浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第46話 終業の時間・一学期

 休み時間を挟んでカルマ、志御が戻って来た教室。「もう大丈夫?」と問いかけた神崎に志御は「ああ。絶対にブチ殺すって決めたからな」と爽やかに笑う。さっきの答案返却から続いてクラスには良い感じの勝ちムードが流れている中で殺せんせーはニヤニヤと笑っていた。理由は簡単、「安く上がったから」である。流石に五教科+総合でトップを取られて6本持っていかれたらいくら殺せんせーでも不味い状況に陥っていたことは想像に難くないが、今回持っていかれたのはたったの3本。これではまだまだ余裕の超破壊生物、むしろたった3本と引き換えに生徒のモチベーションを大きく上げられたのだから安い買い物だ、殺せんせーはそう高をくくっていたのである。

 

「それでは早速暗殺の方、始めていきましょう。五教科トップの中村さん、磯貝さん、奥田さん、どうぞご自由に」

「おい、待てよタコ」

 

 「〇〇予約済み」と書かれた旗の刺さった触手をヌルヌルと揺らす殺せんせーを止めたのは寺坂率いる不良三人衆with飼い主の狭間だった。

 

「五教科トップは3人だけじゃねえぞ」

「いえ、3人ですよ。英、国、社、理、数……」

「は?何言ってんだ?五教科っつったら英、国、社、理……」

「?寺坂君?」

「そして家だろ」

「か、家庭科ァッーー?!」

 

 寺坂竜馬、吉田大成、村松拓哉、狭間綺羅々、家庭科100点、学年1位。殺せんせーは彼等の言い分とそれが導く事態をマッハで推測し、だらっだらに汗を垂らし始めた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ君達!家庭科のテストなんてついでのおまけみたいなもんでしょ?!なんでこんなのだけ本気で100点取っちゃってくれてるんですか君達は?!」

「おいおい、五教科とは言ったけど「どの」五教科かなんて一言も言ってないよなぁ?」

「クックック、全員でやりゃ良かったわ、この作戦」

 

 ガチ焦りする殺せんせー。クラスもなんだかその雰囲気に乗せられ「そうだそうだ!」「家庭科を舐めるなー!」と声が上がり始める。

 

「良いぞ良いぞー!」

「お前も言ったれよカルマー!」

「……っていうかさ、さっきから「ついで」とか「こんなのだけ」とか家庭科さんに失礼じゃね?五教科最強の家庭科さんにさ」

「にゅやッ?!いや、五教科は英、国、社、理、数で……そうですよねE組数学1位の志御さん?!学年2位の志御さん?!!」

「は?どうやって普段私等が生活してると思ってんの?家庭科軽視とか非常識だっての」

「志御さんッ?!」

 

 クラスのツートップ、カルマと志御の離反によって一気に窮地に立たされた殺せんせー。家庭科五教科最強説はクラス全体に普及し始め、声は殺せんせーの必死の抵抗をかき消すほどに膨れ上がる。

 

「いい加減認めろよな殺せんせー!」

「一番大事な家庭科さんが4人トップ!」

「だから合計触手7本!」

「な、なななななな、7本?!7本?!!」

「殺せんせー、俺達は本気ですよ。今回の賭けの「戦利品」も使わせてもらうので」

 

◇◇◇

 

 そして翌日。一学期の終業式。E組は全校集会のときのように本校舎を訪れていた。だが、その心持は少し穏やかだった。そして廊下でA組を見かけた磯貝は学秀に声を掛けた。

 

「あ、いたな、学秀。それにA組」

「……何の用かな、僕達は忙しいんだが」

 

 「お前達の相手をしている暇はない」、と言わんばかりに答える学秀。「おいおい、逃さねえぞ?」と寺坂がその肩を掴んだ。

 

「学秀、期末での賭けの話だ。要求は伝えた通りだが構わないな?」

「ああ、昨日の夕方バッチリ伝えだろ?お・に・い・さ・ま?」

 

 そうやって、心底嘲るかのようにケタケタと笑う志御。学秀の後ろに控える五英傑は引き下がるしかない。賭けに負けた挙げ句、2位の座すらE組の志御が掻っ攫って行った故である。さらにそこに「おいおい、リベンジマッチなら家庭科でも使ってやってみるか?」と追い打ちをかける寺坂組。学秀は少しの間の後に「了承した」とぶっきらぼうに答えた。

 

◇◇◇

 

 旧校舎の窓辺。ビッチだから、タコだからと終業式には臨席しないよう烏間に厳重注意された二人は外に小さく見える本校舎にいる彼等を思いながら話していた。

 

「見事に決められたわねぇ、あの悪ガキ共に」

「ええ。彼等の主張は詭弁すれすれです。それに、私は本当の五教科に全力を注いでほしかった。……ですが、嬉しく思っているのもまた事実です。家庭科は受験に使わない故に、問題の質、内容も教科担任に大きく依存する。そうなると、私の授業しか受けていないE組の生徒達は本来圧倒的な不利があるはずなのです。ですが、彼等は相当な研究を重ねたのでしょう。私の寝首を掻くそのためだけに、あらゆる問題、あらゆる出題傾向を。その発想と努力はまさしくこの「暗殺教室」の生徒としてあるべき姿です」

「……あんたも顔に違わず丸いわね」

「そう言っていただければ幸いです」

 

 そしてイリーナはもう一度本校舎の方に目をやり、「強くなったわね、アンタ達」と小さく呟いた。

 

◇◇◇

 

 終業式。いつもよりざわめきが強いのは私達のせいだろうな、と志御は知覚した。珍しく来たカルマ、結局E組の体育館利用に関する校則改定は通らず、今度はポテチにコーラのアメリカンスタイルで君臨する志御、潮田渚と菅谷創介の間に挟まれる自律思考固定砲台ことにせ律などなど、取り沙汰することも少なくないが、式は普通に始まった。「にせ律が気になって集中できずにクラス最下位だったんだが俺……」と呟く菅谷ですら96位/187位で全体で見れば中間ほど。よくどん底だった彼等をここまで、と烏間は殺せんせーを心の中で労った。

 

「……で、あるからして、皆さんもどこかの落ちこぼれのようにならないように……」

「……」

「……」

 

 いつもの校長の話でのE組弄りもウケが悪い。それも当然で、E組は正真正銘のトップ集団のAとやり合い、そして賭けに勝ってしまったから。E組以外が沈黙し、E組が余裕の空気を纏う中で志御がマイペースに持ち込んで「はーい!相手を侮って無様に勝負に負ける落ちこぼれみたいにはならないようにしまーす!」と返事をすると、ちらほらと噴き出す音とともにA組の羞恥は掻き立てられた。

 そして、それを中継で眺めていた男が一人。何を隠そう理事長浅野學峯である。彼には確信があった。今回の期末は大きな飛躍である、と。分かりやすい勝負の構図、E組に対する屈辱や危機感、それらは生徒の意識を刺激し、一層の奮起を促す材料となる。例え地球の存亡が懸かっているような事態においても、自分の教育理念は正しさを保っている、と。だが、それを破壊しようと目論んでいるのはシステムの根幹であるE組。彼等の向上は教育理念を台無しにする。なれば夏休みの間に手を打とう、と彼は思索した。

 

◇◇◇

 

「一人一冊、夏休みのしおりです」

 

 そう言って殺せんせーが配ったのは厚さ50センチを超えるアコーディオンのような過剰しおり。これだけの重厚感があるともはや燃えなさそうである。殺せんせーいわく「夏の誘惑は恐いですからね」とのことだった。

 

「さて、これで夏休みに入るわけですが、皆さんにはメインイベントがありますねぇ」

「ああ、賭けで奪った「これ」ね」

「ええ。本来は成績優秀クラス、要はA組に与えられるはずだった特典ですが、今回の期末においてはA組とE組でトップ50を独占している状態、つまり君達も優秀クラスです。貰う権利は十分。すなわち!夏休み、暗殺教室特別編!沖縄離島リゾート2泊3日!暗殺夏期講習です!」

 

 そして殺せんせーはもう一度要項を確認し始める。旅行の内容、日程、持ち物、そして触手破壊の権利の行使。一通りを説明し終えて殺せんせーは触手でポリポリと頭を掻いた。

 

「ええ、暗殺対象(ターゲット)として認めましょう。皆さん、よくぞここまでたどり着きました。これだけの条件を整えた暗殺を受けるの、先生は初めてです」

「お……!」

「ってことはもしかしてもしかして……!」

「はい、本当に先生を殺せてしまうかもしれません。そんな優れた暗殺者の皆さんに、先生からの特別な通知表です!」

 

 そう言って殺せんせーは28枚の紙束に何かを書き込んでいく。既に彼等に親に見せる用の通知表は配られていたから、これはE組のためのもの。そして殺せんせーがクラスにばらまいた通知表には、三日月のような笑みが浮かぶ不敵な二重丸が踊っていた。

 

「以上、暗殺教室基礎の一学期編!皆さん見事終業です!」




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