浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第41話 期末の時間

 期末テスト。進学校である椚ヶ丘中学校における一大イベントである。成績が物を言うこの学校においてE組が落ちこぼれから這い上がるためには、この期末試験を乗り越えることこそ至上命題、すなわちこの一学期の総決算となる決戦の地である。

 

「ヌルフフフ、皆さんは中間試験の時と比べて格段に成長しました。きっとこの壁も越えてくれると信じています。今回も出血大サービスで分身していきますよ」

「せんせー!今回も皆50位以内を目標にするのー?」

 

 朝のホームルーム。大量の分身を出しながらも教壇に立ち、前回の中間テストの時のようにその丸くて黄色い頭にハチマキを巻いて話している殺せんせーに倉橋が手を挙げて尋ねた。「いい質問です」と殺せんせーはいつものようにニヤリと歯を三日月型に見せて笑った。

 

「中間テストのことで先生も少し反省しました。君達にも一人一人違った個性があるんですから、それぞれに合った目標を立てなければと」

「へえ、良い心掛けじゃん」

「はい。しかも暗殺に役立つ賞品付きです」

「賞品?あ、武器の強化とかしてくれんのか?」

「ヌルフフフ、先生そういう武器商人みたいなのにも憧れますがあいにく今回はそういうのではありません。でも暗殺の大チャンスには違いありませんよ」

 

 そう言って殺せんせーはぬるりと一丁のハンドガンを取り出す。そして「前シロさんが言っていましたから覚えている人もいるかも知れません」とその銃口を触手に向け、引き金に触手を掛ける。

 

「先生、触手を失うと性能が下がります」

「?!」

 

 そしてためらいなく引き金を引いた殺せんせー。生徒達が目を見開く中、殺せんせーは「ほら、もう如実に」と分身の方を指し示した。

 

「ご覧の通り、一本減っただけで分身が維持しきれずに子どもの分身が混ざってしまいました」

「分身ってそういう弱体化なの?!」

「数を減らせよ数を」

「ではもう一本減らしてみましょうか」

 

 そう言ってまた引き金を引く殺せんせー。ぶちゅんと触手が弾け飛ぶと同時にさらに分身に占める子どもの割合が増えていき、従来の分身、親分身が育ち盛りの子ども分身を尻目に家計のやりくりに苦しみ始める。「切なくなってきたな……」「これ分身なんだよね……?」と困惑する生徒達。「さらに行ってみましょう」ともう一本殺せんせーが吹き飛ばすと、父親分身が蒸発し、母親分身は女手一つで子ども分身を養わなければいけなくなってしまう、というところで殺せんせー分身物語は幕を下ろした。「重すぎる」と至極当然のツッコミが入った。

 

「とまあ、こんな感じで先生は触手を失う度に結構な性能を失います。計算してみると、一本につき先生が失う運動性能はおおよそ20%!簡単に言えば、一本失った状態では先生はマッハ16程度しか出せなくなってしまいます」

「マッハ16程度ってここ以外じゃ一生聞かねえだろうな」

「というわけで、ここからが本題です」

 

 にゅるんと触手を再生させて言う殺せんせーに「本題?」と生徒は首を傾げる。「はい」と殺せんせーは頷いた。

 

「皆さんには一人一人違う、素晴らしい才能が宿っています。先生は皆さんの暗殺対象(ターゲット)として是非ともそれを活用して殺してほしい。というわけでお待ちかねの報酬ですが、もし一つの教科、あるいは総合順位で学年1位を取ったなら先生の触手を一本破壊する権利を差し上げます!」

「触手を……!」

「これがどれだけ大きなチャンスかお分かりですね?もし各教科と総合、全てで1位を取ったのならば破壊できる先生の触手は6本。性能にしておおよそ74%の低下です。皆さんの頑張り次第でぐぐっと先生暗殺に近づきますよ」

 

 その言葉に、生徒達の目に殺る気が灯る。このE組というクラスは個性の強い生徒が集まっているだけあって一教科のみであれば上位陣に匹敵する生徒も少なくない。そんな中で殺せんせーは「ですがそれほど甘い話でもありません」と口を開いた。

 

「そうでしょう?志御さん」

「まあな」

「志御さん、何か知ってるの?」

「知ってるも何も、兄さんが動き出したからな」

「志御さんのお兄さん、って……」

「……!学年トップの浅野学秀……!」

「それだけじゃねえ」

 

 続けて口を開く杉野。「本校舎の友達から聞いた話だけどな」と前置きして彼は話し出す。

 

「その浅野学秀を筆頭とする「五英傑」がA組を集めて勉強会を開いてるらしい。こりゃ一筋縄じゃいかないぞ」

 

 椚ヶ丘中学校3年ではE組が激しく差別されているというのは周知の通りだが、もう一つ、他とは一線を画すクラスがある。それこそが3年A組。学年の成績優秀者を選りすぐった特別進学クラスである。

 そして「五英傑」こそその中核を為す、椚ヶ丘中学校が誇る天才達。中間テスト総合7位、性悪かつ捻くれ者だがロサンゼルス仕込みの語学力は本物、生徒会議長、瀬尾智也。中間テスト総合6位、多様な理科の教科書計1000ページの一言一句を記憶する暗記の鬼、生物部部長、小山夏彦。中間テスト総合5位、人文系コンクールで圧倒的な成績を誇る甘いマスクの詠み手、生徒会書記、榊原蓮。中間テスト総合2位、教師顔負けの圧倒的社会知識と毒舌のマスコミ志望、放送部部長、荒木鉄平。そして中間テスト、全国模試共に1位、絶対支配者浅野學峯の遺伝子と教えを受け継いだ後継者、生徒会長、浅野学秀。

 彼らこそ、E組を阻む期末テストにおける鉄壁、牙城である。

 

◇◇◇

 

 浅野学秀は、教師に開放させた会議室で教師の真似事に励んでいた。いや、その内容や分かり易さ、指導力は並の教師を凌駕していたが、それでも真似事の域に留まるのは彼が最も長く見てきた教師が浅野學峯という怪物であるからに他ならない。このA組の学力強化についても、理事長からの意向によるものに過ぎなかった。

 そして2時間に渡る勉強会を終え、去っていく生徒達。そんな中で榊原が学秀に声を掛ける。周りの大半を手下や道具としか見ていない彼にとって、榊原は最も友人に近いと言える人物だった。

 

「何だ?榊原」

「いや、浅野がこんなことをするのは珍しいと思ってね。また理事長と何かあったのか?」

「ああ。「E組の50位入りを阻止しろ」との仰せだ」

「E組……ああ、そういえば浅野の妹も今E組だったな。何か関係でもあるのか?」

「いや、理事長は身内を気にするほど甘い人間じゃない。……だが、言われずとも志御は僕の手でこちら側に引き戻してみせる。ただ一人の、血を分けた兄としてな」

「そうか。……浅野にシスコンの気があるとは思わなかったな」

「どうだかな」

 

 少しぶっきらぼうに答え、学秀は会議室を去った。




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