浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第44話 五教科の時間

 瀬尾智也は意地も口も性格も悪い。だが親の仕事で一年LA(ロサンゼルス)にいた際に身に着けた英語力は多くの生徒が一目置いていた。

 そんな彼は今、期末試験英語の最終問題と相対していた。指ぬきグローブを嵌め、手に握るのは中世さながらのウォーハンマー。その武器は皆同じであり、勝負を決めるのはどれだけそれを使い込み、今使いこなせるかという熟練度。その点では、彼は先述の経験を理由に強い自信を持っていた。

 肝心の問題、いやミノタウロスが如き「問スター」は何らかの小説の引用。カッコ1は「自然な日本語に翻訳せよ」というもので、カッコ2が「空欄部分を自然な英語で埋めよ」というもの。小説の難易度もさることながら、この自由度が生徒達を苦しめているのだろうと瀬尾は推測した。

 

「だが、瀬尾智也はこの程度じゃ躓かねえよォッ!」

 

 そう言って瀬尾は強く踏み込み、ウォーハンマーを問スターの土手っ腹に叩き込む。語彙の豊かな、文法的にも完璧な回答が炸裂する。しかし倒れない。手応え的には△といったところ。瀬尾はにわかに目を見張った。「足りてないはずがない」と。それと同時に、愕然とする瀬尾の横をふわりと、一人の少女が風のように駆け抜け、飛び上がった。

 

「お堅すぎだって!もっとリラックスだぞ優等生!」

 

 そう笑ったE組の中村はハンマーの柄の先を慣れた手つきで問スターの頭に突き刺した。瀬尾のものよりも遥かに砕けた雑な英語。だが、その一撃で問スターは見事なまでに砕け散った。「E組如きが満点だと?!」と瀬尾は再び目を見張る。そして問スターを退けた中村は地面に降り立つと、彼の方へ振り向いてニッと笑ってみせた。

 

「おすすめだぜ?サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」」

 

 そういうことか、と伊達に海外にいたわけではない瀬尾は、自身の敗因を察知する。問題文そのものが「ライ麦畑でつかまえて」というアメリカの名文学からの引用だったのだ。故に、求められたのは瀬尾の出したような厳格な和訳ではなく、中村が示した雑で簡潔な口語体による回答であった。そしてそのからくりを突破した渚も問スターの撃破に成功する。再びE組が突破していくのを見てようやく、瀬尾は教師がアメリカ名文学としていくつかの小説を薦めていたのを思い出した。

 

「へいへい瀬尾クン、外国でもお友達作らないと損っしょ。やたら熱心に本を薦めてくるタコとかさ」

 

◇◇◇

 

 暗記こそが勉強の本質であり、理科こそがその暗記が最も物を言う科目である、小山夏彦はそのような確信と、そして暗記において自らの右に出るものなどいないという自負を抱いていた。眼の前に君臨する問スターは巨大な鎧。だが、その一枚一枚を杖から放たれる記憶という名の魔法で剥がしていく。だが、「ダニエル電池が充電できるがボルタ電池が充電できない理由を答えよ」という頭部を守る最も堅牢な装甲だけはまるでその魔法が意味をなさないかの如く鎮座したままだった。「何を覚え忘れた?いや、そんなものはあるはずない」と思考する小山の横を、また別の問スターが通り過ぎた。それも、E組の奥田を乗せて。

 

「本当の理科は、暗記だけじゃ楽しくないんです」

 

 そう言って奥田が杖で鎧の剥がれた、スライムのような頭を撫でると問スターはキラキラと目を輝かせた。「「どうしてそうなるか、君の理由はちゃんと知ってるよ」って伝えてあげたら、理科はすっごく喜んでくれるんです」、そのように笑う奥田を乗せた問スターはその言葉に応えるかのように、自ら全身の鎧を脱いで彼女とともに楽しげに走り出した。

 

◇◇◇

 

 荒木鉄平は敗れ、その剣は無惨に折れてていた。多脚式の戦車のような問スターは「TICAD、アフリカ開発会議の首相会談の回数を答えよ」というもの。アフリカ開発会議までは抑えていた荒木だったが、その回数までは想定外であった。彼は恨み言を言うように、隣で見事問スターを打ち倒したE組の磯貝に声を掛けた。

 

「貴様……社会で俺を出し抜くとは……」

「まさか、たまたまだよ。俺ん家結構な貧乏でアフリカの貧困に少し共感して色々調べてただけなんだ。現地に連れてかれたりもしたけどな」

 

 そう言って笑う磯貝はいつものようなイケメンっぷり。だが荒木は「たかが一問で調子に乗るなよ」と負け惜しみのように呟いた。だが、それはある意味真っ当かつ当然の指摘。テストの成績を決めるのは一問の難問ではなく、いかに全てを取りこぼさないかという総合力に掛かっているからだ。現に今榊原や神崎が鎧武者の問スター相手に薙刀を振るって舞っている国語は難問が無い代わりに一問一問を落とせない熾烈な斬り結びが繰り広げられている。そして、その総合力においては他の追随を許さない怪物が一人、A組にはいた。

 

◇◇◇

 

 数学の時間。学秀は思考していた。数学において彼が相手としてみなしていたのはたった二人。E組のカルマと、妹の志御。二人共中間テストでは100点で、学秀と並ぶ学年1位であり、総合順位でもカルマは学年3位、志御は学年4位。E組という枠を超越する程の才能。だが、そうであっても負けることはない、学秀にはそのように自負していた。事実、志御が以前に学秀以外を指して「じゃない方」と称した通り、この学校で全教科にトップ君臨するのは彼。五英傑はあくまでそれに追走する2位でしかない。死角無く使いこなす5つの武器を以て問スターもE組も完膚無きまでに討ち果たし、そして理事長を支配する、学秀は野望に燃えていた。

 対する志御はいつものように不敵に笑う。兄さんと本気での兄妹喧嘩なんていつぶりだ?ああ、7歳の時パッキンアイスのメロン味取り合った時以来か。そんなことを考えてクスッと笑う志御。今までにないほどのモチベーションを纏うその心は高揚に違いなかった。

 そしてカルマも、いつものように斜に構えていた。目の色変えて本気になるクラスメイトやA組を見て、彼は「勝つってそういうことじゃないんだよね」とカルマは思う。通常運転で、本気も出さず、それでサラッと勝つのこそが完全勝利。それを教えてやるよ、とカルマはフッと小さく笑った。

 

 そして上がる闘技場のゲート。学秀、志御、カルマは得物のサブマシンガン片手に闘技場に足を踏み入れる。最終科目を告げる鐘が鳴り響いた。




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