銃ではなく、寺坂がシロ達へ合図を送るための発信機。この引き金を引けばイトナが寺坂の下へ飛んできて、殺せんせーを突き落とす、寺坂はそう聞いていた。
「……覚悟は良いな?モンスター」
「ええ。鼻水も止まりましたしね」
「ずっとお前が嫌いだった。だからここで消してやるよ」
「ええ、そうだと思っていました。ですから、この暗殺が終わったら二人で話しましょう」
「殺せない」と分かりきっているかのような殺せんせーの言葉に寺坂はますます苛立っていく。舐めやがって、と寺坂の頭に血が昇り、彼は、来い、イトナ、と力を込めて引き金を引いた。発信機は正常に作動し、プールの一部が吹き飛んだ。
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