浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第45話 勝敗の時間

 3日後。E組に期末テストの答案、そして学年順位が届けられた。皆が固唾を呑む中で、殺せんせーの触手は最初に英語へと伸びた。

 

「では発表します。E組の英語1位は……学年でも1位!満点で中村莉桜!」

「おお!」

「早速1勝か!」

 

 学年11位から1位へのランクアップ。教室から歓声が上がる中、中村はドヤ顔で立ち上がり、教壇の方へ歩いていく。

 

「よく出来ました、中村さん。君は少しムラッ気があるので心配でしたが」

「流石に百億かかってっからね。英語に全力注げばこの通りって訳。触手一本忘れんなよ?」

「もちろんです」

 

 そう頷いて触手の一本に「中村予約済み」と書かれた旗を刺し、他の生徒にも答案を返していく殺せんせー。彼女だけでなく、全体的に向上が見られる成績。27位から6位に上がった渚なども大躍進と言っていいだろう。

 

「A組は……学秀君が99点、瀬尾君が95点だね」

「うわあ、やっぱAは取ってくるねぇ……」

 

 中村は「これでギリ勝ちか」と丸だけの答案用紙を見返し、もう一度グッとガッツポーズした。殺せんせーはそれを嬉しく眺め、そして新しい封筒に触手を伸ばした。

 

「次は国語といきましょうか。E組1位は……96点、神崎有希子!」

「お!」

「ですが学年1位は満点でA組浅野学秀!」

「……駄目かぁ」

「いえ、23位から2位とは神崎さんも大躍進です。頑張った甲斐は十分ありましたよ」

 

 そう言って少し複雑そうな顔をしながらも答案を受け取る神崎。「やっぱ全国1位は伊達じゃねえな……」と生徒達は言葉を交わす。

 

「っていうか今回中間よりも難易度跳ね上がってたよな?」

「ああ、ヤバかった。学秀とか、俺達が得意教科にブッパしてる中でこれだぜ?無敵かよ」

「やっぱ志御さんの言う通りだったな。結局浅野学秀を越えなきゃ学年トップにはなれねえんだ」

「……では、次の科目を返します」

 

 そう言って、殺せんせーが次に触手に取ったのは社会科。ごくりと唾を呑んだのは磯貝だった。

 

「E組1位は……97点!そして学秀君を抑えて学年も1位!磯貝悠馬!」

「よっし!!」

「ナイス!!」

「2勝1敗か!」

「リーチ!」

 

 クラスからどっと歓声が上がる中、殺せんせーも「露骨なマニアック問題が多い中でよくこれだけ取りました」と「磯貝予約済み」と旗の刺さった触手の一本で彼の頭を撫でながら答案を手渡した。

 

「次は……理科だ」

「奥田か……頼むぞ……」

 

 そんな風に祈る生徒達の中、特段大きい祈りを捧げるのはもちろん彼女、奥田である。殺せんせーは封筒からぬるりと答案を取り出し、マッハで全員分の答案を確認した。

 

「理科のE組1位は……素晴らしい!学年も1位、奥田愛美!」

「おお!」

「やった!」

「これで3勝?!」

「俺等の勝ちだ!」

 

 大きく沸き上がる教室。殺せんせーはいつの間にか用意していたクラッカーで生徒達を祝福する。賭けの賞品もゲットしてますます有頂天の生徒達。数学を残しながらも確定した勝利に騒がしいクラスの中でただ一人、志御だけは沈黙を保っていた。そしてその隣、カルマの席が空っぽなのに気が付いたのも、渚を始めとする数人だけだった。

 

「最後は数学です。E組1位は……」

「いや、良い」

 

 答案を構え、まさにその名前を読み上げようとした殺せんせーを、志御は止めた。そして彼女は低く、重い、そして少女らしい声で言い切った。

 

「兄さんは満点だ」

「……」

「……志御?」

 

 そう言って志御は殺せんせーの触手から答案を抜き取ると、「悪い」と一言言って教室を去った。生徒の中でその理由を知るのは、律の一人だけだった。

 

◇◇◇

 

 カルマはいつものように、授業をサボって裏山の木陰に寄りかかっていた。いや、いつものように、というのは語弊があった。何も言わず、目を見開き、手には握りつぶした答案。その点数は脳に焼き付いている。そして彼が爪を噛む癖を直そうとして答案を噛んだところで、それは姿を現した。

 

「流石にA組は強い。五教科総合のトップ5の内4人がA組、それぞれの教科もトップ10の内7人はA組が占めています」

「……何?」

「しかし、それも当然の結果です。E組がA組に負けないように努力したのと同じく、A組もE組との賭けに備えて負けず劣らずの勉強を重ねた。それに加えて跳ね上がっていたテストの難易度。これでは怠け者が敵うはずがありません」

「……で、何が言いたいの?」

 

 殺せんせーに背を向け、露骨なため息を吐きながら尋ねるカルマ。殺せんせーはぬるりとその背後に近づき、そしてニヤニヤと笑いながら言った。

 

「これは恥ずかしいですねぇ、カルマ君。君のことです、「俺なら本気出さなくても余裕」とか「手抜きでも勝っちゃう俺カッコいい」とか考えていたんでしょう」

 

 殺せんせーの言葉に、まさしく図星だったカルマはぼっと顔を赤くした。そして僅かに震えながら拳を握るカルマに殺せんせーは「それは自信ではなく過信です」とペタンペタンと触手で頭を撫でたり優しくぺたぺた叩きながら話を続ける。

 

「今回先生の触手を破壊する権利を得たのは、中村さん、磯貝君、そして奥田さんの三人。君は今回、暗殺にも賭けにも何も貢献できず、何の戦力にもなれなかった」

「……」

「これで分かったでしょう。殺るべき時に殺るべきことを殺れない者は、暗殺教室(ここ)では存在感を失っていく。刃を研ぐことを怠ってはそれはもう暗殺者ではなく、場違いで生意気なガキに過ぎないのです」

「……チッ」

 

 そう言って殺せんせーの腕を振り払い、カルマは教室の方へ戻っていった。

 

◇◇◇

 

「やあ、期末テストお疲れ様。学秀君」

「いえ。……それで、何の御用でしょうか」

 

 英語99点、国語100点、社会95点、理科97点、数学100点、総合491点、学年1位。テスト返却中、校内放送で呼び出された学秀は呼び出し主である理事長の下を訪れていた。

 

「個人総合1位キープおめでとう、と言いたいところだが、今回は何やら別の事情があるそうだね」

「……はい。E組と期末テストの結果についての賭けを」

「そう、賭け。つまりは勝負だ。そして、君とA組(君達)はその勝負に負けた。しかもその勝負は全校で噂になっていたね。となると面と向かって断るというのもとてもじゃないが出来ないかな」

 

 「どうする?学校側で庇ってあげようか?」とわざとらしく憐れみながらの理事長の言葉に学秀は苛立ちを隠しながらも「いえ、結構です」とNOを突きつける。理事長は「そうか」と椅子を立ち上がった。

 

「そういえば、学秀君と私の間でも賭けをしていたね。「A組全員トップ50かつ五教科トップ独占」、だったか。達成出来なかったね」

「……」

「しかも、ここからは私にも想定外のことなんだが、どうやらトップ5すらA組で独占できなかったらしいね」

 

 そして理事長は学秀の顔を見下ろして話を続けた。学秀の苛立ちは表に出さない限界点を越えそうになっていた。

 

「君は同い年すら操れず、同い年との勝負にすら勝てなかった。その程度で私を支配するなんてよくも口にできたものだね」

 

 顔を覗き込み、言い放った理事長に学秀の苛立ちは限界点を越え、彼はひどく歯軋りをする。理事長は「残念だが、君のせいで志御さんの本校舎復学は認められないな」と追い打ちした。

 

◇◇◇

 

 志御は、ただひたすらに宙を殴り、宙を蹴っていた。傍らの低木には彼女のスマートフォンが立てかけられていて、その動きは律によってリアルタイムで分析されながら撮影されている。そして爪先が鋭く風を切る中で、姿を現した殺せんせーは「普段のキレがありませんねぇ」と批評した。

 

「悩みがあるなら聞かせてください。私は君の先生なんですから」

「……勝てなかった」

 

 動きを止めた彼女は、うつむいて答えた。

 

「英語も、国語も、社会も、理科も、数学も、何もかも、兄さんに勝てなかった。……本気、出したと思ったんだ。私、今なら本気になれるって……勝ちたい理由があって、勝たなきゃいけなくて、それで、それでも、私は本気になれなかった。本気の出し方、分からなくなっちゃったんだ、私」

 

 感情が荒ぶった時、志御はそのヴェールを剥がす。傲岸不遜で大胆不敵、そんな装甲が剥がれて、年頃の少女のような「浅野志御」が姿を現す。

 

「好きじゃないから、楽しくないからって逃げてる内に本気の出し方忘れて、いつの間にか兄さんは遠くに行ってた。気付かないフリして、でもこうして思い知って、私、私……」

「大丈夫です、志御さん」

 

 その目から涙を溢れさせようとしていた志御を、殺せんせーはぎゅっと、その触手で優しく抱き締めた。

 

「先生は君が頑張っていたことを知っています。クラスの皆が得意教科でA組と戦おうとする中、君だけは全てでA組に勝とうとしていた」

 

 そう言って、殺せんせーは志御のスマートフォンの下に散らばった彼女の答案を拾い上げた。英語98点、国語95点、社会94点、理科96点、数学99点、総合482点、学年2位。それをまとめ、整え、ついた土を払って、殺せんせーは志御に握らせる。志御は僅かに涙をこらえながら、殺せんせーに尋ねた。

 

「……なぁ、殺せんせー。私は勝てる?兄さんを、殺せる?」

「ええ。君の才能を研ぎ澄ませば誰だって殺せます。お兄さんも、お父さんも」

 

 その言葉に志御はまだ涙を浮かべながらも「言質取ったからな」と笑い、そして律と共に教室に戻っていった。

 ひゅおんと吹き抜けた強い夏風。殺せんせーは流れる雲を見上げて呟いた。

 

「勝つこと、負けること、そのどちらもが「力」の意味を知るには余りにも大切な経験です。どうか、君達はそれを若い内に目一杯味わってほしい。かつての私が最後まで出来なかった、何よりも大事なことだから──」




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