浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第43話 兄妹の時間

「E組と賭けたんだってな。本校舎でも広まってるよ」

 

 翌日、放課後の図書館での顛末を耳にした学秀は五英傑と話していた。

 

「悪い、下らんとは分かってるんだがE組が随分と突っかかってくるんでな……」

「いや、良い。「五教科でより多く学年1位を取った方が負けた方にどんな言う事でも聞かせられる」、A組(僕等)の強さを見せつける機会じゃないか。それに、適度な緊張感は学習意欲への良いスパイスになる」

 

 そう答えた学秀に、自分等に僅かな身勝手さを感じていた五英傑は少し胸を撫で下ろした。そして学秀はもう少し考えて彼等に一つ尋ねた。

 

「昨日、図書館に志御はいたか?」

「浅野の妹か?ああ、いたさ。散々煽られたよ。似てるのは見た目だけで中身はとんだ悪魔だな」

「……そうだな。愚妹だ」

 

 口ではそのように荒木に同意しながらも、学秀は考える。彼等兄妹は多くの技能を「支配」の手段として教えられた。その中にはまさしく「勝負」であり「支配」の手段としてのギャンブルも。そしてその域において抜けた才能を持つのは志御であった。学秀はそのことを思い、「今回こそは僕の勝ちだ」と僅かに勝ち誇った。

 

「勝負が済んだ後にとやかく言われても困る。命令は僕に任せてもらえないか」

「ああ、分かった。だがどうするんだ?」

「取り敢えず下せる命令は1つだけだ。それを前提としよう」

「1つだけ?君ともあろう男が負けるリスクでも考えたのか、浅野君?」

「まさか。1つで十分というだけだ」

 

 そう言うと学秀は頬杖を突いたままパソコンを開き、左手一本でキーボードを、それこそ反動でキーが外れそうなほどの凄まじい勢いで叩く。そして何十秒かした後に軽やかにエンターキーを叩くと彼はパソコンをくるりと180度回した。

 

「これは……」

「「勝者と敗者の協定」……?」

「ああ。僕達からの命令は1つ。「この協定書に同意すること」、ただそれだけだ」

 

 学秀が見せた画面には全50項に渡ってE組がA組に対して従属の義務を負うという文言が並んでいた。書いてあることを簡単に要約すれば、E組がA組の奴隷になるという契約。これを一瞬で思いついた学秀に五英傑は「全く、恐ろしい男だな君は……」と僅かな畏怖の念と共に反応するが、彼は「この程度は生徒の悪ふざけで収まる範囲さ。民法も一通り収めてるけど、これじゃホワイトもホワイト、純白だ」と悪い笑顔で答える。だが、その真の目的は項目内に紛れ込ませた「E組の隠し事を禁ずる」という項目。理事長から聞き出せないのならE組から直接聞き出せば良いという親譲りの合理さが為す業だった。志御はこれを適応する前にA組に転入させることで解決するというところまで織り込み済みである。

 そして彼は教室の生徒の方へ振り返り、クラス全体に告げる。

 

「良いか、皆。これを通して伝えたいのはE組への軽蔑じゃない。僕達A組は皆の規範だ。どんな相手にも真剣に、全力で向かい合ってこの学校を照らす!そんな姿勢をE組にみせつけてやろうじゃないか!」

「おお!」

「おー!」

「やってやろうぜ!」

 

 椚ヶ丘中学校3-Aが誇る文字通りの絶対的なA(エース)に、教室からは、まとまった歓声があがった。

 

◇◇◇

 

「みたいなやり取りやってるんだろうな、兄さん達は」

「想像力豊かだね志御さん……」

「まあ私も大体民法は分かるから安心しろ。まあそもそも負けないしな」

 

 そう言って志御はケタケタ笑う。「天才ブックメーカー」を自称する彼女のギャンブルの腕は皆の知るところ、今回のA組との賭けも彼女が中心になっていた。

 

「んで、どうする?こっちも契約書作る?学校ブッ壊すくらいのやつなら普通にイケるぜ?私兄さんほど優しくないしな」

「志御さん、役立ちそうな裁判の判例を見つけました」

「いや、流石にそこまでは良いよ……」

「っていうか律もすっかり悪戯(そっち)側だね……」

 

 「ま、命令はお前等に任せるぜ」と手をひらひらさせながら言う志御。クラスからは「あ、私学食奪いたいかも〜!」とか「せっかくだし冷房止めてやろうぜ」とか「様付けで呼ばせたいな」とか色々と意見があがる。そんな中で椚ヶ丘学園のパンフレット片手に姿を現した殺せんせー。「先生良いもの見つけちゃいました」と殺せんせーは生徒達にパンフレットを開いてみせた。

 

「せっかくですし、「これを寄越せ」なんて大胆に命令しちゃうのはいかがですか?」

「おお……!」

「悪くないかも……!」

「私としても文句無いぜ。ローリスクハイリターンの理想的勝負だ」

「ヌルフフフ、君達は一度どん底を経験した上で、今こうしてトップ争いに混ざれるところまで来たのです。先生の触手にこの「賞品」、全力を出さない理由は1つもありません。暗殺者たる者、狙った獲物は殺るのみです!」

 

 A組に決して劣らない、殺る気に満ちた歓声が旧校舎に響いた。

 

◇◇◇

 

「三年の教科担任の皆さんは中間と比べ物にならない程の高難易度をお願いします。もちろん、理不尽な採点などで難易度を上げるのではなく、問題の質で勝負するように」

 

 職員室を巡回しながら理事長は教師達に告げた。それぞれのデスクには難関高校受験用の問題集が積み上がっており、部屋には普段のそれよりも遥かに緊迫した空気が漂っている。

 

「学秀君がE組との賭けを利用してA組生徒の学習意欲を煽っています。これを本校舎全体に行き渡らせ、我が校の偏差値向上への糧にしないという手はありません」

「ご心配なく、理事長。これはもはや試験問題という領域を超越している。私を満足させる答えを出せる生徒はAにすらそういないでしょう。言ってしまえば、これはまさしく怪物、「問スター」です」

 

 僅かに息を荒くしながら言う英語担任に、理事長は「それは素晴らしい」と微笑んだ。

 

◇◇◇

 

 そして試験当日。E組の秘密を暴き、志御を引き戻したい学秀、眼の前の勝負に勝ちたい志御とE組、ヒエラルキーと秩序、自らの教育を維持したい理事長、E組をもう一つ上のステージに引き上げたい殺せんせー、各自の思惑は本校舎、A4二つ折りの解答用紙の上で衝突する。交渉の際に烏間は理事長に「大変だなこいつも」という目で見られたらしい、オンライン授業で律が教えた烏間の上司の娘を利用した、律の替え玉であるにせ律なんていう慣れない存在もいながらも、志御達は烏間やイリーナ、律、そして殺せんせーのエールを受けて闘技場に飛び込んでいく。

 眼の前には「試験問題」という名のモンスター、手には「文房具」という名の得物を握り、普段は暗殺者(アサシン)の彼女達も今日は闘技者(グラディエーター)

 そして開幕の鐘は鳴り響いた。




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